第30話 新居という名のボロアパート

 


 ダンジョンに通う探索者が短期で借りることが多い、マンスリータイプだ。

 探索者や迷高専の学生相手だと減税対象にもなるので、この家賃は探索者価格だそうだ。


 学校から出る補助金は五万円。交通費を差し引いてもすこし余る掘り出し物件だった。りょうでは朝夕の食事が格安で食べられるのでその代わりだろう。


 まあ、ダンジョン周辺はスタンピードのこともあり、固定資産税が安いそうだ。その代りスタンピードは火災保険や地震保険の適応外なんだ。


 引っ越しといっても段ボール二個の荷物しかなかった。家具とかは寮の備付だったから。

 引っ越し先のアパートは1Kトイレシャワー付きだが湯船はない。元は六畳トイレシャワーなしの部屋だったが、リフォームでトイレとシャワーがついたそうだ。部屋は四畳半に縮んだが、俺には十分な広さだ。


 ベッドはないがネットショップで五千円の布団セットを購入した。

 エアコン、洗濯機、電子レンジに小型だが冷蔵庫もついてこの値段は非常にありがたかった。

 キッチンというほどの広さはないが、一口コンロもあり、湯は沸かせるのでカップラーメンも作れるし、レトルトカレーも温められる。


 いや、料理もそこそこできるぞ。探索者は長期潜ることもあるので、調理できるほうがいいのだ。

 ダンジョン内でとれる食材もあるんだ。

 ちゃんと家庭科の授業もあるからな。家庭科というかキャンプ調理だけど。


 一応ペットに関する内容はなかったが、不在時に留守番させるわけでもないし、糞しないし爪とぎもしないから。 


 アパートの鍵を開けて、真っ暗な室内に入ってすぐにあるはずのスイッチを探す。

 帰省前に荷物を運び込んだだけの部屋は全く生活感がない。


 夕食用にはお袋が弁当を作ってくれたので、途中のコンビニで2リットルペットのお茶だけ買ってきた。


「段ボールの中身を先に開けてしまうか」

「狭い部屋ですにゃ」


 今までのように独り言を呟いたつもりが、返事が返ってくることに(内容は合致して無いけど)なんだかこそばゆいおいうかなんだか不思議な感じがする。


「ダンジョンの中の方が快適に過ごせますにゃ。ダンジョンに生活の場を作ってはいかがですかにゃ」


 マスターは〈階層転移〉で自分のダンジョンならどこからでも、自分にじゃないダンジョンなら行ったことのある階層に転移できる。ただしここへ戻ってくる手段がないから無理な話だ。

 このアパートはダンジョンじゃないからな。

 マスタースキルの階層転移はダンジョンへ転移するがダンジョン外へは転移できないのだ。

 自分のダンジョン以外でも、一度でも訪れた階層なら階段前に転移できるのはいいな。

 引っ越しに荷物を運んだだけで一度も住んだことのない部屋は殺風景で〝家〟という感じはない。

 まあただの寝床だ。


「そういえば、ダンジョンの入り口って室内に設置できないんだよな」

「大地に接触していなければ、無理ですにゃ」


 ダンジョンは地球上に存在しているわけではない。

 ダンジョン異界説があるが、あれはほぼ正しかった。ダンジョン自体はこの地球上にない。じゃあどこにと言われてもそれはわからない。ダンジョンマスターの知識にないからだ。


 入り口だけを地球上につないでいる。誰がなんのためにとかそういうのもわからない。

 ただ、マスターは〝ダンジョンを運営してリソースを集め、ダンジョンを大きくする〟という使命だけがあるのだ。


 このシステムを作った何某が、運営するダンジョンマスターにも、ダンジョンに入る探索者人間にも教える必要はないと思っているんだろうな。


 コアに至ってはそういうものと疑問も持たないようだ。


 段ボールの中は服しか入っていない。教科書は専用のタブレットなので紙の本はないし。

 どうしても紙がいいという奴向けに購入することもできるし、図書室で借りることもできる。


 俺は電子書籍で十分だ。


 明日は始業式と、スクロールの配布、午後は取得スキルの実地テストだ。

 すでにスキルを持っている俺にはスクロールの配布はないかもしれない。

 放課後に図書室のPCで日帰り距離にあるダンジョンを探そう。

 特に裏山ダンジョンモフィ=リータイで出たもふもふモンスターと同じモンスターが出るダンジョンだ。


 放課後や土日に潜って、俺が持ってる素材を紛れ込ませて売りたい。ちょっと良い武器買いたいな。




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5話とか言いながら全然終わりません。10話くらいまで続きますのでお付き合いくださいませ。


 

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