第72話 帰り道②

 予約投稿ミスって1月7日2話更新してます。

 こちらが1話目です。

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「それ、ウエポンケースですよね。日曜も学校で鍛錬ですか?」


 俺の持つウエポンケースを見て聞いてきた。

 土日も学生に鍛錬場は開放されている。その辺り普通の学校が土日に部活をする感じと同じだ。

新学期が始まったばかりで俺が一級免許を持っているなんて、普通は思わないよな。


「いや。ダンジョンに行ってきた。俺四月生まれで一級免許取得してるから」

「え、一般取得したんですか?」


 会話を続けようと、無理して明るく振る舞っている感が否めない。

 こんな時間に一人泣きはらした顔をして、何かあったと言っているみたいなものだ。


「……なあ、悩み事ってさ。全然関係ないやつに話すと楽になるって聞いたことがあるんだ」


 言ってしまった。いくら同じ学校の同級生といえ、流石に踏み込みすぎか。通学バスで一緒になるくらいの縁しかないのに。

 俺の対人嫌悪症、どこ行った?


 それまで明るく振る舞っていた新井さんが、俯いて黙り込む。

 少し前の自分と被るものを感じた。誰にも相談できなくて鬱々としていた頃の。


「……私、弟がいるんです。入院中でお見舞いに行ってきた帰りなんですよね」


 そう言ってポツリポツリと話を続けた。




 四年前両親と弟の家族四人で、父親の実家に行った帰りのことだった。

 悪質な煽り運転にあい、四人が乗っていた車が横転事故を起こした。

 すぐ病院に運ばれたものの母親は亡くなり、弟は脊椎損傷の重傷をおった。


 父親は弟のためにハイヒールポーションを購入したが、外傷は直ったものの脊椎損傷の治癒には至らなかった。


 その後母親の生命保険金を使って治療師の魔法治療を受けたが、これも効果がなかったそうだ。

 協会の治療院ではなく、多少価格の安い自営の治療師を頼ったのが悪かったのだろう、その治癒師はそこまでの重傷者の治療はできなかったのだ。

 けれど魔法の使用は行われたため、金は戻らず弟は治らないまま。


 そこで彼女は自分が〝治療師になって弟を治す〟と迷高専に入ったそうだ。

 元々成績は良かったため、サポート科医学部に進学することができた。

 けれど今年度の《治療》スキルスクロール数は五校全体で一枠しかなく、来年はスクロールがないかもしれないと担任から告げられたそうだ。


 父親は現在少しでも収入を得るため、単身赴任という形で国外におり、弟は父方の祖父母が世話をしてくれているのだそうだ。高齢の祖父母に寝たきりの弟の世話は負担になっているだろうに、いつも自分を労る言葉をかけてくれる。

 寝たきりの弟を見て、自分はスキルを手に入れられるのだろうか、弟を治すことができるんだろうかと不安になったそうだ。





 俺は自分が恥ずかしくなった。意識していたわけじゃないが、自分は学校中で一番不幸なつもりでいた気がする。

 たかがいじめくらい、彼女の置かれた境遇に比べれば屁の様なものじゃないか。


「父も〝また治療が受けられるように稼ぐ〟って頑張ってるのに、私が弱音吐いてちゃダメですよね」

「……いいんじゃね? 弱音吐くくらい。俺だって学校やめようかって考えてたことあるし」


 少し驚いたような顔を向けてきた。


「いやだって、毎年何人も中途リタイヤしてるし、三年度で卒業するやつもいるだろ?」


 あれ、何で言い訳してるんだろう。


「ダンジョン学でトップをとるくらいだから、目標目指して頑張ってるんだと思ってました」


 そんな会話も終わりを告げる。アパートに到着したのだ。


「鹿納君、ありがとう。話を聞いてくれて。クラスメートや頑張ってる家族に弱音は聞かせられなくて」


 クラスメートは少ないスキルを奪い合うライバルだから、弱みを見せられない。本来支えてくれるはずの家族はそれぞれの場所で奮闘している。


 クラスメートがライバルってところは同じだけど、俺は支えてくれる家族がいる。


「俺でよかったら、いつでも聞き役になるよ」


 少し赤みが引いた目を微笑みの形に細める彼女は────


「おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 そして階段を登って行った。

 俺も自分の部屋に入る。電気をつけるとタマが出てきた。


「我々の発生機序に生物としてのそれと異なるため、よくわかりませんが」

「何だよ」

「あれは〝番候補〟ですかにゃ?」

「バッ、何いって、今日初めて喋ったとこだぞ!」


 唾を飛ばして、もっともらしい否定理由を叫ぶ。


「む、体温上昇に心拍数上昇、マスター。体調不良ですかにゃ」

「違うわ!」


 ハーハーと荒い息を吐きながら、しれっと顔を洗う子猫に向かって叫んでいる自分が、ちょっと恥ずかしかった。



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71、72話は後で付け足したんですが、なんか無理やり感が否めません。

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