第67話 生狛ダンジョン深層①


 トナカイ以外はライズアップシープとビープシープ。モコモコトリオだ。

 罠は槍衾スピアーズだ。これは引っかかると無傷で交わすことは難しい……ハズなんだが。


「ひらっとにゃ」


 なんだよその「ひらっとにゃ」って。「ひらっと」に「にゃ」はいらんだろう「にゃ」は。


 タマはわざと罠を発動させて、器用に避けた。子猫サイズだから槍と槍の隙間に身体を潜らせられるが、俺にはというか人間のサイズ的には無理だからな。

 いやタマだって本来の大きさなら無理だろう。


 槍衾はスイッチの周囲に十本ほどの槍が下から……とは限らないようで、二つ目は横から突き出した。


 下からと違って槍の上下に避けられる隙間がありそうだが、罠によって位置が違うので、発動してから避けるにはかなりの反射神経と回避能力がいりそうだ。


「マスターはあのマントを装備しないのですかにゃ」


 ブルマントか。回避能力上昇中の効果付きだが、他の探索者にマントつけてるとこ見られたくなくて、今回つけてないんだよな。


 日付が変わるあたりで探索をやめて休むことにする。今日はマイボス部屋ではなく、十階層で休む予定だ。他の探索者に姿を見せておく必要もあるので、野営用の荷物が入ったバックパックを《倉庫》から取り出し背負う。


 九階層の下り階段前に転移してあたりを探る。

 十階層には誰もいなかった。


「あの三人は、五階層に引っ返して休んでるのかな」


 だったら必要なかったかもしれないが、もしかして夜中に上がってくることもあるかもしれない。

 

 レジャーシートの上にドロップ品の毛束を敷き、その上にドロップ品の皮を敷いて寝床を作る。


「おー、ふかふか」


 ポップアップテントは使わず、その上にケットをかぶって横になる。


「ではお休みなさいませにゃ」

「おう、お休み」


 タマはケットの中に潜り込んで丸くなった。生狛ダンジョン内の気温は寒いってほどではないが、タマが湯たんぽのようで暖かかった。






「マスター、人がきますにゃ」


 そう言ってタマに起こされて、眠い目を擦りつつ起き上がる。

 あ、寝過ぎたか。時計を確認すると九時を回っていた。

 起き上がってバックパックを探り、使い捨ての紙おしぼりを取り出し、顔と手を拭く。

 使い捨ておしぼりは便利だけど、拭き心地が今一つだ。


「お、先客だ」

「また負けたのか」

「あれ、君昨日の」


 やってきたのはあの三人組だった。


「かーっ。ボスの挑戦権は先着順だからまた負けたのかよ」


 んん、挑戦権?

 彼らの言葉にボス部屋を振り向くと、扉がしまっていた。寝てる間に十階層の中ボスがリポップしたようだ。


「あー、その、あれです。挑戦権譲ります。俺はここから引き返すつもりだったので」

「え、まじ」

「いいの譲ってもらって」

「さすがに十階層ボスをソロ討伐って無茶だよな」


 挑戦権は早いもの順、だが譲ることはできる。この時に金銭のやり取りをすることもあるんだが、俺は休むためにここにきたふりをした。


「見返りは?」


 当然そう聞かれた。


「俺、無茶して突っ込んで死にたくないから。ここは休むために来ただけで」

「そっか、じゃあ遠慮なくいただくわ」


 彼らはそう言って、ボス戦の準備を始めた。それを横目に朝食のおにぎりとお茶をリュックから出して食べ、終わると寝床を片付ける。


「へー、シープの毛か。結構たくさんあるね」


 三人組のうちの一人がドロップ品をまとめているところを見て声をかけてきた。


「これのおかげ。やっぱり武器で全然変わる」


 腰にエレホーンソードを装備しながらそう返事すると、後ろから同意の声が上がった。


「だよなあ、やっぱりドロップウエポンは違うよ」

「ここのボスは装備のドロップ率が高いときいてここまできたんだから、絶対欲しいよな」

「前回はハズレだったが、今度こそ」

「じゃあね」


 そう言って三人は石の扉に触れ中に入って行った。


 ここの中ボス倒したのあの三人だったのか。もしかして中ボスのポップに合わせて探索してるのかも。


 彼らの戦闘を覗き見ることもできたが、俺はその場を離れ階段を半場まで登ってから十三階層に転移した。



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 三人組が「ソロで十階層までくるのは無茶じゃないのか?」と思っていたことは大和は知らない……

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