第89話 和室の小鳥たち

 五階にやって来た。


 周囲は広大な角型の和室のようだ。


 地面は巨大な新品の畳のような何かだ。


 感触や匂いも畳っぽいな。


 四方の壁には巨大な白いふすまがあり、その上の部分は茶色い砂壁になっている。


 なぜかどのふすまも全開になっている。


 隣にある部屋もすべて、ここと同じ和室のようだ。


 天井は他の階と同じくらいの高さで、板張りになっている。


 そして、なぜか所々白く光っていて、とても明るい。


 部屋の中央には、下り螺旋らせん階段がある。


「な、なんだここは!? まるで俺たちが小人になったみたいだな!?」


「ヒモノ、あーしたちは鳥類だから、小鳥ッスよ!」


「えっ!? ああ、まあ、確かにそうだな。小鳥だな」


「そうッスよ!」


 まあ、そこはどうでもいいんだけどな!



「さて、どっちに進もうか? チカさん、直感で階段の位置が分かったりするのか?」


「分かるのです。この階にも寄り道した方が良さそうな場所があるのです」


「そうなのか。なら、また寄り道をしながら、階段を目指そうか」


「分かったのです。では、案内するのです」


 俺たちは飛び立った。



 隣の部屋に入った。


 そこも先程と同じ大きさの和室だった。


 四方の壁には、また全開になっている白いふすまがあり、隣の部屋もここと同じような和室になっているようだ。


 この階は同じ大きさの和室が並んでいる場所みたいだな。


 なんでこうなっているのだろう?


 よく分からんな。



 しばらく飛んでいると、部屋の真ん中にスタンドにかけられた掛け軸のようなものがあった。


 数は二四幅あるようだ。


 掛け軸の大きさは、日本にあるものと同じくらいだ。


「チカさん、あれはなんだ?」


「あれはただの掛け軸のようなのです」


「敵や罠ではないのか?」


「違うのです」


「何かの役に立つのかな?」


「物好きな人なら買い取ってくれるかもしれないのです」


「そうか。なら、もらっておこうか」


 俺たちは地上に下りた。



 なんだこの絵は!?


 そこには包丁のような刃物を持っている、鬼のような形相をした長い黒髪の女性と、うつ伏せに倒れている血まみれの人の絵が描かれていた。


 どうやら倒れている人は、背中を刃物で刺されたようだ。


 女性の怨念が伝わってくるような迫力のある作品だな。


 他もすべて同じような作品だ。


 なんでこの手のものばかり飾ってあるんだ!?


 ここには、こういう絵を好むヤツがいるのか!?


「この刺されている人、なんだかヒモノさんに似ている気がするわッピ」


「妾もそんな気がするのよねニャ」


「確かに似ているでヤンス」


「おい、何を言い出すんだよ!? やめてくれよ!?」


「ヒモノさんは、いずれこうなるということなのねッスわ」


「ええっ!? この掛け軸には、未来を描き出す特殊能力があるというのか!?」


「そんなものはないのです。これは偶然なのです」


「そうなのか。良かった……」


「ただ浮気をし続けると、こうなるかもしれないでナンス!」


「恐ろしいことを言うな! さっさと掛け軸を集めてしまおう!」


「ヒモノさん、このスタンドはプラチナで作られているのです」


「また!? なら、そっちも持って行こうか!」


 俺たちは掛け軸とスタンドを集め、頭に収納した。


 では、先に進むか。



「おや? あそこに巻物が落ちているぞ」


 先程の掛け軸と同じくらいの大きさの巻物だな。


「あれはなんだろう?」


「わたくしの電球が、あれは罠だと言っているのです」


「どんな罠なんだ?」


「あれに触ると爆発するのです」


「怖っ!? だが、久しぶりにまともな罠っぽくはあるな!」


 今までのヤツは、微妙なのばかりだったからなぁ。


 ここの罠もやればできる子なんだな!


 だからといって、引っかかってはやらないけどな!


 さて、先に進むとするか。



 しばらく飛んでいると、床が真っ赤になっている部屋を発見した。


「なんだあの部屋は!?」


「あれはカーペットなのです」


「もしかして、罠なのか?」


「いいえ、ただのカーペットなのです」


「あれを罠だと思って迂回うかいしたら、実はそこに罠が仕掛けてあるという展開だったりするのか?」


「いいえ、そんなものはないのです」


「なんでそんなのあるんだ?」


「不明なのです」


 訳が分からんなぁ。



「あのカーペットは食べられそうでゴザル!」


「えっ!? 本当に!?」


「わたくしの電球も、同じことを言っているのです」


「ええっ!?」


「なら、食べてみようキュ!」


「では、料理してみましょうか」


 リリィさんたちが地上に下りて行った。


 本当に食べる気なのか!?



 リリィさんがチェーンソーでカーペットを切り始めた。


 さらにカーペットの下にあった畳まで切り始めた。


「リリィさん!? なんで畳まで切っているんだ!?」


「これも食材にします」


「それ食べられるのか!?」


「わたくしの電球が、食べられると言っているのです」


「食べられるのか!?」


「キノコまで生えていますね。これも料理しましょう」


「キノコ!? どこに生えているんだ!?」


「切り取った畳の下に生えていました」


 リリィさんが地面を指差して、そう言った。


 そこにはなぜか土があり、そこに傘の開いていないマツタケのようなものが生えていた。


 あれはもしかして、セイケ・ンーキィノォコか!?


 お前、本当にどこにでも生えているんだな!?



「完成しました。どうぞ」


 リリィさんが料理を調理台の上に並べた。


 そこには野菜炒めっぽく見えるものと、昨日のハンバーグのクリーム煮が入ったスープ皿が置かれていた。


「リリィさん、この料理は?」


「適度な大きさに切ったキノコとカーペットと畳の炒めものと、昨日の残りものです」


「そうなのか」


 本当に料理しちゃったのかぁ。



 せっかくだし、食べてみるか。


 いただきます。


 俺は切ったカーペットを食べてみた。


 なんかニンジンみたいな味と食感だな。


 次は畳を食べてみた。


 こっちは青ネギっぽいぞ。


 意外とうまいな。



「リリィさん、ごちそうさま。美味しかったよ」


「お粗末様でした」


 ん?

 なんだか暗くなってきたな。


 そろそろ夜か。


 この階にもあるんだな。


 では、今日はここまでにして休むとするか。

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