第91話 緩急つけすぎ

 出発の準備は完了した。


 さあ、今日もがんばって進もうか!


 俺たちは飛び立った。



 しばらく進んで行くと、部屋の中央に木製のちゃぶ台が置かれていた。


 大きさは直径一メートルくらい、高さ四〇センチくらい。


 日本で普通に売っていそうなものだ。


「チカさん、あのちゃぶ台はなんだ?」


「わたくしの電球が、あれはわなの一種だと言っているのです」


「どんな罠なんだ?」


「あれの上に何かを載せると、ひっくり返るのです」


「……えっ!? それだけなのか!?」


「それだけなのです」


 ええ……

 ナニソレ……


 ショボくないか?


「ちょっと見てみたいわねニャ。ヒモノ、試してみてよニャ」


「仕方ないなぁ」


 俺は聖剣キノコの一本を操作して、ちゃぶ台に載せてみた。


 ちゃぶ台がひとりでにひっくり返った。


 ずいぶんとゆっくりした動きだったなぁ。


 なんであんなに遅いんだろう?


 そして、ちゃぶ台は裏返ったまま動かなくなった。


 俺は聖剣キノコを回収した。


「これは本当にくだらないわねッピ」


「ええ、ここまでひどいとは思わなかったわニャ」


「まったくだな」


 せめてもっと勢いよくひっくり返れば、まだマシだったのにな。



「ところで、あの裏返ったちゃぶ台はどうなるんだ?」


「誰かが戻さない限りは、ずっとあのままなのです」


「自力では、元に戻らないのか?」


「はい、そのような機能はないのです」


 なんだそれは!?


 なんでそんなのが罠なんだ!?


 意味が分からないぞ!?


 まあ、どうでもいいか。


 先に進もう。



 しばらく進んで行くと、部屋の中央にキャスターの付いた黒い丸椅子が置いてあった。


 大きさは直径四〇センチくらい、高さ五〇センチくらい。


 普通に日本に売っていそうなサイズだ。


 背もたれは付いていない。


 和室には、あまり合わない品だな。


「なんだあれは?」


「あれも罠なのです」


「あれもなのか。どんなものなんだ?」


「座ると横に回転し出すのです」


「……それだけ?」


「それだけなのです」


「そうなのか。座った人の目を回す罠なのかな?」


「どうなるのか気になるでヤンス。ヒモノさん、ちょっと試してみるでヤンス」


「そうだな。やってみようか」


 俺は聖剣キノコの一本を操作して、丸椅子に載せてみた。


 すると、丸椅子がものすごくゆっくりと横に回転し始めた。


 あんなのでは、目が回ったりはしないだろう。


 俺は聖剣キノコを回収した。


「これはひどいでヤンス」


「ええ、本当にそうねッスわ」


 おい、こら、どうなってんだよ!?


 今日の罠はクォリティが低すぎるぞ!?


 最近がんばっていたのに、なんでいきなりこうなるんだよっ!?


 まあ、クォリティの高いものを出して欲しいわけでもないけどなっ!


 さて、先に進むか。



 しばらく進んで行くと、部屋の中央に先程と同じようなちゃぶ台と丸椅子が置かれていた。


 数は両方とも二〇くらいだ。


「あれも先程のようなくだらない罠か?」


「いいえ、あれは敵なのです。ちゃぶ台と丸椅子に擬態しているのです」


 ちゃぶ台と丸椅子に擬態ねぇ。


 それって意味があるのだろうか?


 よく分からんな。


 まあ、いいか。


「では、さっさと倒してしまおうか」


 俺は聖剣キノコと温泉黒卵を向かわせた。


 すると、ちゃぶ台たちは畳の上を滑るように素早く移動し、聖剣たちを回避した。


「な、なんだあの動きは!? キャスター付きの椅子はまだ分かるけど、なんでちゃぶ台まであんな速度で動けるんだ!?」


「わたくしの電球が、ちゃぶ台の特殊能力で足にキャスターが付いたと言っているのです」


 キャスター付きちゃぶ台になっていたのかよ!?



「ヒモノ殿、加勢するであります!」


 マモリさんがモザイクのかかったプレート、白いレーザー、泡と湯気の塊のような球体を大量に撃ち出した。


 だが、それらもすべて回避された。


 そして、ちゃぶ台たちは隣の部屋へ逃げて行った。


「えっ、ちょっと!? なんで逃げて行くんだよっ!? ミョガガベって襲ってくるものじゃないのか!?」


「何事にも例外があるようなのです」


「そういうものなのか。ところで、あれを倒すと何か良いことはあるのか?」


「特にないのです」


「いや、そうでもないでゴザル! ヤツらは食べられるでゴザル!」


「食べられるのキュ!? なら、追いかけて捕まえるキュ!」


「もう見えなくなっているぞ」


「それなら探すでゴザル!」


「絶対に食べるキュ!」


「はいはい、分かったよ。じゃあ、行こうか」



 しばらく進んで行くと、また部屋の中央にちゃぶ台と丸椅子が置いてあった。


 デザインも数も、先程と同じだ。


 あれらは罠なのか?

 それともミョガガベなのか?


「あれは危険なのです! 皆さん、上昇するのです!!」


「分かった!」


 俺たちは上昇し始めた。


 それと同時にちゃぶ台たちが畳の上を素早く滑りながら、俺たちに接近して来た。


 そして、ちゃぶ台たちは俺たちの真下まで来た。


「マモリさん、防御するのです!」


「了解であります!」


 マモリさんのモザイクが俺たちを取り囲んだ。


 その直後、下から大きな爆発音が聞こえてきた。



「もう大丈夫なのです」


「では、能力を解除するであります」


 モザイクが消えた。


 俺は地上を見た。


 うわぁ、ひどいことになっているなぁ……


 畳が全焼しているぞ。


 ただ、隣の部屋までは燃え広がっていないようだ。


 なんでだろうな?


 ふすまや敷居は、燃えない素材で造られているのだろうか?


 まあ、そこはどうでもいいか。


 それよりも、なんであんなヤツらがいるんだ!?


 危険度が高くなりすぎだろ!?


 さっきまで罠とは呼べないような緩いものばかりだったのに、なんでいきなりこうなるんだよっ!?


 極端すぎるだろ!?


 心臓に悪いから、もう出て来るなよ!!

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