第143話 中間考査

 

 

 下クラスは俺のように、座学で底上げしてボーダーラインを乗り越えたものもいるため、クラスメイトのペーパーテストに向かう姿勢の違いが、如実に表れている。


 座学に重きを置いていない生徒であっても、流石に赤点を取れば進級に差し支えるので、テスト前に最後の詰め込みをやっている。

 まあ、数学は数式を覚えてさえいれば、半分はいけるんじゃないだろうか。


 そうして月曜から始まった試験は午前中に三教科を行い、午後は実技テストになる。

 俺は体術と剣術を専攻していたが、体術は人数が少ないため教官相手に模擬試合を行う。

 模擬試合というか、無手組手だ。柔道のように掴んだりとかはないので空手に近い?

 今回の試験内容は、教官の繰り出す技を払う試験。


「ではいくぞ」

「はい」


 教官が繰り出す拳を止めずに払う、徐々に攻撃の速度が上がってくるが、時には上半身を逸らし、足捌きも加えてギリギリでかわし、払い見極める。


「む!」


 教官が短く唸ると、攻撃が繰り出されれ速度がさらに上がった。

 なんだか前の生徒の時より早くないか?

 パパンパンッと、教官の攻撃を払う連続音がなり、各自練習をしていた生徒もこちらに注目する。


「そこまで!」


 教官の終了の声で、手を止める。


「あ、ありがとございました」


 礼をして下がろうとした時、教官に呼び止められた。


「鹿納、ゴールデンウィークは宿泊研修に参加していなかったよな」

「はい、個人でダンジョンへいってました」


 教官が少し考え、言うか言うまいか悩む素振りを見せたが逡巡は僅かだった。一歩近寄るとすこし小声でたずねてきた。


「レベルアップだけじゃないな。ゴールデンウィークの前と今とで違いすぎる」


 えっと、スキル取得は解禁されてるから、いいんだよな。


「その、実は《戦技の知識》を手に入れることができまして……」


 職業スキルはレジェンドが主だが、エピックもなくはない。だけど《戦士》の職業スクロールはレジェンド星1なので、ここはエピック星1の《戦技の知識》を手に入れたと言っておくことにした。


「ああ、なるほど」


 納得したとばかりに頷く教官。


「知識はそれ相応の鍛錬もしないと上達しないが、頑張っているようだな。すでに上クラスレベルになってるぞ。短期間でよく頑張った。他もこの調子で頑張れよ」


 そう言って背中を勢いよく叩かれた。まあ、去年の俺だったら痛みに蹲るレベルの〝気合い入れ〟だよ。

 本当に教官ってさまざまと言うかピンキリというか。

 実技の授業を担当する教官は探索者というだけでなく、何らかの武術経験者だから、その辺りのとは違うんだろう。


「あざーっす」


 再度礼をすると、体術の教官は俺が最後の試験者だったことで鍛錬場を去っていった。

 実技試験は上クラスと下クラスに分けて行われるが、下クラスの試験日には普通科とサポート科も含まれる。三年度で体術を専攻している普通科とサポート科の生徒はいないから、Hクラスの俺の後はいない。 

次の剣術試験の場所に向かった。







 剣術の試験は、人数が多いため結構時間がかかっている。しかも教官相手ではなく、生徒同士の模擬戦だ。

 俺はHクラスだからまだかかりそうだな。


 どこかに座って待つか。


「あ〜、ヤマぴんやんかぁ、おひさ〜。連休どないしてたん?」


 聞き覚えのある怪しい関西弁にふりむくと、顔色の悪い正村が力なく手を振っていた。


「正村、そんな状態で試験大丈夫か?」

「ああ〜、ちょっと試験勉強の加減でなぁ。けどヤマぴんのおかげで今回はいけそうや。おおきになぁ」


 先週末から、鍛治を封印して必死に試験勉強をしているそうだ。いや先週末からって、もっと前からやればよかったんじゃあ。


「一人やったらこない勉強するん、無理やったけど、しーのんにもちょっと手伝うてもうたし。あ、しーのんもヤマぴんに感謝しとったで。暗記が捗る言うて」


 えっと、しーのんって新井さんか。やっぱり新井さんに勉強見てもらったのかな。


「彼女治療師専攻だろ。あんまり邪魔しない様にした方が」

「うん、わかってる。でも今度誕生日来たらウチらも免許取って大坂ダンジョンでレベル上げしようっちゅう話もしててな」


 三年度生は仮免しか持っていないから、教官なしで探索ができない。放課後の探索が許可されるのは一級免許を取得した四年度から。だから三年度生は二階層の鍛錬場止まりだ。

 サポート科も放課後の鍛錬をすることは可能だが、大体は専攻の実技に時間を使う。


 だが、レベルアップの必要性に気付いた(というか俺が教えた)二人は、俺と同じように授業外でレベルアップをするつもりのようだ。

 サポート科は探索の実践授業数が少ないので授業だけでレベルアップするには時間がかかる。


 特に正村は探索者を目指していないが、勉強のために早急にレベルアップが必要と考えたようだ。

 一方はより上位の成績を取るためだが、一方は赤点を免れるためという、なんとも両極端な二人だが。


「しーのんの誕生日は六月やけど、ウチの誕生日七月なんや。あ、プレゼントは随時受付とるで」


 それはどうでもいいが、サポート科の二人だけで行くのか? 正村は武器術の授業をいくつも選択してるから、戦闘に関してはそこそこやれるのか。

 

「次、鹿納と鈴木」


 会話の途中で剣術の教官に呼ばれてしまった。


「わるい、呼ばれた」

「うん、きばりーや」



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 改稿作業をしてて、WEB版の誤字だけでなく、設定のおかしなところとか結構見つかっているのですが、ちょっと余裕がなくって修正に手を出せておりません。

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