第15話 走って草を食う

 三〇分くらいランニングした。


 つ、疲れた……


 もう無理、走れないって……


 肉襦袢にくじゅばんが重すぎる……


 俺は芝生の上に寝転んだ。


「貧弱じゃのう。日頃からもっと運動すべきじゃな」


 ナーン・コォツグーシ様にツッコミを入れられてしまった。


「うっ、お恥ずかしい限りです……」


「ここで存分に鍛えてゆくのじゃな」


「はい、そうします」


「ほっほっほっ、素直でよろしい、がんばるのじゃぞ。そうそう、疲れたのなら、そこの植物を食べてみるのじゃ」


「えっ? この辺に生えている草をですか?」


「そうじゃ。それは『ツシークパンタそう』といって、栄養豊富で筋肉に良い草なのじゃ。疲労回復にも効果的じゃぞ」


「そうなんですか」


「そうなのじゃ」


「では、食べてみます。いただきます」


 ツシークパンタ草を引き抜いて食べてみた。


 食感は生の葉物野菜のようなシャキシャキした感じなのに、味は塩のかかった鳥肉みたいだ。


 奇妙な草だな。


 まあ、美味しいから問題ないけど。


「食べ終わって、休憩したら、またランニングをするのじゃ」


「はい、分かりました」


 俺はまたランニングを始めた。


 この日は休憩を挟みながらランニングをして、ツシークパンタ草を食べ、シャワーをして仮眠室に泊まった。


 アーカミさんは目を覚まさなかった。



 次の日。


 目が覚めた。


 ああ、よく眠れたなぁ。


 疲れはまったく残っていない。


 それに筋肉痛もないぞ。


 運動しまくったはずなのに、なぜだろう?


 もしかして、ツシークパンタ草のおかげなのだろうか?


 ありがたいものだなぁ。


 さて、準備して、修行に行こうか。



 陸上競技場にやって来た。


 すると、昨日と同じ場所にアーカミさんが倒れていた。


 まだ気が付いていないのかよっ!?


 筋肉罰、怖すぎるだろ!?


「起きたようじゃな」


 ナーン・コォツグーシ様の声が聞こえてきた。


「おはようございます」


「うむ、おはよう。では、今日も元気にランニングをするのじゃ」


「はい、分かりました。ところで、アーカミさんが目を覚まさないようですが、大丈夫なのでしょうか?」


「アヤツは問題ない。お主は自身の修行に集中するのじゃ」


「分かりました」


 本当に大丈夫なのだろうか?


 まあ、いいか、神を信じることにしよう。


 では、ランニング開始だ。


 この日も休憩を挟みながらランニングして、ツシークパンタ草を食べ、シャワーをして仮眠室で寝た。


 アーカミさんは目を覚まさなかった。



 次の日。


 アーカミさんがようやく目を覚ました。


 目を覚ますのに、こんなにかかるのかよっ!?


 筋肉罰、ヤバすぎるだろ!?


 そして、この日も昨日までと同じことをした。


 アーカミさんって、いてもいなくても同じなんじゃないか!?



 次の日。


 そういえば、修行は何日間続くのだろうか?


 アーカミさんに聞いてみた。


 三か月やるらしい。


 そんなにやるのかよっ!?


 その間に審査会が開かれていないか、地球での俺の扱いがどうなっているのか、といった点は気になるけど、現状ではどうしようもないな。


 とりあえず、修行をがんばるとしようか。



 その後、三か月間ランニングしたり、トレーニングマシンを使ったりしながら、修行した。


 あれは本当に特殊能力の修行だったのだろうか?


 普通の筋トレなのではないのだろうか?


 まあ、そこはステーさんに聞けば分かるか。


 では、みんなと合流しよう。


 俺はアーカミさんとナーン・コォツグーシ様に礼を言って、競技場を後にした。



 部屋を出ると、他のみんながいた。


 どうやら無事修行を終えたようだな。


 良かった。


 では、挨拶をしようか。


「みんな久しぶり、元気そうだな!」


「ああ、久しいな、ヒモノ。修行はうまくいったようだな」


 なぜかステーさんにそう言われた。


「えっ? そうなのか? 自分ではよく分からないのだが、なぜうまくいったと思ったんだ?」


「気付いていないのか? 痩せたぞ、ヒモノ」


「そうなのか?」


「はい、すごく痩せて、若々しくなったのです!」


「ヒモノおじさんじゃなくなったキュ! ヒモノお兄さんになったキュ!!」


「痩せてカッコ良くなりましたキュ~」


「そうだったのか。気付かなかったよ」


 更衣室に鏡はなかったし、肉襦袢にくじゅばんのせいで、体がずっと重かったから気付かなかったみたいだな。


 それにしても、こんなに褒められると照れくさいもんだな。


「あれ? 痩せたというなら、なぜ服を着れているんだ? 体にピッタリだぞ?」


「それは当修行場のサービスでございますマセ」


 筋肉の塊Tシャツの職員がそう言った。


「サービス? どういうことですか?」


「はい、修行によって服のサイズが合わなくなった場合、服のサイズを変更する特殊能力を使用し、サイズを直しておりますマセ」


「そんなことができるのですか!? ありがとうございます!」


 便利な特殊能力だな!


「さらに髪、ひげ、爪の手入れもしておきましたマセ」


「そんなことまで!? 至れり尽くせりですね!」


「当修行場はアフターケアも万全でございますマセ」


「素晴らしい修行場ですね!」


「ありがとうございますマセ」


 ルァナワーヴァイゼ五体で、こんなにサービスを受けられるのか。


 とてつもなくお得な修行場だな!!



 さて、サービスは素晴らしいが、成果の方は出ているのだろうか?


 確認してみようか。


「ステーさん、俺の特殊能力はどうなっているんだ? 何か変化はあったのか?」


「どうやらステータス令嬢を、もうひとり出せるようになっているようだ」


「それだけ?」


「そのようだな」


 えええええっ!?

 それだけなのかよっ!?


 そんなので審査会に受かるのか!?


 もしかして、もう一回修行した方が良いのだろうか!?


 いや、さすがにそう判断するのは早計だな。


 新たなステータス令嬢を出してから判断しても良いだろう。


 さて、どのステータスにしようかな?

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