第94話 美女の衣服のみを切り裂く魔剣!?

「あ、あれは!?」


「セレンさん、どうかしたのか!?」


「あの敵はあまりにも不潔です! 不潔すぎる存在です!」


「ええ……」


「なんと無礼なヤツだウッマ」


「ワンちゃんたちを、いきなり不潔呼ばわりとはひどいダス」


 馬と犬のぬいぐるみがそう言った。


「そこのよく分からない格好のヤツ、我らの何が不潔なのだウッマ? 述べてみろウッマ」


「この感じは、思考が不潔ですね! 体も汚れていないわけではありませんが!」


「思考だとウッマ!? そんなバカな、あり得んウッマ!? 我らは美女の衣服のみを切り裂くという、崇高な使命を持っているというのにウッマ!?」


「えっ!? 今、美女の衣服のみを切り裂くって聞こえたんだけど、聞き間違いだよな!?」


「いや、聞き間違いではないウッマ。それこそ我らの使命ウッマ」


 えええええっ!?


 聞き間違いであって欲しかった……



「おい、こら、それのどこが崇高なんだよっ!? ただの変態じゃないか!?」


「やはり不潔な連中でしたか……」


「なんということだウッマ!? 我らの理想が理解できぬとはウッマ!?」


「全世界の男性たちが待ち望んでいるかもしれない気がするというのに、なんて愚かなヤツらダス!」


「愚かなのは、お前らだろ!? 女性の迷惑を考えろ!?」


「その通りです! あなたたちの不潔な思想と体は、この私が洗浄します!!」


「おのれっ、我らを否定する気かウッマ!? ならば、勝負だウッマ!」


「良いでしょう! かかって来なさい! 不潔な者たちに、私は負けません!」


「ふん、良い度胸だウッマ! では、ゆくぞウッマ!!」


 馬と犬のぬいぐるみが、セレンさんに突っ込んで来た。


「これを受けなさい!!」


 セレンさんの周囲に大量のノズルが出現した。


 そして、そこから勢いよく液体が出て来た。


 すさまじい勢いの水流だな!?

 いつものと全然違うぞ!?


 あんなのに当たったら、体が切断されそうだ!?


 これがセレンさんの本気なのか!?


「くっ、なんという数だウッマ!? だが、こんなものに当たってたまるかウッマ!?」


「ワンちゃんたちには、なさねばならない使命があるダス! 負けられないダス!!」


 馬と犬のぬいぐるみは後退しつつ、水流を回避した。


 あの数を避け切るとは、あいつらは相当強いな。



「しつこい汚れですね! ならば、これはどうです!!」


 セレンさんが猛スピードで、馬と犬のぬいぐるみに突っ込んだ。


 そして、至近距離から液体を噴射した。


「「ぐああああああああっ!!!」」


 馬と犬のぬいぐるみが吹っ飛ばされ、ふすまに激突し、めり込んだ。


「まだ不潔ですね!」


 セレンさんの周囲に、再び大量のノズルが出現した。


「洗浄します!!」


 そして、すべてのノズルから液体が噴き出した。


「「あああああ……」」


 馬と犬のぬいぐるみは、水流に飲み込まれた。



「洗浄完了ですね」


「お疲れ様、セレンさん」


 うわぁ、ふすまに大穴が開いているぞ!?


 すさまじい攻撃だな。


「あの馬と犬のぬいぐるみは、どこに行ってしまったのだろうか?」


「わたくしの電球が、バラバラに引き裂かれたと言っているのです」


「そ、そうなのか……」


 ナニソレ怖い!?

 セレンさん、強すぎだろ!?



「エクスレトとステータスウィンドウせんべいはあるのかな?」


「わたくしの電球が、隣の部屋に落ちていると言っているのです」


「では、拾いに行くか」


 俺たちは隣の部屋に向かった。


 破れたふすまの近くに、エクスレトとステータスウィンドウせんべいがふたつずつ落ちていた。


 全部ぬれているな。


 せんべいはリリィさんに焼いてもらおうか。


 おっと、その前にステータスを見ておこうか。


 ん?

 両方とも名前が書いてあるな。


 片方には『マ・ドクシ』もう片方には『ケン・ヤサービス』と書いてある。


「これはどっちの名前なんだろうな?」


「わたくしの電球が、馬の方がマ・ドクシだと言っているのです」


「そうなのか。ありがとう、チカさん」


「どういたしましてなのです」



 では、他のも見ていくか。


 マ・ドクシのレベル五千億。


 防御力が低めで、素早さが高いな。


 特殊能力は『美女の衣服のみを切り裂く能力』と『空を駆ける能力』がある。


 ケン・ヤサービスのレベルも五千億なのか。


 他はステータスは、どれも同じくらいだ。


 ただ、マ・ドクシに比べると、全体的に低めだな。


 特殊能力は『美女の衣服のみを切り裂く能力』と『騎乗すると馬の能力が上がる能力』と『馬にくっ付く能力』がある。


 両方とも衣服を切り裂けるのか。



 エクスレトを取り込んだ。


「おおっ、これは面白いざます! 採用ざます!!」


 ユモアの声が聞こえた。


 えっ、こいつらを採用するのか!?


「ヒモノ、特殊能力が身に付いたぞ」


「さっきの連中を出す能力か、ステーさん?」


「おそらくな」


「おそらく? どういうことだ?」


「能力名が『マケン・ドクシヤサービスを出す能力』となっているからだ」


 魔剣?

 馬犬?


 読者サービス?


「あの二体がひとつになったような能力名だな」


「ああ、だから、おそらくなのだ」


「なるほどな」


「おそらくじゃないざます。間違いなく、さっきの馬と犬が出て来るざますよ。マケン・ドクシヤサービスというのは、私ちゃんが考えたコンビ名ざます」


 またユモアの声がした。


「この声はギャグのステータス令嬢か。お前がヒモノに妙な能力を身に付けさせたのか?」


 今回はステーさんにも聞こえたのか。


「妙じゃなくて、面白い能力ざますよ。これからもいろいろ身に付けるさせてやるから、アナウンスよろしくざます」


「まだ身に付くのかよっ!?」


「面白いものがある限り身に付くざます」


 ユモアは珍獣軍団を作る気なのか!?



「では、出してみるか」


 マケン・ドクシヤサービスを出してみた。


 さっきのぬいぐるみが出て来た。


 では、話しかけてみるか。


「初めまして、俺が君を出した紐野ひもの ひとしだ。よろしくな」


「お初にお目にかかるウッマ。よろしくウッマ」


「初めましてダス。よろしくダス」


「君たちは名前はあるのか?」


「ないウッマ」


「ワンちゃんもないダス」


「そうなのか。なら、名前を考えようか」


 良い名前が思い付かなかったので、先程の連中と同じ名前にした。


 ふたりとも気に入ってくれた。


 そして、馬は『ドクシ』犬は『ヤサービス』と呼ぶことになった。



 ふたりに、どんな特殊能力を身に付けているのか聞いてみた。


 せんべいに記載されていたものを使えるそうだ。


 当然、美女の衣服のみを切り裂く能力も使えるそうだ。


「ふたりとも美女の衣服のみを切り裂く能力は使用禁止な」


「なぜだウッマ?」


「訳が分からないダス」


「迷惑だからだ!?」


「そうなのかウッマ? 喜ばれるような気がするぞウッマ?」


「なんでそう思うんだよ!?」


「なんとなくダス」


「普通に迷惑なだけだって!?」


「納得はできないが分かったウッマ」


「この能力は使わないダス」


 分かってくれたか。


 良かった。


 これで日本に帰っても、警察に捕まらずに済むぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る