第11話 修行の前に

「あの、ここは特殊能力の修行ができるダンジョンではないのですか?」


「いいえ、その修行もできますマセ。お客様、ここは初めてですかマセ?」


「はい、そうです」


「では、ご説明させていただきますマセ。ここではさまざまな筋肉の修行を行うことができますマセ。もちろん、特殊能力筋肉もできますマセ」


「と、特殊能力筋肉!? なんですか、それは!?」


「言葉通りのものですマセ」


「えっ!? サッパリ分からないのですが!?」


「とにかく、そういうものがあるのですマセ」


「そ、そうですか……」


 訳が分からないけど、とにかくあるんだな!


「特殊能力筋肉の他に、どのようなものがあるのですか?」


「筋肉、精神筋肉、魔法筋肉、剣筋肉などがありますマセ」


 精神、魔法、剣に筋肉!?


 意味が分からなさすぎる……


「説明を続けさせていただきますマセ。修行を行う場合は、報酬をお支払いいただきますマセ」


「ええっ!? 報酬!? 何を渡せば良いのですか!?」


「今回は『ルァナワーヴァイゼ』というミョガガベをおひとり様、五体いただきますマセ。エクスレトは不要ですマセ」


 料金はミョガガベ払いなのか!?


「何か質問はございますかマセ?」


「ここにいる者は全員修行できるのですか?」


「はい、できますマセ。そちらの特殊能力で出現した方々もですマセ」


 特殊能力で出現させたことが分かるのか。


 この骨は只者ただものではないのかもしれないな。


「そちらの剣の方もできますよマセ」


 聖剣もできるのか!?


 訳が分からないな!?


 というか、なぜ剣だと分かったんだ!?


 どう見てもむちだろ!?


 やはり只者ただものではないみたいだな!



「次回からは報酬が変わるのですか?」


「はい、毎回変わりますマセ」


「次は何になるのですか?」


「申し訳ありませんが、お答えいたしかねますマセ」


 教えてくれないのか。



「ルァナワーヴァイゼとやらは、どこにいるのですか?」


「近くにある森の中ですマセ」


 森?

 森って、あの木が大量に生えているヤツか?


 この中にあるのか?


 まあ、そんなの行ってみれば分かるか。


 森の場所を教えてもらった。


「どんな姿をしているのですか?」


「球体の石のような姿ですマセ」


「どんな攻撃をしてくるのですか?」


「それはお答えいたしかねますマセ」


 そこまでは教えてくれないのか。


「では、今から狩りに行って来ます」


「はい、またのご来場をお待ちしておりますマセ」


 俺たちは修行場を後にした。



 森にやって来た。


 当たり前だけど、樹木が生い茂っているな。


 ダンジョンの中なのに、こんな場所もあるんだな。


 生えている木は、地球のものとそう変わらないように見える。


 まあ、俺は植物に詳しいわけではないがな。


 では、ルァナワーヴァイゼを探そうか。



 おっ、あれかな?


 地面に直径一メートルくらいの灰色の石が転がっていた。


 所々にクレーターのようなものがあり、月のように見える。


 あいつがルァナワーヴァイゼなのかな?


 ん?

 ルァナワーヴァイゼが、こちらに向かってゆっくりと転がり出したぞ!?


 何をする気なんだ!?


「人間さん、こんにちはルァ」


 ルァナワーヴァイゼが俺たちの前で止まり、挨拶をしてきた。


 意外と礼儀正しいな!?


 おっと、挨拶をされた以上は返さないとな。


「こんにちは、君がルァナワーヴァイゼなのか?」


「人間さんに、そう呼ばれることもあるよルァ」


 こいつで間違いないようだ。


「人間さん、人間さんは殴られるのと、すり潰されるの、どっちが好きなのルァ?」


「いきなり何を言っているんだ!? 両方嫌いに決まっているだろ!?」


「そうなのルァ? それなら、どんな殺され方が良いのルァ?」


「どんなのも嫌だっての!?」


「わがままな人間さんルァ。なら、蹴り飛ばしてあげようルァ」


「それもお断りだ! というか、蹴り飛ばすって、どうやってだ!? 足なんてないだろ!?」


「えっ? あるよルァ?」


「どこにだよ!?」


「ここにだよルァ」


 ルァナワーヴァイゼがそう言うと、突然球体の上部にふたつの穴が開いた。


 そして、そこから人間の足が逆立ちの状態で出て来た。


 長さ一メートル弱くらい。


 筋骨隆々で、黒い無駄毛がボウボウに生えている。


 なんだそりゃぁっ!?


 なんで足が生えてくるんだよっ!?


 訳の分からん体をしているな!?


「これで蹴り飛ばせるねルァ」


「確かにできるのだろうけど、蹴られるなんてお断りだ!」


「本当にわがままだなぁルァ。まあ、いいや、死ねルァ」


 ルァナワーヴァイゼが突然宙に浮いた。


 そして、両足を俺たちの方に向けて、突っ込んで来た。


 俺たちはそれを回避した。


「ブ、ブミィィィィィィィィッ!?」


 すると、突然ルァナワーヴァイゼが鳴き声を上げた。


 これは聖剣のものだな。


 そして、地面に激突して、動かなくなった。


 どうやら倒したようだ。


「ステーさん、いつの間に攻撃したんだ?」


「あいつを避ける時にだ」


「回避と同時に攻撃したのか。すごいじゃないか!」


「俺様とステーの姉さんなら、このくらい楽勝なんだぜ!」


「そいつは頼もしいな!」



 では、後始末をしようか。


 地面にめり込んだルァナワーヴァイゼを拾い上げ、付いていた土を落とした。


 月のような部分は、石のように硬い。


 足の部分は生物の筋肉のような感触だ。


 奇妙な生物だな。


 いや、こいつは生物なのだろうか?


 どうなんだろうな?


 まあ、そこはどうでもいいか。


 その後、頭に収納してもらった。



 おっ、またあの赤い玉を発見したぞ。


 もらっておこうか。


 エクスレトを拾い、聖剣に取り込んでもらった。


 また俺の中に何かが入って来たような気がした。


「これでレベルが上がったのか? どうなんだ、ステーさん?」


「ステータスが変動している。どうやら上がったようだ」


「今度はどうなったんだ?」


「レベルは『よわヨワ弱よわ、よわヨーワ、うわっ、私ちょっと弱くない!?』になっている」


「何が変わったんだ? 同じじゃないか?」


「前は『よわヨワ弱よわ、よわヨーワ、うわっ、私弱くない!?』だった。最後に『ちょっと』が追加されている」


「それなんの意味があるんだ?」


「素振りでもして試してみろ」


「そうだな」


 俺は正拳突きと蹴りの素振りをやってみた。


 うーん、変わったような気がしなくもないといったところだな。


 まあ、いいか。


 次のルァナワーヴァイゼを探そう。

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