Ⅶ章

第151話 永岡天満宮ダンジョン①

 

 坂急永岡天神駅から歩いて十分ほどのところに永岡天満宮がある。

 ダンジョンゲートは天満宮の隣にある永岡公園の中にできた。


 三年も経つがなかなか方針が決定しなかったので、協会の設備は生狛と同じトレーラーやコンテナだ。

 公園にはテニスコートやグラウンドがあったが、今やそこはトレーラーやコンテナで埋め尽くされている。

 広い土地があったのが、よかったのか悪かったのか。


 まずは更衣室だ。総合服飾クラブ作のアンダーウエアは家から着てきた。

 リザードシリーズの防具に緑鋼のバンプレイス、腰にジャンピングワラビーの腹袋を装着。赤鋼のレガースは派手すぎるので今回は無しで。


 そして武器は背中に刀型武器、一応ウルフ系素材を使っているので狼刀と名付けてみた。

 そして左右の腰にエレホーンソードとマチェット。

 武器が多すぎる気もするが、狼刀がどのくらいの威力があるかわからないので。

 しかしこの鋲付き剣帯は目立つかと思ったが、全体的に黒いのでそうでもなかった。

 河中部長にお願いしたバックパックはまだできていないので、いつものバックパックを背負っていざ、出陣……ではなく先に入ダン手続きだな。


 一泊二日で手続きを終え改札を通る。

 ゲートからはどこも洞窟っぽいのだが奥に行くほど広がっていくのは珍しいかも。

 そして目前に現れたのは────


「えっと、玄関? でいいんだよな」


 確かにJDDSの情報サイト(有料)には日本家屋風ダンジョンとなっていた。

 そこにあるのは昨今の洋風建築ではなく、昔ながらのというか昭和の引き戸の玄関だった。


「なんか懐かしい感じ」


 俺じゃないよ。俺の前を歩いていた三人の探索者パーティーの一人が言った。

 彼らもここは初めて来たようだ。


「引き戸の玄関って田舎の爺ちゃん家が、昔こんな風だったな」


 引き戸は空いたままで閉まらないようになっているっぽい。

 彼らが先に中に入っていった。


「懐かしい、か」

『マスターのご実家に似ておりますにゃ』

『む、吾輩およばれしておらぬですワン』


 ポチがガーディアンになってから、帰ってないからな。

 しかし〝懐かしい〟って言われても、うちの実家は曾祖父さんが昭和初期に建てた家だから、こんな感じなんだよな。


「とりあえず行こっか」

『はいにゃ』

『承知ですワン』


 中に入ると四畳半ほどの三和土があって、そこから板の間ではなく廊下が真っ直ぐ続いていた。


「雰囲気は日本家屋なんだけどスケールが違う」


 高さも三メートルほどありそうだが、廊下の幅が二間にけんはある。どこの松の大廊下かって。あそこは畳敷だったか。


 一歩踏み出そうとして躊躇する。


『どうかしましたかワン』

「いや、ちょっと土足で上がることに忌避感というか違和感が」


 とはいえ、多くの探索者がそのまま進んで行ったのだから泥だらけでもおかしくないはず。でも床板には先程の三人と思われる足跡しかなかった。


 ここはダンジョン、ダンジョンだから。そう自分に言い聞かせ廊下に足を踏み入れた。

 松の大廊下ばりの通路の左右には襖や障子の戸があった。

 入口から近い場所には罠も宝箱もないので、割とこの辺りは無視されがちなのか、閉まっている戸の向こうにはモンスターがいる。


「どんな感じか、いくつか入ってみるか」


 背中から狼刀を引き抜く。

 昨日温存していた《刀術》のスクロールを、刀型武器を手に入れたので使用した。そして最初に覚えたスキルは《抜刀》だった。

 コモンの単技スキルで、スクロール発見当初は星3だったが、現在需要がないとのことで星1に落ちている。いわゆるゴミスキルというやつだ。

 剣を抜くぐらいスキルがなくてもできると、誰もが思う。


 だけど、刃渡りの長い刀型ならどうだろうか?

 葉山副部長が河中部長に言っていたではないか。

「部長がやると抜刀時に肩を切る姿が見えます」と。


 今のように余裕のある時なら問題ない、でも急襲を受けた時など、焦って抜刀しようとしたら。

 刀系のスキルを持たず、剣士系のスキル持ちだったら、背中でなく腰に差していてもミスするかもしれない。


《抜刀》は剣士系スキルと思われていたが、刀士系スキルだったのだ。


日本にわずかしかいない刀士のスキル持ちは、この情報をオープンにしていないらしい。


 この《抜刀》スキルの効果で、どこに刀を装備していても、どんな姿勢からでも抜くことができるのだ。

 うん、昨日マイボス部屋でいろいろ試したよ。結構遅くまでいろいろね。


 だって、念願の刀型武器に《刀術》スキルだよ。やりたくなるよね。


 タマには呆れた目で見られたけど、ポチは付き合ってくれてた。

 ポチって口調が武士っぽいから、そういうところわかってるのかも。


 狼刀を右手に持ち、梅の模様の襖を開けるとそこは畳敷の部屋だった。

 いや畳の大きさが大きすぎるんだが枚数で言うと六畳間? その奥には欄間のある襖があり、奥に部屋が続いている風になっていた。


 



 永岡天満宮ダンジョンの1階層に出るのは驚異度1の室内ツバメというモンスターだ。

 驚異度1相手に油断するつもりはないが、自己修練のためサーチを使わずにしばらく探索を進めるつもりだ。

 未遭遇のモンスター相手に対する経験を積むことにした。

 だったらモンスター情報とかあらかじめ収集しない方がと、言われるかもしれない。

 でもそういう事前調査は探索者なら誰でもやることだから。


 部屋の隅に巣がると言うことだが、部屋の隅にそれらしいものは……


「上か」


 欄間の柄に惑わされたが、天井近くに潜んでいた室内ツバメが真っ直ぐ突っ込んできた。

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