第152話 永岡天満宮ダンジョン②

 

 正面に突っ込んできた室内ツバメに、狼刀を真っ直ぐ振り下ろす。


「ヂュッ……」


 一刀両断とはこのことだろうか。見事に真っ二つになった室内ツバメが畳の上に転がり落ちると黒い粒子に変わった。

 すかさずあたりを伺うが他にはいないようだ。

 気配をよむ訓練のため、浅階層ではサーチを使わないようにしているが、これがなかなか難しい。《気配察知》のスキルもあるが、スキルで一足飛びに能力が習得できるのって考えたらズルいよな。


「この部屋には一匹だけですにゃ」

「他にはおりませんワン」


 俺より優れた察知能力を持つものがここにもいた。

 入り口の襖はいつの間にか閉まっていた。他に探索者がいないためタマたちが姿を現す。子猫と子犬サイズだったのが、それだとポチの方が大きくなるのでタマは子虎サイズ、普通の猫サイズになっている。


「戻って廊下をすすむか、こっちの部屋を抜けるか」


 この永岡天満宮ダンジョンはちゃんとした地図がない。なぜなら廊下に面した戸以外は同じ場所に繋がっているとは限らないからだ。

 空間が歪んでいるとでも言おうか、部屋と部屋が物理的につながっていない。

 それがこのダンジョンの攻略がなかなか進まない理由なんだろう。

 まあ廊下から部屋に入って、廊下側に戻れば迷うことはないし、そうでなくても正しい経路で進まなければ廊下に戻されるので、ダンジョンから出られないと言うことはない。


 ちなみにサイトからダウンロードできる地図は廊下と隣接する部屋までだった役立たずである。



 廊下に戻るのもつまらないし、このダンジョンになれる意味でも先に進むことにした。

 奥の襖を開けると同じような部屋だった。だが床に鬼スズメが二匹いた。部屋に入るなり飛び上がって襲ってくるが、タマとポチに瞬殺された。

 鑑定する間もなかったよ。

 ドロップの魔石を開いつつ、マッピングの様子に眉を顰める。


「どうしましたにゃ」

「何かありましたかワン」


 振り向くと先ほど入ってきた襖はしまっている。


「いや、マップがこの部屋しかなくってだな」

「ああ、あの扉は移送扉でしょうワン」

「移送扉?」


 ポチの言葉に、ダンジョンマスターの知識を引っ張り出す。


「ああ、別の場所の扉と繋ぐあれか。俺にはまだ使えないやつだな」

「固定とランダムがありますにゃ。この階層は固定のようですにゃ」


 入ってきた扉を開くと元の部屋……って同じ作りなんで見ただけじゃあわからないな。扉を通過するとマップが切り替わり、外の廊下と繋がっていることが確認できた。


「じゃあこのまま進んでみるか」


 そして先に進むことにした。タマとポチには狼刀を試したいので、しばらく戦闘は控えてくれとお願いした。


 狼刀はレア武器だが、驚異度2のモンスター相手では一撃で、よくわからなかった。でも攻撃は特性は斬性で、刺身包丁並に切れた。

 《刀術》の効果か、重さと大きさのある狼刀を振り回しても体の軸はぶれず、刀筋が思い描いた位置をなぞる。

 流石にこれくらいの戦闘じゃあ新しいスキルは発現しないか。


 四つ目の部屋に入ると、少し様子が違っていた。奥に床の間があったのだ。

 そして床の間の上には、浦島太郎がもらった玉手箱のような箱が置かれていた。

 室内ツバメを一刀両断にしたがドロップはなかった。


【コモン・ルームスワロウ】【魔石60%・素材15%・アイテム5%・なし20%】


 魔石のドロップ率とハズレ率が高い。鬼スズメも似たようなものだった。


【コモン・オーガスパロウ】【魔石60%・素材15%・アイテム5%・なし20%】


「ヤマト様、トレジャーボックスですワン」


 玉手箱もどきをさしてポチがいう。よく見れば文箱ってやつか。装飾は少なめで、梅の花が小さく掘られている。


【コモン・宝箱】《鍵なし罠なし宝箱》


 そんなわけで開けてみた。こういう蓋を重ねるような箱の鍵ってどういうのなんだろ。

 そして開けた中にはスクロールが入っていた。


「一階層の宝箱にスクロール? もしかして他の探索者は浅階層飛ばしてるのかな」


 スクロールは……


【コモン・スクロール】《加工》ダンジョン素材が扱える=


 うん、コモン星2だった。産出数が多いのでコモン星2でも2〜3万で手に入ると川中部長がいっていた。まあ迷高専価格でだけど。

 売るともうちょっと安いらしい。とりあえず腹袋にしまった。

 これは俺が収得して何か作るより、サポート科の誰かに渡して代わりに何かを作ってもらうようにしたほうが、お互いwin-winじゃなかろうかと思う。


 そしてさらに奥に進んでいくと。


「廊下ですにゃ」

「廊下ですワン」


 そういってポチとタマは影に沈んだ。

 部屋は扉が一つしかない部屋、いわゆる行き止まりと最高四面全部襖の扉がある部屋と様々だ。巡ってるうちに廊下に戻るルートもあるんだな。


 入ったところとは別の扉だった。だが廊下には他にも扉がある。


「今度はこっちの障子の扉の部屋にいってみるか」


 そうして開けた部屋は畳敷なのは同じだが、奥側が一面障子になっていて開けたら廊下、いや縁側になるのか? 外に枯山水な庭が広がっていたが、見えない壁があって庭には降りることができなかった。


 フィールドタイプの端っこと同じ原理だ。見えるけど勧めないダンジョンフロアの端っこ。

 この縁側は地図に載っていた。よくわからない廊下が並んでいる地図だったがこういうわけか。

 縁側を進んで隣の部屋の障子を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る