第23話 トイレ事情

 


 お茶を飲みきって、体操着袋にペットボトルを仕舞う。

 あー、全部飲むんじゃなかったかな。ちょっと催してきた。

 他に人がいるわけじゃないから、その辺でしてもいいっちゃいいんだが。


 探索者用の携帯トイレは沢山のメーカーが販売している。俺は小用しか持ってないが、これは中に高分子吸収体の入った袋だ。女性用というか大用はポップアップテント付きでダンボールを組み立てて使うトイレなんかも売られている。

 今のところ日帰りなんで必要ないが、そのうちいるかもな。女性探索者もそこそこいるが泊まりがけの探索だと大変だろうなと思う。


 制覇済ダンジョンや五大ダンジョンには所々にトイレが設置されている。コインロッカーの様に百円を入れないと扉が開かなくて扉を閉めないと便座の蓋が開かない仕様だ。そして使用後は便座の蓋を閉めないと扉が開かないので、お金を払わずに使おうとしてもできない。

 これは〝スライムトイレ〟というスライムを使った画期的なトイレで、汲み取りが不要なのだ。

 スライムが逃げない様に汚物タンクと蓋に仕掛けがある。蓋を開けている間はスライムのいるタンクが締められていて、蓋を閉めると汚物が汚物タンクに落ちる様になっている。


 因みにタンクの中身が一定量を超えると、お金を入れても扉は開かない。

 スライムが上に上がってくると困るから、中身が減るまで使用停止になるセイフティー機能付き。

 してる最中にスライムが上がってくることもない。開発当初はいろいろ事件が発生したそうだ。なむ。


 誰もいないけど木の影で携帯トイレを使用、ちゃんとウエットティッシュも持ってるからな。

 しかし御用中の探索者は大変無防備である。オムツとか使ってる探索者もいるので、その効果で介護用のオムツも随分改良されたと婆ちゃんが言っていた。

 

「将来のことを考えてたんだよ。婆ちゃんはまだ必要ないよ」


 そう言ってなぜか頭を叩かれたことがある。




 しばらく進むとモンスターの反応があった。やっぱり周辺のは倒し切ってたみたいで、《サーチ》の効果が現れてないわけじゃなくってホッとする。

 モンスター見つけてホッとしている場合じゃないか。


 その後ラビットからハウンドウルフまで、勢揃いな九階層をさまよう様に……じゃなくって《マッピング》で地図を埋める様に歩いて大木の根元のウロに宝箱を発見。樹洞というのか、穴の中に宝箱が鎮座している。


「後ろに回れんだろうが」


 不親切な。横から開けるか、木に登って上から開けるか。

 そういえば《アイテム鑑定》って宝箱に使えるのかな。

 試しにやってみた。


=【レア・宝箱】《鍵なし罠付き宝箱》=


 出たよ。しかも罠付き。でも罠の種類まではわからないな。中身もわからない。

 鍵はない様だから、紐に引っ掛けて……いや無理だな。ギリギリ横から開けて木の後ろに逃げてみるか。


 鉈の先っぽを蓋に引っ掛け、力任せに蓋を押しあげ、すぐに木の後ろへ回る。


 プシュッ……


 異音がしたが、しばらく待つ。十秒ほどして木を回ると手前の草が紫色に変色して枯れていた。


「毒霧噴霧タイプか。もうちょっと待つか」


 罠によって齎された形跡はしばらくすると消える。この枯れた草も元どうりになる。厄介なのは罠の痕跡がなくなるので二度同じ場所で罠にハマることがあるのだ。

 宝箱も中身を取らず蓋を閉めると、次に開けた時も罠が発動する。


「よかった。勢いよく開けすぎて蓋が閉まってたらまたやり直しだ」


 そして宝箱の中身だが。


=【レア・ポーション】《解毒ポーション》=


 罠で毒状態になっても、解毒ポーションで治ると。いや《アイテム鑑定》できなけりゃ中身わからないから使わんし。


 ウエストポーチに入れていた赤い輪ゴムをポーションに巻き付け、ローヒールポーションと見分けをつける。

 ゴムは赤青黄の三色しかないので付箋かシールでも用意するか。


 そしてようやく下り階段を見つけた頃には、帰宅時間が迫っていた。

 下の様子を見るだけ見て帰るか。


 階段を降りた先は、また洞窟っぽい石の壁に戻っていた。

 森タイプは九階層だけだったのか。


 そして曲がりくねったが一本道の先に五階層でみた石の扉より、さらに大きい扉が鎮座していた。

 ここまで《サーチ》にモンスターの反応はない。扉の向こうにも。


 熟練度の低い《サーチ》にはボスは反応しないのだ。


「明日だな」


 俺は来た道をひっかえす。


 

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