第105話 巨悪と美女
結局ケイカさんの熱意に負けて、巨悪とやらを見に行くことになってしまった。
巨悪は今いる場所から、東北東に進んだあたりにいるらしい。
俺たちはその方角に向かって飛んだ。
しばらく進むと、巨大な化け物がいた。
全長六百メートルくらいありそうだ。
茶色い液体が入った白いミキサーのようなものに、人間の手足が生えている。
手足は小麦色で筋骨隆々、無駄毛はまったくない。
なぜか海の上に突っ立っている。
あれは水の上に立てる特殊能力なのだろう。
「ケイカさん、あれが巨悪で間違いないか?」
「うむ、ヤツである」
「あれはソルジャーのどれかなのッピ?」
「いえ、どのソルジャーでもありませんミャン。それにあんな巨大なものは、見たことがありませんミャン」
なら、あれはなんなのだろうか?
「おい、おっさん、海になんか浮いてるぜ!」
「えっ?」
化け物の近くに何かが浮いていた。
赤い救命胴衣のようなものを身に着けた、水色の長い髪をした人のようだ。
助けを求めるような素振りはない。
どうやら気絶しているようだ。
なんであんなところにいるんだ?
って、そんなのどうでもいいか!
救助しよう!
俺たちは女性に近付いた。
むっ、この人、すごい美女だな。
「ヒモノさん、今、思考が不潔になりましたよ。洗浄しておきますか?」
「きゅ、救助が優先だよ、セレンさん……」
「ヒモノさん、また浮気なのッピ!?」
「ヒモノ、いい加減にしなさいよニャ!?」
「誤解だ! って、そんなことを言っている場合じゃないだろ! 救助しないと!」
「あっ、どうやって救助しようか? 手で持ったら、羽ばたけなくなるよな」
「ヒモノ様、その方を水着でヒモノ様に
「なるほど、良いアイディアだな。それじゃあ、頼むよ」
俺は女性を抱きかかえた。
その直後、ルメーセの水着が現れ、俺と女性を縛り付けた。
よし、これなら飛べるな!
「これでまた雌を手に入れましたねでございます。ヒモノさん、お見事でございます」
「やるな、ヒモノ、褒めてやるでげすぜ!」
「誤解だっての!?」
俺たちは羽ばたいて、上昇した。
「では、どうする? いったん陸地に戻るか?」
「ヒモノよ、巨悪を放置する気であるか!?」
「いや、あんなデカいのどうできるんだよ!?」
「ヒモノ殿、私ならヤツを始末できるでありますよ!」
「えっ!? できるのか!?」
「はい、私の光線で消し飛ばしてみせるであります!」
マモリさんすごすぎだろ!?
なら、やってもらおうかな?
「うーん、それはやめた方が良い気がするでナンス」
「えっ、なぜだ?」
「なんとなく、そんな気がするでナンス」
「わたくしの電球も、そう言っているのです」
「理由は分からないのか?」
「その女性が知っている気がするでナンス」
「そうなのか。なら、聞き出すまで、攻撃するのはやめておこう」
「了解であります」
「ケイカさん、それで良いか?」
「むむっ、何か事情があるのなら、聞いてやるのも善であるな。仕方ない、倒すのは待ってやるのである」
意外と融通は利くんだな。
「ヒモノさん、介抱するなら陸地に行きましょうッピ」
「ああ、そうだな」
俺たちはプーネゾム・ゾ大陸に向かって飛んだ。
体が重い……
やはり人を
「う、うう…… こ、ここはミジュ……」
救助した女性が気が付いたみたいだな。
「大丈夫ですか?」
「えっ、あ、あんた誰ミジュ!? 何その格好ミジュ!? なんでアタシ縛られてんのミジュ!? あんた、アタシに何をしたのミジュ!? もしかして、変質者なのミジュ!?」
救助した女性が暴れ出した。
「ちょ、ちょっと暴れないでください!? 墜落してしまいますよ!?」
「なら、さっさと言いなさいよミジュ!」
「あなたが海に落ちていたから救助したのですよ!? 覚えていないんですか!?」
「海にミジュ!?」
「そうですよ! しかも、近くに巨大な化け物がいたんですよ!」
「そ、そういえば、アタシは海に落ちたんだったわミジュ……」
救助した女性が大人しくなった。
「今、陸地に向かっているので、もう少し我慢してください」
「分かったわミジュ」
分かってくれたようだな。
良かった。
「なんだか良い匂いがするわミジュ。それにすごく落ち着くミジュ」
救助した女性が俺に抱き着きながら、そう言った。
「それは特殊能力のせいです」
「どんな能力なのミジュ?」
「抱き心地が良くなる能力と、抱き着かれると良い香りを発する能力ですよ」
「そうなんだミジュ。すごく良いねミジュ」
「さすがはヒモノさんでございます。雌を
「やるじゃないか、ヒモノでげすぜ」
「はいはい、それはどうも」
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。
「名前なんてどうでもいいでしょミジュ!」
「そうですか……」
なんで隠すんだ?
もしかして、犯罪者だったりするのか!?
「ヒモノさん、わたくしの電球が、そいつは『イナミル』という名前だと言っているのです」
「そうなのですか?」
「な、なんで分かったのミジュ!?」
「わたくしの電球が、そう言ったのです!」
「そ、そうなのミジュ。確かにアタシは『イナミル』よミジュ」
「そうですか。では、イナミルさん、よろしくお願いします」
「堅苦しいのは好きじゃないわミジュ。敬称も敬語も不要よミジュ」
「ああ、分かったよ、イナミル。改めてよろしくな」
「ええ、こちらこそよろしくミジュ。あんたのことはヒモノと呼べば良いのミジュ?」
「ああ、それで良いよ」
「分かったわミジュ」
「『イナミル』ミャン? あ、あなたはまさか『ステータスミックスジュース』の使い手の『イナミル・ナセツテキ』なのではミャン!?」
ステータスミックスジュース!?
「……その通りよミジュ」
「リザァカさん、それはなんですか!?」
「ステータスブレンドティーと同種の能力ですミャン。それを使用すると『ミックスジュースソルジャー』ができ上がりますミャン」
な、なんだって!?
なら、こいつ侵略者のひとりだったのかよっ!?
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