第92話 素材提供
「なんかうちの妹が無理を言ったようで申し訳ない」
頭を下げるとプルプルと首と両手を振る佐々木。
「そ、そんな、ことないでしゅ、あう……」
よく噛むな、この子。すると正村が耳打ちしてきた。
「ルナぴんなぁ。舌ったらずで昔っからよー噛むんや。小さい時からそれでからかわれてな。ロープレしてるとなんか調子よー喋れるみたいやから、あれ許しといちゃって」
そんな事情があるなら仕方がないが。だがなぜ厨二キャラなんだ?
「我もひーちゃん、ではなくそこな娘と同様の契約をお願いする」
「ひーちゃん?」
「うちのことや」
同じってことは素材提供して作ってもらうってことか。ゴスロリコートのデザイン画を見る。
「このファーの部分はスキップゴートの毛皮かビッグフットの毛皮が使えるけど、この布の部分はどうするんだ?」
「そこはウルフ系でもあれば加工する」
「糸とかもいるだろう」
「蜘蛛系か虫系の糸があれば、なければ羊系の毛から紡ぐ。我に死角はない」
素材は全てモンスター素材を使うのか。
一応佐々木ともチャットアプリの連絡先を交わして、皮のリストを送る。
ついでに糸に紡げそうな毛のリストを打ち込んだ。
佐々木がリストを見て踊り出しそうな勢いだ。
「お、おお、こんなに。これがあればあれと、あれとかも作れるかも。いやそしたら……」
「おーい、ルナぴん。帰ってこいよー」
「はっ、ひーちゃん。先輩、失礼しました」
トリップしかけた佐々木を正村が呼び戻してくれた。よかったよ、俺には無理だわ。佐々木が我に帰ってきたところで話を詰める。
「一応素材を提供するので、加工代はなしってことでいいのか。でもそれじゃあ佐々木が損してないか」
すると佐々木が足元の紙袋から服を取り出した。
「これは試作、布で作ってあるがこれをモンスター素材で作りたい」
「「……」」
これはあれだ。クロッキー帳の最初にあった厨二コート。俺も正村も無言になった。
ロールプレイは滑舌改善のためではなく、ただの趣味ではなかろうか。
そして正村がまた耳打ちしてきた。
「自分で着るんとちゃうで。こういうの作ってネットで売って小金稼いどるんやルナピンは」
見れば小柄な佐々木のサイズではなさそうだし、このコート男物……いやレイヤーなら女でも着るか?
「モンスター素材であれば、防御力も持たせられる。実用品」
「ヤマぴん、案外似合いそうやで。刀の方もデザイン揃えたこしらえにしたらええんとちゃう。いっそルナぴんに革で鞘作ってもらってもえーかもやで」
正村がニヤついていうと、佐々木が〝ほんそれ!〟とばかりに正村を指差し、次にガシッと両手を握る。この二人合わせると良くないかも。
「俺は今のところコートはいらないし、そもそもまだ春だし」
「モンスター素材で作るんやから、防具やろ。外用やのうてダンジョン用」
正村の言葉に佐々木がコクコクと頷く。
いや、すでに俺にはマントとケープがあるんだよ。
「とりあえず俺のはいいから、ひなのゴスロリコートを作ってくれれば」
「「ええ〜」」
残念そうにいう二人。やはり〝混ぜるな危険〟かもしれん。
本当に代金は要らないのかと尋ねたが、二人とも物作りは数をこなさなければならないが、学校から提供される素材には限りがあり購入するにも限度があるという。
自腹で作ったものは出来が良ければ、上級生が購入してくれるそうだが、今のところは赤字。
目当てのスキルも手に入れていない段階で、「採算が取れるほど物作りができるなら自立しているわ」と正村が苦笑い。
そりゃそうだ。
一応必要な素材と数量をリストアップして、後日連絡をくれるということになった。
いきなり本番というわけにもいかないので、試作品を作りたいと正村がいうと、佐々木も同意とばかりに頷く。
武器に試作はあると思うが、ゴスロリコートに試作は必要か?
まあ普通の布じゃないし、染色とか失敗することもあるか。大体ひながパステルカラーを希望するからだ。
そういう色のモンスターもいるけど俺の持つ皮でパステルカラーのものなんてない。そこは脱色とか染色とかするそうだ。その分手間も(普通なら価格も)かかることになる。
ちょっとひなとはオハナシが必要かも。
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ルナぴんは一般向けよりダンジョン用が作りたいからの「ええ〜」
ひーちゃんはただ面白そうなのに残念だからの「ええ〜」
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