第157話 納税金額が


 アンガーオーストリッチを倒して鍵を手に入れたが、十五階へは向かわず六階層から九階層までのフロアを探索することにした。

 現れたのは鳥系のレアモンスターばかりだ。


 部屋は洋室だからってことじゃないが、今までの畳の部屋より広かった。

 上に上がることで、全体に広がっているだけじゃあなく、部屋の大きさも少しずつ広がっていくのかな。


 廊下に抜けるまでの部屋数も四階層までより多かったが、途中で他の探索者に鉢合わせすることもあった。


 そのせいか、六階層以降では宝箱は見つけることはなかった。

 みんな最初の四階層までは無視して登ってきていたから、この辺りを探索しているんだろうな。


 一日目の探索を夕方までで一旦切り上げて、日帰り探索者で混みだす前にドロップ品を売ることにした。

 塔タイプは外に出るのに手間がかからないけど、帰還オーブがないので《階層転移》が使いにくいのがちょっとな。

 何気に廊下と階段を移動するんだけど、六階層から上は廊下で小休憩している探索者がいるから。


 しかし六階層以降のドロップも渋かった。

 レアモンスターからスクロールを二個ドロップしたんだけど、一つが《加工》だったんだ。


 最近加工の星が下降修正されたそうだが、原因は永岡天満宮ダンジョンのせいか?

 ここ制覇されたらドロップが減るから、ここだけってことはないか。


「ドロップや宝箱の個別指定ってできなかったと思うんだけど、マスターレベルが上がればできるのかな」

『可能性はありますにゃ』

『頑張ってあげていきましょうワン』


 六階層以降の探索では他の探索者と鉢合わせすることがあったので、タマとポチは隠れたままだ。


 もう一つのスクロールはコモンの《縫合》だった。

 倉庫に入れたままのレアスクロール《裁縫》の下位互換で、縫うことができるというやつ。縫うことだけに関しては《加工》よりは上になる。


 アイテムも出たがスキル消去オーブが二つ。全部で三つ手に入れたことになる。


 レアモンスターから連続コモンドロップっていうのは萎えるな。中ボスでさえ下位ドロップだったし。消失推奨なのはこういうところも地味に関係するんだろうな。


 スクロールとスキル消去オーブ以外のコモンドロップは、ほぼ売りに出すことにした。

 魔石と爪と嘴に羽もあるが、コモンは錬金の素材としては付加効果がほとんどない。葉山副部長は「できればレアが欲しい」と言ってたし。

 売りに出しても安いけど。


 六階層から九階層までのレアドロップのうち、魔石は半分リソースへ回す。

 六階層以降に出たのは驚異度4のレアモンスター、斬り裂きツグミスラッシュスラッシュ強奪小鴨スティールコモンティールとどちらもダジャレかい! と、突っ込みたくなる名前のモンスターだった。


 さらに驚異度4の室内百合鴎ルームヘッデッドガルやら驚異度5の攻撃鵲アサルトマグパイと、斑鴉ラッシュクロウが出た。


 レアなだけあって風魔法やらスキルやらを使ってきた。まあ飛行モンスターなのに室内ってだけで、モンスターには不利な環境じゃないかとは思う。

 

 ルームヘッデッドガルなんかは口から水弾飛ばしてきたしな。

 この辺りの羽やら爪やらはいくつか素材としてキープした。あと肉もドロップしたんだが、鴉とか食べれるのか? 食べられるんだろうな。

 俺は遠慮しておくけど、タマとポチにあげよう。


「鹿納様、以前オークションに出品された際の代金の受け取りがまだのようですが」


 査定のため免許証を提出した際に、窓口の人に言われた。

 オークションの締めはとっくに終わって、入金も済んでいるだろうと分かっていたけどテスト期間だったから放置していた。

 学校の事務所でも手続きできたんだよ。でもなんとなく学校でやりたくなかったんだ。


「こちらが明細になります」


 プリントアウトされた用紙を差し出される。えっと落札金額は。


「二百八十九万円?」


 確か前に検索した時は、《斧術》は八百万円くらいで落札されていたような。いやでもエピック星3のスクロールの相場は三百万円前後だから、おかしくはない。

 前に調べた時の金額がおかしいんだよな。偉く高額落札されていたようだけど、どうしても欲しかった探索者がいたのだろうか。


「えーっと、全額チャージでお願いします」

「わかりました。税金と手数料を差し引きしまして二百四十五万六千五百円を、全額チャージさせていただきます」


 チャリーンと、チャージしたさいの電子音がなる。それでも二百万円を超えたのだから。

 たった一本のスクロールが、今までの収入を軽く超える。これがみな探索者を目指す理由でもあってだな。


「鹿納様は、規定の納税額を納められましたので、昇格試験の受験資格が得られます。試験についての説明を希望されますか」


 少し混乱していたが、係の人が淡々と説明を続けることで我に返った。

 これくらいの金額は驚くほどのことじゃあないってことかな。


「え、あ、いいです」


 試験については学校でも教えられているので、あえて必要ないから断った。


「はい、では受験申請書を交付されますか」

「いえ、今はいいです」

「受験申請書の交付はどこの受付でも可能ですので、必要な時に申し出てください」


 一気に納税額が増えてランクアップ試験の受験資格に到達してしまった。

 今日の分の査定はこれからなのに。


 差し出された用紙の金額を見て、ハッとする。


【本年度納税額合計】【464,420円】



 ……やばい。母さんに連絡しないと。扶養家族から抜く手続きとかいるんだよなこれ。



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 前回の《斧術》の落札額がおかしかったんですよ。

 そして大和は個人事業主となって年金やら国民保険やらを……

 スクロールの相場を若干下方修正しています。

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