第28話 名付け

 

 

「お兄ちゃん!」


 外に出るとひなが駆け寄ってきた。


「よかった。お昼には戻ってくるっていってたのに、なかなか帰ってこないから……」

「悪い、心配かけた」

「ほんとだよ。え?」


 ひなの視線が俺を通り越して後ろをびっくり目でみる。

 俺もひなの視線ををって振り返ると、たった今出てきたダンジョンの入り口が消えていた。


「ダンジョンの入り口……きえちゃった?」

「ああ、それで遅くなった」


 びっくり目をさらに見開いて俺を見るひな。


「そ、それって、もしかして」

「ああ、制覇したんだ」

「お、お兄ちゃん」


 絶句するひなの手を引いて、急いで家に戻る。予定より遅くなっているが、列車の時間を遅らせれば、今日中に学校にはもどれる。家族に説明もしないと。







 実家の居間にいくと、全員そろっていた。どうも心配をかけたようだ。

 俺は裏山ダンジョンが十階層しかなく、制覇したと伝えた。

 最初は皆俺の無事と、ダンジョンが無くなったことで危険がなくなったと喜んでくれた。


「もう入り口がないのだからJDDS協会にも報告の必要もないし」

「そうなのか?」


 遅くなった昼食を掻き込みながら、説明すると親父が聞いてきた。


「うん、もう入り口が無いし、見たってそこにダンジョンがあったってわからないからね」

「そうだな、勝手に入って勝手に制覇しましたなんていったら、大和が罰せられるんじゃないか」


 爺ちゃんの言葉に皆頷き、ダンジョンのことは協会には知らせないことになった。よかった。


「ところでお兄ちゃん」

「ん?」

「その子猫、なんなの?」

「にゃあ」


 ひなが俺の膝の上から離れない子猫を指さす。


「あ、ああ。誤ってダンジョンに入り込んだのかな。親猫は見当たらなかったから、もしかしてモンスターにやられたのかも」


 とっさに考えた嘘の説明をしたが、家族は信じたようだ。


「じゃあ、うちで飼う?」


 ひなが子猫に手を伸ばすと、「にゃ」と一鳴きしてその手をよけた。


「むー」


 口をとがらせつつ、さらに追いかけると子猫は俺の肩に駆け登る。


「お、おい」

「なんかお兄ちゃんにはなついてるのに、なんでひなをいやがるの?」

「ひな、大和は食事中なんだから、あとにしなさい」


 口をとがらせたまま、一旦は引き下がるひなだが、その眼は子猫にロックオンしたままだった。


「ねえ、名前は? 名前つけようよ。白いしヴァイスとかどう?」


 子猫が俺の顔を覗き込む。


「なんでドイツ語なんだよ」

「ええ、かっこいいじゃん」


 妹がちょっと厨二病くさい件。


 俺がじっと子猫を見ると、子猫も俺を見返してきた。


「……たま」

「にゃあ」

「ええ、何そのネーミングセンス」


 あきれ顔で俺を見るひな。そして子猫に向かって。


「ヴァイスがいいよね。ねーヴァイス」


 しかし子猫は無視をして顔を洗う仕草をする。いい加減肩から降りろよ。


「むー、じゃあたま」

「にゃあ」


 たまと自ら呼んでおきながら驚愕に目を見開くひなの顔がおもしろくて、みそ汁を吹き出しそうになった。


「うそ、そんなはず。……たま?」

「にゃあ」


 再度呼ぶと返事をするようになく


「たまだな」

「たまね」

「たまじゃろう」


 親父、お袋、爺ちゃんがそういうと、ひなが悔しそうな顔をして名を呼ぶ。


「たま」

「にゃお」


 子猫の名はたまに決定した。


 そして家族には聞こえていないが、子猫ガーディアンは大和に告げていた。


『マスター、名前をいただき恐悦至極にございますにゃ』


 と。


 その瞬間、俺の頭の中に【ネームドモンスター】についての知識が浮かびあがった。


 主に与えられる、またそれ以外にも特殊なケースで名を持ったモンスターは【ネームドモンスター】と呼ばれ、通常と異なった力を持つ。


 元コアとガーディアンが融合したというだけで、十分特殊なのだが名前を付ける事でさらに力をもつ。


 【ネームドモンスター】はその名が広まれば広まるほど力は増すのだ。


「まあ、お前の名前が広く知ら占められることはないだろうけど」

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