第95話 総合服飾研究クラブ
放課後に佐々木に渡す皮を入れた手提げ袋を持ち、二階層の工房棟へいく。
佐々木が指定したのは二階のB五号室だったか。
確かAは鍛冶とか金属細工とかの炉が必要な工房で、Bは薬とか錬金とか釜が必要な工房だったと記憶している。
で、Cがそういう火とか水が必要のない工房だ。
入学最初の案内で一通り説明は受けた。てっきりCかと思ったが染色するとか言ってたからコンロと水道がいるのか。
「五号室、五号室と、お、ここだ」
扉は開けっぱなしになっており、少し……いやかなり匂うのだが。薬品臭ってやつか。中からはざわざわとした喧騒も聞こえてきた。
「佐々木、いるかー、っ」
戸口から中を除けば少なくない人数が、一斉にこちらを振り返る。てっきり佐々木一人か、いるとしても二、三人かと思っていた。
「やあやあやいらっしゃい。君が鹿納くんかい。ようこそ総合服飾研究クラブへ」
少し小太、ゲフンゲフン。ぽっちゃり目の眼鏡の男子が立ち上がり、そういうと他にも数人こちらに駆け寄ってきた。
えーっと?
見回すと集団の圧に負けたのか、少し後ろの方で佐々木が申し訳なさそうに拝んで、いや謝っているのか手を顔の前で合わせている。どういうことだ?
「僕はサポート科四年度生技術部織布専攻で部長の
握手の手を差し出され、何も考えずに握り返した。そして入れ替わり別の女子が名乗り出る。
「サポート科四年度生技術部錬金専攻の
その後も入れ替わり立ち替わり挨拶をされた。
そして最後の一人、彼女が原因だったようだ。
「サポート科二年度生で
佐々木は「死角はない」とか言いながら、紡績については友人を頼ったようだ。
「朝から月子が浮かれっぱなしで、授業も気がそぞろだったから理由を聞いたのそしたら────」
素材を提供してくれるスポンサーが見つかった。早速今日の放課後に素材を持ってきてくれることになっている。作るものは決まっているが、まず素材の加工から始めるんだと。ついては今回も紡績(糸作り)を協力して欲しい。
そして素材のリストを見せられたが、これが結構な種類があった。
それならば敷島だけでなく、クラブ全体で加工の手伝いをしてもらえばと昼休憩時に部長と副部長に話を回したところ、クラブ全体で取り組むことになったのだという。
総合服飾研究クラブとは……なんぞや? と俺が首を傾げているとぽっちゃり部長が説明してくれた。
ダンジョン素材を使った服を作るクラブなんだが、ただの服を作るわけではない。それなら迷高専でやる必要はないもんな。
まず第一は素材の加工から。様々なドロップ素材を染色などの色変えだけでなく、糸や布等にすることも含まれる。職人系の担当するところだ。
次にダンジョン素材であるからには付加価値(いわゆる追加効果)があって然るべきということで、錬金、魔素学系の生徒もここに関係してくる。
染色もダンジョン素材を用いるというところで、薬学コースには落ちたが研究のため魔素学を専攻した生徒が、薬の人に対する効果だけでなく、ものに対する研究ということでこの錬金専攻の学生と一緒に頑張っているらしい。
俺は皮と毛がドロップするダンジョンばかり(と言っても3カ所しか探索していないが)行っているから、革細工専攻の佐々木のところに話がいった。
他では糸や布のドロップするダンジョンもあるけど。
服飾には飾りとかボタンとかも必要なので金属細工や木工細工専攻の学生もここに所属しているらしい。
よって〝総合服飾研究〟なのだそうな。
さっきからコメツキバッタのように「しゅみましぇん、しゅみましぇん」と佐々木が頭を下げるが、コミュ障気味の彼女には抑えられなかったんだろうな。
「俺としては作ってもらえるなら、それでいいんだが。だからといって全員が満足するだけの素材は用意できないぞ」
「それは承知しているさ。でも学校側から提供されない素材を研究できる機会は逃せないからね」
ぽっちゃり部長が笑顔で答える。彼は実家が泉多津で毛布の工場をしているそうだ。
そんなこんなで今日持ってきた皮を詰めた手提げ袋を渡す。さっきから俺が持っている手提げ袋に視線が集中しているのだ。
中身は生狛ダンジョンのコモンモンスターの皮各一枚。
・リトルドック/C☆
・リトルリカオン/C☆
・リトルウルフ/C☆☆
・リトルコヨーテ/C☆☆
・ヘッドバットゴート/C☆☆☆
「おお、これはもしや……」
「ヘッドバットゴートだけど」
「なんと星三の毛皮……」
ぽっちゃり部長が頬ずりしてるよ。学校からってコモン星三くらい提供されてるんじゃないの?
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探索者以外の知り合いが増えていく……
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