第90話 タンスと池
さて、準備も完了したし、今日も元気に出発しようか。
俺たちは飛び立った。
しばらく進むと、中央に巨大な引き出しのあるタンスが置いてある部屋を発見した。
タンスは見た目は和風で、木製のように見える。
引き出しは四段あり、各段に黒い金属製の取っ手が二本付いている。
大きさは幅、高さ、奥行きともに、数百メートルはありそうだ。
「皆さん、あれは罠なのです! 上昇するのです!」
「ああ、分かった!」
俺たちは上昇し始めた。
その直後、タンスからすべての引き出しが勢いよく飛び出し、俺たちの方に向かって来た。
俺たちは、なんとかそれらを回避した。
危ない危ない、あんなのが当たったら死んでいたかもしれないな。
とんでもない罠だ。
ただ、タンスの引き出しはなくなってしまったな。
「もしかして、あのタンスはもう引き出しを飛ばせないのか?」
「はい、あれは一度しか飛ばせないのです」
「新しい引き出しが自動的に補充されたり、飛んで行ったものが戻って来たりはしないのか?」
「しないのです」
再利用性がなさすぎないか?
まあ、あんなのが何度も飛んで来なくて良かったけどな。
「あの撃ち終わったタンスは邪魔にならないのかな? 罠を保守しているヤツはいないのか?」
「そこは不明なのです」
「そうなのか」
そういう作業をしているミョガガベがいたりするのかな?
「社長、あのタンスは宮殿の建設に使えそうですね。解体して持って行きましょう!」
「えっ? ああ、好きにしてくれ」
「はい! では、手早く解体してしまいますね!」
コロモがタンスを解体し始めた。
ログハウスのようなミョガガベ、巨大宝箱、巨大タンスから造られる宮殿か。
どんなものになるんだ?
「社長、作業終了しました!」
「お疲れ様、コロモ。それじゃあ、少し休憩して、先に進もうか」
しばらく進むと、中央に池のある部屋があった。
中に庭石や島がある、周囲に木も生えている。
橋が架かっている場所もある。
日本庭園にありそうな池だな。
大きさは、直径数キロくらいか?
かなり大きいな。
「チカさん、あれはなんだ?」
「池なのです」
「ただの池なのか?」
「ただの池なのです」
「室内っぽい場所なのに、なんであんなものがあるんだ!?」
「そこは不明なのです」
「そうなんだ」
本当に訳の分からないものだらけだな。
「むっ、あの池に食べ物がある気がするでゴザル!」
「そうなのか? 魚でも泳いでいるのかな?」
「食べてみたいキュ!」
「行ってみるでゴザル!」
仕方ないなぁ。
俺たちは池に向かった。
池の上空にやって来た。
おおっ、水が澄んでいて、とてもキレイだ!
それに、どうやらここはかなり深いみたいだな。
ん?
あれは?
うわぁ、変なのがいるぞ……
そこには全身がショッキングピンクの掛け軸のような何かが、体をくねらせながらゆっくり泳いでいる。
しかも、複数いる。
大きさは、どの個体も全長二メートル以上はありそうだ。
ん?
なぜか体の真ん中に『私は魚類』という日本語が黒い色で書かれているぞ。
いや、君はどう見ても、魚類には見えないだろ。
なんでそんなことを書いちゃったのかな?
まあ、どうでもいいか。
何を書こうが、そいつの勝手だよな。
「プリーディさん、あのピンクのヤツが食べ物なのか?」
「その通りでゴザル」
あれを食う気なのかよ!?
「さっそく捕まえるでゴザル!」
「どうやって?」
「飛び込んで捕まえるでゴザル!」
「ええっ!? 手づかみで!?」
「それじゃあ、行ってくるでゴザル!」
プリーディさんが急降下し、池に飛び込んだ。
そして、素早く水中を進み、両手に一幅ずつ泳ぐ掛け軸を捕まえた。
こいつは見事だな!
「捕まえたでゴザル!」
池から上がって来たプリーディさんが、俺たちに手を振りながらそう言った。
掛け軸は両方とも全長三メートルくらい、幅八〇センチくらいだ。
かなりの大きさだな。
「もっと捕まえるでゴザル!」
プリーディさんが掛け軸を畳の上に置いて、また池に飛び込んだ。
「わたしもやってみるキュ!」
キュキュも池に飛び込んだ。
「おおっ、あっさりと掛け軸を捕まえたぞ! キュキュも泳ぐのがうまいんだな!」
「ヒモノ、鳥類ならあれくらい当然ッスよ!」
「えっ、そうなのか?」
「そうッスよ! というわけで、あーしも手伝ってくるッス!」
トーリさんも池に飛び込んだ。
トーリさんも泳ぐのがうまいな。
ああ、そういえば、ペンギンって泳ぎが得意だと、どこかで聞いた覚えがあるな。
この着ぐるみにも、そういう能力があるのだろうか?
ちょっと試してみるか。
俺は池に飛び込んだ。
おおっ、こいつは泳ぎやすいな!
羽ばたくだけで、スイスイと水中を進めるぞ!
すごいもんだな!
そういえば、聖剣キノコと温泉黒卵なら水中で動かせるのかな?
試してみるか。
俺は聖剣キノコと温泉黒卵を水中で操作してみた。
水中でも問題なく動かせるようだ。
こいつらも狩りに使えそうだな!
では、始めるか。
俺は掛け軸を八幅捕まえ、エクスレトを取り込んだ。
プリーディさんは二六幅、キュキュは六幅、トーリさんは一六幅捕まえたようだ。
掛け軸のステータスウィンドウせんべいを見てみた。
レベルは五百億から七百億くらいだな。
ステータスは防御力と素早さが低めだな。
特殊能力はないようだ。
「では、料理します」
リリィさんがチェーンソーと寸胴鍋を取り出し、掛け軸を切り始めた。
今回は何になるのだろうな?
「完成しました。どうぞ」
リリィさんが白い丼を調理台の上に並べた。
そこには茶色いつゆに、ピンクの麺が入れられていた。
さらに、その上に切った畳、キノコ、砕いたステータスウィンドウせんべいが載せられている。
掛け軸が麺料理になっただと!?
「リリィお姉さん、これは何キュ?」
「掛け軸の煮汁に、掛け軸の切り身と畳とキノコと砕いたせんべいを入れたものです」
掛け軸から茶色い煮汁が出たのか。
全身ピンクなのに、なんでだろうな?
まあ、そんなのどうでもいいか。
では、食べてみよう。
いただきます。
俺は麺を食べてみた。
これはそばだな。
味、香り、食感ともにそばだな。
つゆは麵つゆみたいな味がする。
砕いたステータスウィンドウせんべいは、天かすみたいだ。
とても美味しいぞ!
だが、なんで掛け軸なのに、こんな味がするのだろう?
まあ、どうでもいいか。
どうせ不思議がいっぱいな世界しな。
「リリィさん、ごちそうさま。とても美味しかったよ」
「お粗末様でした」
「ヒモノさん、そろそろ暗くなってきたわよッピ」
「では、今日はここまでにして休むとするか」
俺たちはセレンさんに洗浄してもらって、就寝した。
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