第4話 ピンクウサギ

「ブ、ブミィィィィィィィィィィィィィィッ!?!?!?」


 な、なんだ!?

 壁に激突したウサギの着ぐるみが、突然鳴き出したぞ!?


 いったいどうしたんだ!?


「ブミッ!? ブミョッ!? ブミュッ!? ブミャッ!? ブミィッ!?」


 ウサギの着ぐるみが回転しながら鳴いているぞ!?


 なんだあれは!?


「ブミィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!!!」


 突然ウサギの着ぐるみが青白く発光し出したぞ!?


 なんなんだいったい!?


 その後、光はどんどん大きくなり、ウサギの着ぐるみを完全に包み込んでしまった。


「ブミギャアァァァアアアアァァアァアアアッ!!!!!」


 光の中から叫び声と、骨が折れるような音が聞こえてくるんだけど!?


 あそこで何が起こっているんだ!?


 怖すぎるだろ!?



 しばらくすると、叫び声と骨が折れるような音が聞こえなくなった。


 そして、光がはじけた。


 そこには、なぜかかわいらしい感じの美女がいた。


 身長は一五〇センチくらい。

 髪はピンクのロング。


 目を閉じた状態で、あお向けに倒れている。


 どうやら気絶しているようだ。


 なぜかピンクに変色したウサギの着ぐるみを着ている。


 体型は着ぐるみのせいでよく分からない。


 着ぐるみの頭部は脱げてしまっていて、地面に落ちている。


 あれは金色のウサギの着ぐるみだよな?


 なんで変色して、縮んでいるんだ?


 いったいどういうことなのだろうか?


「これは聖剣の力なのです!」


 突然チカさんが妙なことを言い出した。


「どういうことなんだ?」


「これは聖剣に連続で殴られすぎた結果、素直になりすぎてしまって、まったく別の生物になってしまったのです!」


「な、なんだそれは!? まったく意味が分からないぞ!?」


「とにかくこれは聖剣のせいなのです!」


「その通り! これが俺様の真の力なんだぜ!!」


「そ、そうなのかぁ。すごいなぁ……」


 訳が分からなさすぎる……


 深く考えるのはやめておこう。


 とにかくこれは、こういうものなのだ。



「う、うう…… い、痛いキュ……」


 ウサギの着ぐるみの意識が回復したようだ。


「ぎゃあああああっ!? さっきの人間さんキュ!? 先程は申し訳ありませんでしたキュ! 二度と言いませんので、どうかお許しをキュ!!」


 ウサギの着ぐるみが謝罪してきた。


「本当に反省しているのか?」


 ステーさんが聖剣でウサギの着ぐるみの頭を軽くたたきながら、質問した。


「ブミッ!? はい、反省していますキュ! どうか、どうか、お許しをキュ!」


「どうやら本当に反省しているようだな。ならば、もういい。去れ」


「はい、では、失礼しますキュ!」


 ウサギの着ぐるみは一目散に逃げ出した。


 あいつ足速いなぁ。


 まさに脱兎だっとだな。



「ステーさん、さっきのヤツが反省しているって、なぜ分かったんだ?」


「聖剣でたたいたからだ」


「ああ、そうか。素直になるんだったな」


「そういうことだ」


 ウソを見抜けるのか。


 この能力は役に立ちそうだな。



「さっきのウサギの姉ちゃん、頭を忘れているぜ!」


「本当だ。これはどうしようか?」


「わたくしの電球はツキません。拾っても、拾わなくても、どちらでも問題のないものなのです」


「そうなのか? なら、拾ってみようかな?」


 ウサギの着ぐるみの頭を手に入れた。


 表面は柔らかい毛で覆われているが、奥の方は結構硬いな。


 殴られたら、かなり痛そうだ。


 これなら武器として使えるかもしれない。


 では、先に進もうか。



 しばらく進むと、後ろの方から声が聞こえてきた。


「人間さ~ん、待つんだキュ! 仲良くなろうキュ! お口に入って欲しいキュ!!」


「待って、待って、わたしは同胞だよキュ! 人間さんじゃないよキュ!!」


 先程のピンクのウサギの着ぐるみが、金色のウサギの着ぐるみに追われていた。


 しかも、俺たちに近付いて来るぞ!?


「そこの超カッコイイとげ付き肩バッドのお姉様、どうかお助けくださいキュ!」


 ピンクのウサギの着ぐるみが、ステーさんにゴマをすりながら助けを求めた。


 その直後……


「ブミィィィィィィィィィィィィィィッ!!!!!」


 金色のウサギの着ぐるみが鳴き声を上げながら、壁に激突した。


 そして、壁にめり込んだまま動かなくなった。


 な、なんだ今のは!?


 ステーさんが聖剣で、金色のヤツを殴ったということなのか!?


 全然見えなかったぞ!?


「あれはステーさんの特殊能力が発動したのです!」


「えっ!? どういうことなんだ、チカさん!?」


「ステーさんは棘付き肩バッドを褒められると『棘付き肩バッドも豚もおだてりゃ木に登る』という能力が発動し、うれしさで身体能力が超上昇するのです!!」


「なんだそりゃぁっ!?」


 ステーさん単純すぎないか!?



「お姉様~、ありがとうございますキュ!」


 ピンクのウサギの着ぐるみが、ステーさんに抱き着いて、そう言った。


「あのくらい別に構わん。ところで、なぜ追われていたんだ?」


「なぜかわたしが人間さんに見えるらしいですキュ。お姉様、なぜなんですかキュ?」


「姿が変わったことに気付いていないのか?」


「色が変わったのは分かっていますよキュ?」


「いや、そこではない。頭部のことだ」


「えっ、頭キュ!?」


 ピンクのウサギの着ぐるみが、自身の頭部を手で触り始めた。


「あっ、耳がないキュ!? それに鼻と口も、なんか違うキュ!?」


「お前は聖剣で殴られて、人間型になったのだ」


「えええええええっ!? そ、そんなキュ!? こんな姿では今まで通りに暮らせないキュ!? お姉様、どうすれば良いキュ!?」


「好きに生きろ」


「お姉様、冷たすぎるキュ!? 元に戻す手段はないのキュ!?」


「私は知らん。あるのか、聖剣?」


「一回叩いたくらいなら、時間経過で戻ることもあるのですが、あそこまで変化すると、もう戻らないと思いますよ」


「ないのキュ!? ひどいキュ!! こうなったら、お姉様に付いて行くキュ! 責任を取ってもらうキュ!!」


「ヒモノ、このようなことを言っているがどうする? 始末するか?」


 ステーさんが聖剣を構えながら、そう言った。


「始末はお許しをキュ!!」


「いや、始末はしなくても良いんじゃないか? 俺たちのせいで、あのような姿になってしまったのだしな。少しは面倒を見た方が良いと思うぞ」


「優しいおじさんキュ! ありがとうキュ!!」


「では、しばらくはともに行動しようか」


「はい、皆さん、よろしくお願いしますキュ!!」


 ピンクのウサギの着ぐるみが仲間になった。

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