第156話 永岡天満宮ダンジョン⑥

 気がつけば投稿開始から一年経ってました。

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「ッツ!」


 ひと蹴りで目前まで移動してきたアンガーオーストリッチのスピードに驚愕しつつも、しゃがんで伸ばされた脚を掻い潜る。

 通り過ぎたアンガーオーストリッチは、畳をえぐりながら停まったが、すぐにそのまま走り出す。


「なんだ?」


 部屋いっぱいを使って走りながらUターンしつつ、10メートル手前で勢いよく加速する。

 今度は前に伸ばされた脚に狼刀を合わせ斬りつける。


 ガキョン!


 ダチョウの大きな脚の爪は、狼刀の刃とぶつかり、嫌な音をたてた。


「ッセイ!」


 力を込めて刀を振り切るが、なんとダチョウはその力を利用して後方に飛んだ。


「振り向けないが、後方に飛ぶことは可能なようですワン」


 そう、この怒れる駝鳥アンガーオーストリッチは、振り返ることができないようだった。

 前にしか進めない、訳ではないか。さっき俺の刀に合わせて後方に飛んだしな。

 しかし奴の脚の爪は頑丈すぎる。


 何度も蹴りを放ち脚に注意を集中させておいて、頭突きと嘴攻撃も混ぜてきた。

 接近して狼刀を振るうが、脚で受け止められたり、嘴で弾いたりされた。


 そして緩急をつけた突進。

 最初のロケットスタートは助走も予備動作もない。


「あれはスキルですにゃ」

「しかも脚に風属性を込めてますワン」


 参戦したくてウズウズしているタマとポチからアドバイスされる。


「ギャワッ!」


 変な鳴き声に嫌なものが背筋を走る。思わず飛び退くとさっきまで立っていた場所の畳が深々と抉れる。


「魔法攻撃、だと?」


 アンガーオーストリッチが放ったのは風魔法の風刃ウインドカッターと思われる。

 ウインドカッターは軌道が読み辛い。

 あまりモタモタしていると、攻撃を喰らいそうだ。


「仕方ない」


 狼刀を収納しダブルファングと持ち変えると、一気に距離を詰める。

 向こうも同じく突っ込んできたところ、俺は直前で軌道をずらした。


「〈ラッシュ〉」


 すれ違い様、アンガーオーストリッチの首元目掛けてスキルを放つ。

 左右あわせて六回繰り出された攻撃は、太い首を切り刻んだが、切り落とすまでは至らなかった。

 反転できないアンガーオーストリッチは、そのまま惰性で進むかのように数歩足を動かす。

 もう一度狼刀に持ち替えて、ボロボロになった首元目掛けて振り下ろすと、アンガーオーストリッチの頭はクルクルと回りながら飛んでいった。


「よし!」


 黒い粒子に変わっていく様をみて拳を握る。


「お疲れさまですにゃ」

「ご無事で何よりですワン」


 2匹は待機していた扉近くを離れ、近づいてきた。


「ヤマト様は、まだまだ危なっかしいですにゃ」

「あー、魔法使ってきた相手は初めてだったから」

「エピックモンスターは属性持ちが多いですワン。これより先に進めば魔法攻撃も増えますワン」


 確かにエピックモンスターは属性持ちがほとんどだ。

 知識としては知っているが、属性持ちとの戦闘についての授業は三年度二学期以降で、戦闘についてもさらっとしか習ってないんだよな。


「その辺り先に練習したほうがいいかな」


 会話というより独り言を呟きつつ、ドロップの鍵を拾う。タマとポチも前回同様前足を鍵の上に乗せた。


 もう一つのドロップは迷宮道具? いや装飾品かな。輪っかにダチョウの羽が刺さっている。


【エピック・装備品】《猛進の羽飾り》アンガーオーストリッチの羽飾りつき鉢金/スキル〈ダッシュ〉/装備効果:移動速度1.5倍、反転不可=


 鉢金ってことは頭部用防具なのか。え、これ頭につけるの? 大きなダチョウの羽がついてるんだけど。


「前後の指定はないのか。羽を正面かサイドに持ってくるのか」


 これとブルマントをつけると、昔の間違った認識のネイティブアメリカンか、どこかの漫画のお笑いキャラクターのようだ。


「速度が速くなっても、反転不可って振り替えられないってことだよな」

「アンガーオーストリッチが大回りをしていた理由が、それのようですにゃ」


 体を反転できないからぐるっと回るしかないってことか。スキルの〈ダッシュ〉が使えるって良さげだけど、デメリットが凄すぎるな。


「うん、ないわ」


 能力もだけど見た目もな。


 ちょうど区切りもついたのでそろそろ昼飯にしようと、登り階段へ向かう扉を抜け、扉が閉まったところでマイボス部屋に転移する。


 昼食はカウ肉を使った肉じゃがだ。

 肉5:じゃがいも2:にんじん1:玉ねぎ1:糸こんにゃく1という、肉ゴロゴロ肉じゃがだ。

 味付けはすき焼きの素だけで作れるお手軽料理である。


 食後休憩をしていた時、ふと思いついたことを確認する。


「エピックモンスターが属性持ちが多いってことだけど、タマとポチは属性持ってるの?」


 戦ったときはどちらもそれらしい魔法攻撃はしてこなかった。


「私は光属性ですにゃ」

「吾輩は闇属性ですワン」

「どっちも魔法攻撃してこなかったよね」

「ダンジョンボスだった頃の意識はありませんからにゃ」

「なぜ使わなかったかは、わかりませんワン」

「そっか」


 現在の思考というか意識はダンジョンコアのそれだからかな。

 けどタマとポチの中の悪い原因の一端がわかった気がする。



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なぜかお笑い装備ばかり増えていく気が……

ドロップはダチョウの羽扇(スキル〈ウインドカッター〉付き)とどっちにするか悩みました。




 

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