第47話 五階層の中ボス


「私も大きくなって戦いますにゃ。」


 扉の前でタマがそう告げてきた。


 中ボスは大体その階層の、ボス部屋しかない場合はその一階層前の出現モンスターの脅威度2つ上のモンスターが出る。

 四階層のリトルウルフが3だから多分5のモンスターだ。タマが本来の姿だと脅威度7なので瞬殺しそうな気がする。


 まあいいか。


「わかった。じゃあ扉開けるぞ」


 俺が石の扉を軽く押すと、あとは自動で開いていく。そして後ろで巨大化するタマ。


 中ボス部屋は迷路ではなく、ドーム型の広い空間で明るかった。

 等間隔に松明のようなものが壁際にあり、真ん中に牛サイズのモンスターが一匹鎮座していた。


=【レア・スタティックエレシープ】【魔石30%・皮20%・角15%・毛15%・アイテム10%・上アイテム10%】


 上アイテムって一ランク上のが出る奴だ。ボスは複数ドロップすることがあるので期待してしまう。


「メ”エ”エ”エエェェ」


 立ち上がった途端に雄叫び? を上げると、スタティックエレシープの身体にパリパリっと電気がまといつく。そして頭を低くしてまっすぐこちらに突っ込んでくる。


 なんとなく触るとやばい気がして、横に飛びのいた。タマもスタティックエレシープを挟んで俺と反対側に飛び退いている。


「あれって静電気っていうより、かなり放電してるように見えるんだが」


 刺身包丁は持ち手は木材だが、木は乾燥してたら電気通さないんだっけ?


「行きますにゃ」


 二の足を踏んでいた俺より先に、タマが攻撃に出た。


「ギャワオオォォ……」


 タマがスタティックエレシープに向かって叫び返すと、スタティックエレシープが「ベェッ!」っと鳴いて飛び上がり、纏っていた電気が霧散した。


 タマの雄叫びってスタン効果があったんだな。そういえばびりびりと感電とは違った感触があった。

 って、そんな場合じゃない。硬直しているスタティックエレシープに駆け寄り、左手の鉈を首めがけて振り下ろす。

 しかしスタティックエレシープが「メ”ェッ!」と首を巡らせ、渦を巻く角に当たるよう合わせてきた。


 鉈はガキンと弾かれるが、間髪入れず右手の刺身包丁を振り下ろす。そのときにはスタンの効果が切れていたようで、後ろに跳ねて避けられた。


 が、その避けた先にはタマが待ち構えており、玉の前足がスタティックエレシープの喉元に突き刺さった。


「ヴェエエェェ……」


 断末魔をあげて、スタティックエレシープが黒い粒子に変わっていく。


「タマ、あっけなさすぎるわ」


 せっかくの中ボスだが、俺はダメージを与えられずに終わってしまった。おまけに角に弾かれた鉈が大きくかけている。


「ドロップですにゃ」


 その図体で「にゃ」はやめろや。子猫の時の可愛い声じゃなくておっさん声だぞ。

 なんで念話なのに声がおっさんに変わるんだよ。


=【エピック・武器】《エレホーンソード》=

=【レア・素材】《スタティックエレシープの毛》=


「おお、エピックの武器でた。これ上アイテムだ」


 鞘から抜いてみると、刃の質感は剣というより角だな。スタティックエレシープのグルグルの角をまっすぐ伸ばした感じ。だが刀身は一メートルほどある。


「それは雷属性ですにゃ。多分刃に雷を纏わせることができるはずですにゃ」


 だからその姿で「にゃ」は……もういいや。


「どうやって使うんだろ」


 スイッチのようなものは見当たらないし、多分あれだな。


「体内魔素を剣に流せばいいと思いますにゃ」


 やっぱりそうくるか。まあお約束だな。

 有名なSクラス探索者が炎を纏う大剣を持ってるって話、有名だ。あれはどこかのボスドロップだったはず。


「って言われてすぐにできるもんでもないな。後で練習しよう」


 もう一つはスタティックエレシープの毛か。これでコートとか作ったら雷属性のマントとかできるのかな。


 拾って腹袋の中に押し込んだ。


「じゃあ、裏山ダンジョンで休憩するか。転移するから影に入ってたま」

「承知しましたにゃ」


 しゅるんと子猫サイズになったタマが俺の影に沈む。これで階層転移して裏山ダンジョンのボス部屋へ移動した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る