第132話 新しい職業

 

「だからひーちゃんも宿泊研修に参加したんだ」


 去年までは「勉強教えて、しーのん〜」と泣きついてきたのに、今年はそれがなかったのでどうしたのかと思ったのだとのこと。


 サポート科の実践実習は週一回であまり積極的ではなかったが、「今後はもう少し頑張ろうと思います」と、少し苦笑いをする新井。


 サポート科の医術部の生徒なんだから、戦闘というか魔物であっても殺すことに忌避感を抱くのも仕方ないといえば仕方ないのだろう。


「明日から学内で勉強します。ありがとう鹿納くん」


 ふんす、とばかりに両手を握る。


「そういえば、新しく見つかったっていう職業スクロール。あれいいですよね。ダンジョンでもふもふできるかも」


 唐突に会話の内容を切り替えてきた新井に、なんのことか分からず首を傾げる。


「あ、ずっとダンジョンで探索してたら、ニュース見てませんか?」


 そう言って自分のスマホを操作して開いた画面を見せてくれる。


〝新職業ジョブ召喚師サモナー〟と書かれていた。


「日本では富士の蒼木ヶ原ダンジョンで見つかったそうですよ」


 日本最難関の蒼木ヶ原ダンジョン。あそこは今の所日本で唯一ゴッドランクのアイテムがドロップすると言われているダンジョンだ。

 確か先月六十階層踏破のニュースが出ていた。まだまだ先があると思われ推定B以上でSがあり得ると予想されているダンジョンだ。

 正村の親父さんの《刀鍛冶》のスクロールがドロップしたのもこの蒼木ヶ原ダンジョンだったはず。


 俺は自分のスマホを弄ってニュースサイトを開く。


「絶対にあるはずって、今までもネットの掲示板で言われてましたけど、本当にあったんですね」


 あるはずというか、あって欲しいジョブって奴でテイマーと並んで話題に多く上がるな。


 新ジョブスクロールは日本だけではなく、世界中のあちこちで発見されているが、しばらくW D Aが秘匿していたようだ。

 エピック以下の武技、身体強化、呪文スキルなどは今でも年数個は発見報告されているけど、ジョブは久しぶりで最後は三年、いや四年前か?


 ゴッドの《召喚師》、レジェンドの《召喚の知識》と《召喚術》の他、呪文に相当する各レアリティの《コモンモンスター召喚》《レアモンスター召喚》《エピックモンスター召喚》などが現在確認されていると書かれていた。

 召喚は無制限ではなく、召喚したいモンスターの魔石が必要になるのか。

 召喚モンスターが倒されると魔石は砕け、再利用はできない。ダンジョンから出ると召喚モンスターは魔石に戻るなどの制約があるそうだ。


「いいな、これ」

「でしょう。私モンスター舎のラビットを見て飼うことができたらなって思ったんです」


 いや、あれ見た目は可愛くとも凶暴だから。あ、使役すれば襲われないのか。

 でも《召喚術》があれば、タマとポチを堂々連れまわせるな。


「ぶっ」

「どうかしました? 鹿納くん」

「いや、この《召喚術》のスクロールの価格が」


 アメリカで200万ドルで中東のなんとかという王子に落札されたという記事が載っていた。


「レジェンドでこの価格ってすごいですよね。数が出回れば価格は下がっていくんでしょうけど」


 どどこかのマグロの競りもそうだけど、初ものに異様な価格がつくのはいつものことだが桁がおかしいな。

 しかし、蒼木ヶ原ダンジョンか。行きたいけど夏休みまで無理だろうな。それに今多分すごいことになってそうだし。

 他にもドロップするダンジョンは出てくるとは思うけど、それまでは諦めるか。


 どんなモンスターを召喚したいかという話をしていると、アパートまでの時間があっという間に感じた。

 家族以外と無駄話をするのって久しぶりな気がする。


「鹿納くん、一緒に帰ってくれてありがとう。また学校で」

「ああ、おやすみ。また学校で」


 新井さんがアパートの階段を上がっていくのを見送り、俺は自分の部屋の鍵取り出し開けて中に入った。

 荷物は一旦倉庫に放り込む。整理するにしてもアパートじゃあ狭すぎるので、マイボス部屋でしたいのだが、今日は無理かな。


「お疲れ様でしたにゃ」

「お疲れ様ですワン」


 ドアを施錠した途端、足元からタマとポチが現れる。


「タマもポチもお疲れ」


 玄関すぐに置いてあった転移プレートを持ちあげる。やっぱり魔素が空っぽでなんの反応もない。

 こっちから移動する分には《階層転移》でいけるけど、戻ってくるにはこの転移プレートに魔素を吸収させる必要がある。

 昼までダンジョンにいたから体内魔素はそこまでは減っていないが、転移プレートに俺の体内魔素を移すことってできないのか。


「マスター、《倉庫》に入れておけば魔素を回復できますワン」

「え、そうなの?」


 《倉庫》はダンジョンの中ではなく謎空間にあるのだけど、中に入れたものをダンジョンのリソースに変換できるということはダンジョンと繋がっているので、中に魔素が存在するようだ。


「そっか。じゃあ一応入れておこう。それと、今日のお昼俺だけ旅館で美味しいもの食べてしまったから、今からカウ肉焼いてやるな」


 二匹は食べなくともいいんだけど、食は娯楽で嗜好品って感じかな。


「嬉しいですにゃ」

「ありがたいですワン」


 早速カウ肉の塊を取り出して、調理を始める。肉の焼ける匂いがたまらん。

 こんな時間に食べるのは良くないが、この誘惑には勝てない。

 寝る前にステーキ食ったら胃もたれするかな?


 そんなこともちらっとよぎったけど、レベルアップした十代の若い肉体胃袋にはなんの問題もなかった。


 このゴールデンウィークの探索は収穫があった。レベルもずいぶん上がったんじゃないだろうか。


 中間考査後の体力測定が楽しみだ。



────Ⅴ章 終わり────


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 これにてⅤ章終了です。Ⅵ章の更新までしばらくお時間いただきます。

もう少し内容練りたいと思いますので。

一応Ⅵ章は学校ネタの予定です。

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