第38話 図書館では静かにしよう

 図書館にやって来た。


 白い石造りの大きく立派な建物だ。


 美しい彫刻が彫られた壁に、巨大な柱、まるで西洋の神殿のようだ。


 素晴らしい芸術作品だな。


 では、入ろうか。



 入り口に立て看板が置いてあった。


 そこには『館内はお静かに』という意味の文字が書いてあった。


 この世界でも、図書館内は静かにするのがマナーみたいだな。


 気を付けよう。


 いちおう他のみんなにも注意しておこうか。


 うるさいのがいるしな。


「館内はお静かにだぞ。分かっているな?」


「そんなの当然でしょッピ!」


「いちいち言わなくても分かっているわよニャ!」


 分かってなさそうなんだよなぁ。


「あのさぁ、そろそろ離れてくれないか?」


「デートなんだから、そこは良いのッピ!」


「さあ、入るわよニャ!」


 このふたりはうるさくしそうだな。



 中に入った。


 広い館内に、本の詰まった棚が大量に並んでいる。


 こいつは壮観だな。


 机と椅子が用意されている場所もある。


 あそこは読書スペースみたいだな。


 他の利用者はあまりいない。


 すいている時間帯なのかな?


 好都合だ。


 では、本を探そうか。



 『強くなってモテモテうはうはドロドロ背中グサッになりたい人のための本』というタイトルの赤いハードカバーの本を発見した。


 なんじゃこりゃぁっ!?


 なんだよ、背中グサッって!?


 修羅場になって、後ろから刃物で刺されるということなのか!?


 そんなのになりたいヤツなんて、いるわけないだろ!?


 誰がこんな本を書いたんだよ!?


 あっ、著者名が書いてあるぞ。


 なになに『著者、ナーン・コォツグーシ』だと!?


 ええっ!?

 これって、筋肉の神が書いたのか!?


 いや、同姓同名の別人の可能性もあるなぁ……


 正解はどちらなんだ!?


 まあ、なんであれ、何が書いてあるのかは気になるな。


 ちょっと読んでみようか。


 俺は本を手に取った。


 本はA4サイズくらいの大きさで、左開きだ。


 ここの本も地球のものと、そう変わらないんだな。


「ちょっと、ヒモノさん、ワタクシというものがありながら、なんでそんな本を読むのよッピ!?」


「あなたには妾がいるでしょニャ! モテる必要なんてないでしょニャ!」


「さらに妻を増やそうとするとは、さすが強者でゴザル!」


「違う!? 誤解だっての!?」


「だったら、なんだって言うのよッピ!?」


「説明しなさいよニャ!」


「だから、うっ!?」


「「ひぃっ!?」」


「むっ!?」


 突然、ゾクゾクする寒気のようなものに襲われた。


 悪いものに狙われているような気がする。


 な、なんだこの感覚は!?


 もしかして、これが殺気なのか!?


 メェールさんとレイトナも、この感覚に襲われたようだ。


 俺に抱き着いて震えている。


 プリーディさんは、俺の後方をじっと見つめている。


 何かいるようだ。


 俺もそちらを向いてみた。


 すると、そこにはグレーのスーツを着た中肉中背の中年女性が立っていた。


 いつの間にいたんだ!?


 しかも、なぜか両手にバールのようなものを一本ずつ持っているぞ!?


 なんでそんなものを持っているんだ!?


 訳が分からんな!?


「そこの方々、館内ではお静かにお願いしますシショ」


 中年女性に注意された。


 おそらくこの方は司書なのだろう。


 とりあえず、謝っておこうか。


「すみません、気を付けます」


「ええ、ぜひそうしてくださいねシショ。次は我が『マダニノ・ミヤマビル』が、あなたたちの血を吸うことになりますからねシショ」


 マダニ、ノミ、ヤマビル!?


 ものすごく血を吸いそうだな!?


 というか、なんだそれは!?


 もしかして、そのバールのようなものの名前なのか!?


 なんで名付けているんだ!?


 まあ、そこはどうでもいいか!


 それよりも、なんで俺たちは脅されているんだ!?


 ここは静かにしなかったら、殺される図書館なのか!?


 怖すぎるだろ!?


「ドロドロとした怨念を感じたでゴザル。あれはおそらく嫉妬……」


「何か言いましたかシショ!?」


 うわっ!?

 さらに殺気が強くなっただと!?


 もしかして、図星なのか!?


 プリーディさん、余計なことを言うなよ!?


 とりあえず、ごまかさないと!


「な、何も言ってないですよ……」


「そうですかシショ」


 司書が目を大きく見開き、俺たちをにらんでいる。


 正直、滅茶苦茶怖いです……


「まあ、いいでしょうシショ。では、ごゆっくりシショ」


 司書は去って行った。



「こ、怖かったッピ……」


「そうだな。頼むから静かにしてくれよ」


「分かったニャ。 ……もう少しこうしていても良いニャ?」


「ああ、良いよ」


 これは仕方ないよな。



 では、本を読んでみるか。


 『この世には、手っ取り早く強くなる方法がふたつある』という意味の文字が書いてあった。


 ほう、そうなのか。


 それはなんだ?


 『ひとつ目はエクスレトを取り込むことである。しかし、この方法は強い生物を倒さなければならない危険なものである。誰でもできるわけではない』


 ふむ、確かにそうだな。


 『強くなりたいけど、エクスレトが入手できない。そんなあなたにオススメしたいのが、このふたつ目の方法なんです!!!』


 ん?

 なんだ?


 急に文体が変わったぞ。


 どういうことなんだ?


 『それは…… なんと…… なんと、なんと、なんとぉぉぉっ!!!』


 ものすごくためてくるな!?


 一ページ丸ごと、こんな感じだぞ!?


 ちょっとやりすぎじゃないか!?


 『筋肉の修行場ガナガーナァヤセで修行することです!!!』


 こ、これは宣伝!?


 『筋肉の修行場ガナガーナァヤセは、優秀なスタッフに、各種トレーニング機器を取りそろえており、初心者から上級者まで、さまざまなニーズに対応できます!!』


 まあ、確かに器具は充実していたな。


 『これならどなたでも安全に強くなれますね!』


 安全!?


 そもそもここで修行するためには、ミョガガベを払う必要があるだろ!?


 全然安全じゃないぞ!?


 デタラメを書くなっての!?


 『あなたも強くなって、モテモテうはうはドロドロぐちゃぐちゃグサグサぶくぶくになりましょう!!』


 ぐちゃぐちゃグサグサぶくぶく!?


 これ殺されて、水に沈められてないか!?


 ダメダメじゃないか!?


 『皆様のお越しをお待ちしております!!』


 なんでこんなの書いたんだよ、筋肉の神!?

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