第130話 疑い


 別室でと言われて連れて行かれたのは、協会の建物の二階だった。

 階段を上がると廊下が左右に伸びており、右側はスタッフオンリーの立て看板が立っていた。

 案内の職員は「ことらです」と、その立て看板の横を抜けて先にあるドアをノックした。


 職員は「亀井です」「どうぞ」と中との短いやりとりをして扉を開ける。

 部屋の広さは八畳ほどで、真ん中に八人掛けの会議用のテーブルがあり、ドアの横ににはデスクトップのパソコンが置かれたデスクもあった。

 中にはすでにスーツ姿の五十がらみの男性が会議テーブルについており、同じくスーツ姿の三十手前くらいの女性がノートパソコンを操作していたが、俺たちが入ってきたことで立ち上がる。


 俺を案内してきた職員が俺の免許証を女性に渡すと、そのまま部屋を出て行った。俺はどうすれば?


「やあ、呼び出して申し訳ない。どうぞかけてくれ」


 そのまま突っ立っているのもなんなんで、言われた通り男の対面の椅子に座る。

 女性の方が受け取った俺の免許証と、テーブルに置いてあったタブレットを正面の男性に渡すと、横に座ってパソコンを操作し出した。


「急に呼び出してすまないね。私はJDDS知良浜支部の蔵下幹二くらしたかんじで、こちらは雨宮園子あまみやそのこという。よろしく」

「はあ、鹿納大和です」


 紹介された女性は無言で頭を下げた。俺も挨拶というか、免許証が向こうの手にあるので名前はわかっているだろうけど一応名前を名乗る。


「その鹿納君は免許取得されてひと月か、誕生日に取得したんだね」


 蔵下が免許証とタブレットの画面を確認しながら話しかけてきた。


「ひと月で知良浜うちの十六階層まで潜り、脅威度7を倒せるなんてすごいね」


「免許取得してからはそうだけど、戦闘訓練は迷高専で受けてますし、モンスターとの戦闘経験も半年以上あるんで」


 まあ最低のHクラスだけどな。

 何が言いたいのか、何を疑われているのかわからないが、ズブの素人ではないということを示すため、迷高専の学生証である端末をポケットから取り出しみせる。

 もしかしてソロで十六階層の探索ができることを怪しまれているのか。


「装備はロッカーに入れてあるので今持ってないですけど、エピック武器を持ってるしそんなに弱くはないつもりです。あっ、十五階層で五菱の探索者に俺の防具では〝十六階層以降は厳しくなるぞ〟とは言われましたけど」


「五菱の探索者と話をされたんですか」


 蔵下の隣でノートパソコンに何かを打ち込んでいた雨宮が顔を上げた。


「はい、行きと帰りは別の人だったけど、挨拶は交わしました」


 彼らに確認を取れば俺が十六階層へ降りたことの確認は取れると思う。

 蔵下がじっと俺を見てから口を開いた。


「実は最近ドロップ品の盗難が頻発していまして」

「俺が、ドロップを盗んだって言いたいんですか?」

「いえ、そういうわけでは。どちらかといえば狙われた可能性を考えています」


 一瞬泥棒扱いされたと勘違いし、立ち上がりそうになったが、すぐに違うとわかり、椅子に座り直す。

 どうもソロ探索者が休息中に荷物を盗られたり、戦闘中に放り出した荷物を持ちさられたりとかがあるらしい。


「特に免許取り立ての新人が、脅されたしていないかとかも確認してるんで。鹿納くんはどうみても十代だしソロだし狙われなかったかなと思って」


 そこで俺は初日の夜営のことを思い出した。


「そういえば十四階層で夜営した時、寝てる俺のテントに入ってきた探索者がいました」

「顔は覚えてますか」


 すかさず雨宮が返してきた。


「えーっと、暗かったし。男五人のパーティーだったくらいしか記憶にないけど」

「どういう状況でした?」


 ポチとタマに起こされたとは言えない。


「えっと、なんとなく気配で目を覚まして、入ってきてすぐだったのか「なにか用か」って聞いたら「うなされてた」とか言ってすぐに出て行きました」

「そうですか。情報ありがとうございます」


 そういうと蔵下が立ち上がる。


「私はこれで失礼するが、査定の手続きはここで雨宮くんがするので。じゃあ雨宮くんあとはよろしく」

「はい、承知しました」


 そして蔵下が出ていくと、雨宮はタブレットを操作して俺の方に向ける。


「手間をとらせて申し訳なかったわ。えっとこれが今回の鑑定結果よ」


 タブレットの画面には〝スクロール・斧術〟と〝ポーション・解毒〟と書かれていた。


「すごいわね。斧術ってエピック☆3でしょう。これは自分で使うのかしら」

「いえ、オークションに出します。斧は俺のスタイルと合わないんで。ポーションは持ち帰ります」


 そういうと雨宮はノートパソコンを操作してから、次にタブレットを操作して俺の方へ向ける。

 タッチペンも渡してきた。


「じゃあここに出品同意のサインを」


 このやりとりも三度めでなれてきた。


「ポーションの方は後で一階のカウンターの方でお渡しすることになるわ。次はドロップ品の売却品ね」


 雨宮はパソコンとタブレットを操作し、再度タブレットを俺の方に向けた。


「これが今回の売却品リストよ」


 結構な数はあったのでリストをスクロールして下まで確認する。


「確認しました。問題ないです」


 タブレットを雨宮に戻すと、ささっと画面を切り替え売却の同意画面を出してきたので同意とサインを済ませた。


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ドキドキするほどのことでもなかった一件。

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