第41話 呪いの館の亡霊から逃げるみたいな感じ

「ああ、ヒモノさん、抱き締めてッピ!」


 メェールさんが抱き着いてきた。


「メェールさん!? 何をやっているんだ!? とりあえず、離れろ!」


「嫌ッピ。それよりも、寝室に行きましょうッピ」


「何言ってんだ!? 落ち着け!?」


「先にお風呂の方が良いのッピ? ワタクシはどちらでも良いわよッピ」


「いい加減にしないと、ブミらせるぞ!?」


「ヒモノさん、わたくしの電球が、それはセイケ・ンーキィノォコの効果だと言っているのです!」


「えっ!? これが!? 話が違うじゃないか、どういうことだ!?」


「わたくしの電球が、ヒモノさんはセイケンと名の付くものと相性が良い体質をしている、そのせいでセイケ・ンーキィノォコの効果が強化されたと言っているのです!」


「なんじゃそりゃぁっ!?」


 訳が分からなさすぎる!?


 なんでそんな体質があるんだよ!?


 それにこれは強化なのか!?


 まったくの別物に変化したように見えるぞ!?



「ああ、ヒモノさん、もうここでしましょうッピ! ワタクシたちの愛をみんなに見せつけるのよッピ!」


「これどうすれば良いんだよっ!?」


「とりあえず、引きはがそう」


「そうねニャ」


 ステーさんとレイトナさんが、メェールさんの両脇を抱えて引きはがした。


 これでひと安心だな。


「ヒモノさん、今日はとても素敵ですねピッ」


 今度はメルウィが抱き着いてきた。


「メルウィ!? 何をやっているんだ!?」


「私と愛し合いましょうピッ」


「これもセイケ・ンーキィノォコのせいか!?」


「その通りなのです!」


 ステータスウィンドウまでおかしくなるのかよっ!?


 とんでもないな!?


「とにかく引きはがすでゴザル」


「分かったキュ」


 プリーディさんとキュキュが、メルウィの両脇を抱えて引きはがした。



「離して、離してよッピ!」


「ああ、なぜ愛し合うふたりを引き離すのですかピッ!?」


 メェールさんとメルウィが暴れている。


「落ち着け、ふたりとも! それはセイケ・ンーキィノォコのせいなんだ!」


「どうして、そんなことを言うのッピ!?」


「もしや、浮気ですかピッ!? 私以外の女性と浮気しているのですかピッ!?」


「なんでそうなるんだ!? 浮気なんてしていないぞ!」


「いいえ、これは浮気ねッピ!」

「いいえ、これは浮気ですねピッ!」


「なんでふたりそろって、断言してんだよっ!?」


「許せない、許せないわッピ!」


「これは背中グサッにしなくてはピッ!」


「背中グサッ!?」


 突然メェールさんとメルウィの両手に、包丁が一本ずつ出現した。


 背中グサッとするのに最適な長さと鋭さを持ったものだ。


 あれに刺されたら、墓場行き確定だろう。


「ええっ!? なんで包丁なんて持っているんだ!?」


「ヒモノさん、わたくしの電球が、それもセイケ・ンーキィノォコのせいだと言ってるのです!」


「包丁まで出せるのか!?」


 セイケ・ンーキィノォコ、すごすぎだろ!?



「ヒモノさん、大変なのです! わたくしの電球が、屋外に通じる扉と窓が開かなくなったと言っているのです!」


「なんでだよ!?」


「それもセイケ・ンーキィノォコのせいなのです!」


「なんでそんなことができるんだよ!? ただのステータスが強化される精力剤じゃないのかよ!?」


「そこは不明なのです! それよりも、早く逃げるのです! ここにいるすべての女性は、もうすぐメェールさんのようになるのです!」


「なんだって!?」


「ヒモノ、なぜチカと話をしている? これは浮気だな」


「浮気者は背中グサッよニャ」


「ヒモノお兄さん、浮気者キュ」


「いくら強者でも浮気は許されないでゴザル。浮気者は背中グサッでゴザル」


 他の女性陣たちの両手にも包丁が出現した。


 何言ってんだ!?

 俺は浮気なんてしてないだろ!?


 それに、なんでそこまで背中を刺したがるんだよ!?


 意味が分からなさすぎるぞ!?


「ヒモノさん、わたくしの第二電球を持って行くのです! きっとヒモノさんを導いてくれるのです!」


 チカさんが第二電球を投げ渡してきた。


「ありがとう、チカさん!」


「逃がさないわよ、浮気者ッピ!」


 メェールさんたちが俺を追いかけて来た。


「おっさん、姉さんたちは俺様が押さえておく! さっさと行け!!」


「我々もお手伝いしますコピッ」


「お任せくださいダシュ」


 だが、聖剣とコピータたちが立ち塞がった。


「ありがとう、任せたぞ!」


 俺は食堂を出た。



 さて、どこに行こうか?


 俺がそう思った直後、第二電球から白く細い光が出て来た。


 どうやら進行方向を指し示しているようだ。


 これはチカさんが俺を導いてくれているのか?


 ありがたい!


 よし、行ってみよう。



 道中に窓があった。


 本当に開かないようになってしまったのかな?


 試してみるか。


 ……本当に開かないんだけど!?


 いったいどういうことなんだよっ!?


 セイケ・ンーキィノォコ、怖すぎだろ!?



 迎賓館の二階にある部屋の前にやって来た。


 光はこの部屋を指しているようだ。


 入ってみよう。



 中には、人が入れるくらいの大きさのロッカーのようなものが並んでいた。


 ここはスタッフ用のロッカールームなのかな?


 光は部屋の最奥にあるロッカーを指している。


 あの中に入れということか。


 よし、行こう。


 俺はロッカーの中に隠れ、息を潜めた。



「ヒモノ…… どこだ……」


「ヒモノ…… 出て来てニャ……」


 ステーさんとレイトナさんが部屋に入って来たようだ。


 まるでさまよう亡霊みたいだな。


 滅茶苦茶怖いぞ……



 部屋の扉が閉まる音がした。


 どうやら見つからなかったようだ。


 良かった。



 それにしても……


 なんで精力剤を食べただけで、こんなホラーものみたいな展開になるんだよっ!?


 訳が分からないぞっ!!!


 精力剤なのだから、もっとこう、ラブコメ的な展開にはならないのかよっ!?


 世の中が厳しすぎるぞ!?


 しかも、うちの愚息は恐怖で縮こまったままだぞ!!


 こんなの精力剤の意味がないじゃないか!!


 クソッタレがぁぁっ!!!

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