第21話 下を目指す
じりじりとお互い伺いあう。
今度はこちらから行かせてもらおう。
勢いよく飛び出すと、向こうも噛みつこうと大口を開けて飛びかかってきた。顔目掛けて鉈を水平にハウンドウルフに向かって振う。しかしハウンドウルフは鉈をガキンッと咥え、引き抜くこともできなくなった。
「ばかめ」
動かせない鉈を引っ張りつつ、刺身包丁を首元目掛けて振り下ろす。
ウルフがそれに気付いて鉈を離すが、すでに刺身包丁の勢いは止まらず首を中程まで切り落とす。
すぐに後方へステップで距離を取るが、ハウンドウルフは黒い粒子に変わっていった。
「ちょっとガツって手応えが……あ、包丁ちょっとかけてるぅ」
貰ったといえ、刺身包丁の手入れには爺ちゃんのチェックが入るのだ。これ泣かれるかも。
刺身包丁は切れ味いいけど、骨とか断つにはちょっと向かない。出刃包丁ほどの厚みはないのだ。
「逆の方が良かったかな。でもハウンドウルフに咥えられたら欠ける気がしたんだよな」
その後何度かのモンスターとの戦闘でいくつか戦法を試してみた。
首を狙うなら振り下ろしではなく、下から振り上げてみたりとかするが一撃とは行かない。
どっちもダンジョン武器じゃないからな。
ダンジョン武器でも剣に分類されるものは西洋剣と日本刀タイプがある。
海外では圧倒的に西洋剣だが、日本では一部熱狂的な日本刀ファンがいる。
ただし、本物ではない。本物の日本刀は作るのも大変だし、値段もすごい。
何より素人が使うとすぐ曲げたり折ったりかけたりする、使い手を選ぶ武器だ。
今出回っているのは形だけ真似たダンジョン専用武器。
玉鋼を使ってないし折り返し鍛練とかもされてなくて、西洋剣と同じ作り方。
そんなの役立たずだと思われるが、材料にドロップ品素材を使うことで本来の日本刀並み、いやそれ以上の刀ができるのだ。
そしてそのドロップ素材が、牙と爪である。
=【レア・素材】《ハウンドウルフの牙》=
「これ持ち込みで刀作ってもらいたいな」
持ち込みだと安く作ってもらえる。だけど持ち込みを受け付けるのは個人の鍛治師で、企業は受けてない。
職人コースの生徒に頼むこともありか? でも職人コースに知り合いいないんだよな。
いつか日本に僅か三人しかいない刀鍛冶スキルを持つ鍛治師が作ったダンジョン武器を手に入れるのが夢だ。
ハウンドウルフの牙と爪をジャンピングワラビーの腹袋にしまい、下り階段を探すため探索を再開した。
ここにきて《マッピング》スキルの熟練度が上がった。
ステータスとかないからそういう確認はできないけど、マップの記憶範囲が自分を中心に半径一メートルから三メートルになったのだ。熟練度Ⅱで三メートル、Ⅲだと五メートルになる。もう少し先まで見えると探索も楽なんだけどな。
九階層への下り階段がなかなか見つからない。
八階層まで降りてくるのに四時間、昼休憩を挟んで八階層探索に二時間。十八時までに帰ろうと思ったらあと二時間は探索できるかな。
腕時計は邪魔になるので、時計は懐中時計型。ネットで見つけたナースウォッチだ。文字盤の上下が逆でポケットとかにぶら下げて使う奴。
時間は二時を回ったところなので、下り階段の探索を続けることにする。罠を警戒するせいで探索に時間がかかってしまう。
余裕があればマップ制覇して宝箱とか見つけたいが、八日には寮に戻らなければならない。探索期限は明後日の昼までになる。目標は十階層のボス。中ボスかラスボスかはわからないけど、ボス戦で得られる経験値は同じ階層モンスターの十倍だと言われている。
あと二日でそこまでいけるだろうか。いや行ってやる。俺は強くなってあいつらを見返してやるんだ。
そうしてようやく九階層への下り階段を見つけたが、タイムアップで帰宅する時間となった。
「ちょっとだけ、チラッと見てから帰ろう」
自分に言い聞かせつつ、階段をりる。
そこは今までの洞窟状の岩壁ではなかった。
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