第131話 帰りに

 

 

「はい、確認しました。申し訳ないのだけど、ここでは現金のやり取りができないから、一度全額チャージさせてもらっていいかしら」

「それで構いません」


 雨宮の申し出に俺は頷く。手持ちの現金はあるし、迷高専の協会事務所でおろせるしな。


 俺の探索者免許証をノートパソコンに繋いだICカードリーダーに差し込み、入力を済ませるとタブレットをこちらに向ける。

 知良浜での売却金額は十一万八千六百円、税金が引かれて十万六千七百四十円だ。

 境とそんなに変わらないな。向こうも鉱石を売ってないし、こっちも十六階層以降のドロップをほとんど売ってないしな。

 タブレットの【同意する】の文字をタップすると、「チャリ〜ン」という音がなった。

 数秒後部屋の隅に設置された棚の方から、カシャンという音の後にレーザープリンターらしきものが動き出す。雨宮が立ち上がりのプリンターから排出された紙と探索者免許証を差し出した。


「お疲れ様でした。こちらをお渡ししますね。またのご利用お待ちしております」


 そう言って雨宮が礼をする。


「こちらこそありがとうございました」


 こっちも挨拶をして部屋を出た。


 探索者免許証をとりあえずポケットにしまい、プリントアウトされた紙を見る。

【本年度納税額合計】【171,840円】


 階段を降りながら紙を折りたたみ、これもポケットに押し込む。窓口で鑑定料金を支払い解毒ポーションを受け取った。

 スクロールははなから売りに出すつもりだったから、鑑定に出さなくてもよかったかな。いや中身を知らずにオークションに出すと前みたいに変な顔されるしいいか。このポーションも売ればよかったかなと後になって思った。まあまだ鑑定に出していないポーションはあるから次の機会でもいいか。


 ロッカールームから荷物を取り出し、建物の外に出る。ちょうど客待ちのタクシーが停まっていたので駅まで乗ることにした。アパートに着く頃には九時を回りそうだな。これから三時間以上電車に揺られるのか。


 こんなことなら途中でアパートに戻っておくんだったな。

 転移プレートを一週間近く放置していたから魔素ギレで作動しなくなってるんだよ。

 今度放置してどのくらいで魔素が切れるかも確認しておこう。


 ポケットに入れていた探索者免許と明細を財布にしまい直す。探索者ランクEのランクアップ試験を受けるためには、あと百三十万円は稼ぐ必要があるのか。

 エピックスクロールの相場ってどれくらいだっけ。

 スマホを取り出して協会のオークションサイトを覗く。


《斧術》はエピックで☆☆☆星3評価か。エピック星3の最近の相場はっと。

 ……八百万? 直近の《斧術》のオークション落札は一ヶ月前か。価格は。


 ……

 ……

 六百八十万円で競り落とされている。


 これって、売れたら軽く納税金額二回分超えるって、普通はパーティーだから頭わりか。

 しかしさすがエピックスクロール。えっと、じゃあ《治療》のスクロールっていくらくらいするんだろう。


「つきましたよ、お客さん」


 調べる前にタクシーが駅に到着した。スマホをポケットにしまい料金を払って車を降りる。トランクに入れた荷物を取り出してもらって駅に向かった。

 改札を通過したらホームではなく、トイレに入って武器ケースを《倉庫》に収納し、バックパック一つで身軽になってからホームへと足を進めた。








 途中で夕食を済ませ、アパートの最寄りの駅にたどり着いた時は、やはり九時を回っていた。


「ん〜」


 少し凝った身体を伸ばす。まあレベルが上がったおかげかあまり疲れてはいないな。


「あ、鹿納くん?」


 名を呼ばれ振り向くとそこに。


「あ、新井さん」


 どこかに出かけていた帰りか、私服姿の新井志乃が駅から出てきた。


「鹿納くん、宿泊研修の帰り、じゃないよね。駅から出てきたから」

「ああ、ゴールデンウイークを利用して他のダンジョンへ行ってきたんだ」


 暗がりを利用して後ろ手にウエポンケースを《倉庫》から取り出す。武器持ってないのは不自然だからな。


「新井さんも……宿泊研修じゃないよね」

「ええ、弟の面会に行ってきた帰りなの」


 帰る方向が同じなのだから、どちらも何もいわず共に歩き出す。


「新井さんは宿泊研修参加しなかったんだ。サポート科も参加できるよね」

「自由参加だからいいかなって。中間考査が近いし図書館で勉強していたの」


 ん、図書館か。


「そういえば新井さん、図書館よく利用してるけど勉強は学内でしてないの?」

「え? うん。図書館で勉強してるけど」


 俺が変なことことを聞くなあというように、新井さんが訝しげな顔をする。


「だって学内で勉強した方が効率いいだろ?」


 そういうと〝なにそれ?〟という顔をされた。あれ、おかしいな。


「だって────


 ダンジョン内ではレベルアップに応じて身体能力が上がる。俺が正村に言ったように、レベルが上がると身体能力だけではなく、記憶力とか判断力とか頭の方の能力も上がる。

 実際俺は二年度末の勉強は学内施設でやっていた。まあ寮で勉強できる環境ではなかったせいもあるが。そのおかげか記憶力も理解力も上がって勉強したことがするりと頭の中へ入っていった。


「本当はサポート科だって。もう少し戦闘量を増やしてレベルを上げた方が、色々やりやすいはずなんだけど」


 驚いた顔を俺の方に向けたまま歩いていた新井さんが、足元の段差につまずいた。


「キャッ」

「おっと」


 さっと手を差し出し転倒を防ぐ。


「あ、ありがとう」

「い、いや」


 お互い一歩ずつ離れて顔を逸らした。




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 琳太にラブコメは絶対書けないと痛感しました。そもそもラブコメ読んだことないというか読まないので。

 後ちょっとでⅤ章終わります。

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