第109話 失敗、成功っぽい失敗

「それじゃあ、アタシは着替えてくるわミジュ」


 イナミルがそう言って、城の奥に行った。



「では、リリィさん、ミックスジュースを作ってくれ」


「分かりました」


 リリィさんが白いダンボール箱のようなものを出した。


 一辺の長さが六〇センチくらいの立方体だ。


 その中にクッタァ・ラソォ・クーシ、サーン・ズゥノカ・ワチョッコ・ウービン、ジワジ・ワクール・シィンデェ・シヌーを入れた。


「完成しました」


 リリィさんがそう言って、箱の中を見せてきた。


 そこには、ドロリとした黒い液体が入っていた。


 うわぁ、見るからに毒々しいな。


「それじゃあ、この中にステータスウィンドウを入れてみるか」


「おい、待てよ、おっさん。元に戻ったヤツは、どこに出て来るんだ? あの化け物の近くに出たら、マズいんじゃねぇのか?」


「それもそうだな」


 それにあいつは海の上にいるかもしれない。

 戻った直後に溺れてしまう可能性もあるぞ。


「試すなら、あのデカいヤツの近くでやった方が良いんじゃねぇのか?」


「そうだな。では、ウィンドウをひとつだけ持って行こうか」


 ウィンドウを拾った。



「着替え終えたわよミジュ」


 イナミルが戻って来た。


 長袖のシンプルなシャツに、ロング丈のパンツ姿だ。


 大き目のバックパックを背負っている。


 動きやすそうで、旅に向いている格好だな。



 では、出発しようか。


 俺たちは化け物の元に向かった。



 化け物はピヌー・ゼミゼ大陸の砂浜に寝転がっていた。


 おそらく走り回って疲れたのだろう。


 腕を枕にしていて、なんだか休日のおっさんみたいだ。


 ちょっと親近感が湧くな。


 まあ、そんなのどうでもいいか。


 さて、さっそくウィンドウを漬けてみよう。


 ミックスジュースの中に、ステータスウィンドウを入れてみた。



「うーん、何も起きないな。これは失敗かな?」


「そうみたいねッピ」


「おい、おっさん、あの化け物の中の液体に漬けた方が良いんじゃねぇか?」


「……そう言われると、そんな気もするな。チカさん、どう思う?」


「わたくしの電球が、良さそうな気がするようなしないようなと言っているのです」


「ハッキリしないなぁ」


「どうやらあの化け物の直感力は、かなり高いようなのです」


「そうなのか。まあ、いいか。とりあえず、やってみよう」


「では、ミックスジュースは拙者が飲むでゴザル」


「わたしも飲むキュ」


「せっかくだから、俺も少し飲んでみるか」


 俺はミックスジュースを少しだけ飲んでみた。


 うおっ!?

 滅茶苦茶甘い!?


 まあ、材料があの三つだし当然か。


 残ったミックスジュースは、プリーディさんたちが飲み干した。


 あんな甘いのよく飲めるな。



「さて、問題はどうやってあの中に入れるかだよな」


「わたしたちで、あの大きな蓋を開けなきゃいけないのキュ?」


 あいつには、直径四百メートルくらいの蓋がある。


「そうなるな」


「難しそうですねキュ~」


「だよなぁ。まあ、とりあえず、やってみようか。って、今、蓋を開けてしまったら中身がこぼれてしまうか」


「そうねッピ。でも、起きている時では抵抗されてしまうでしょうねッピ」


「面倒だなぁ」


「ヒモノ、あいつはソルジャーたちを捕まえた時、自分で蓋を開けて中に入れていたわミジュ。だから、ある程度大きな動物を捕まえさせれば良いのかもしれないわミジュ」


「なるほど、そこを狙うというわけか」


「ヒモノさん、ちょっと試してみましょうッピ」


「ああ、何かを捕まえよう」


 実験に使ってしまうようで、申し訳ない気はするがな。


「ヒモノさん、わたくしの電球が、このあたりでもチョ・コォターイッヤ・キと、タ・イィターコ・ヤァキが釣れると言っているのです」


「なら、また釣りをするか」


 俺は海にルアーを投げ入れた。



 またチョ・コォターイッヤ・キが釣れた。


「よし、こいつにステータスウィンドウをくくり付けよう」


「ワタクシにお任せください」


 ルメーセの水着でくくり付けた。


「ありがとう、ルメーセ。では、こいつをヤツの近くに置いておこう」



 忍び足で化け物に近付き、チョ・コォターイッヤ・キを置いた。


「よし、近くに隠れて様子を見よう」


「そうねッピ」


 俺たちは近くにあった森に隠れた。



 おっ、化け物が起きて、チョ・コォターイッヤ・キをつかんだぞ。


 な、なんだと!?

 蓋がひとりでに開いただと!?


 あれは自動的に開くのか!?


 意外と高度な技術が使われているミキサーなんだな。


 そして、ステータスウィンドウごとチョ・コォターイッヤ・キを中に入れた。


 さて、どうなるのかな?



 ん?

 化け物から白い光の塊が出てきたぞ。


 あれはなんだろう?


 白い光は砂浜に下り、はじけた。


 そこには、若い男性が横たわっていた。


 どうやら元に戻ったみたいだな。


 ああやれば良かったのか。


 あっ!?

 化け物が若い男性をつかんで、体の中に入れてしまったぞ!?


 せっかく戻ったのに、これでは意味がないじゃないか!?


 その後、化け物は海の上を歩いて、どこかに行ってしまった。



「作戦は、成功したような失敗したような感じになってしまったな」


「ええ、そうねッピ」


「さて、これからどうするか?」


「ステータスウィンドウを全部一遍に、あの中に入れちまえば良いんじゃねぇか?」


「なるほど、そうかもしれないな。なら、やってみるか」


「ステータスウィンドウを集めに行くでヤンス」


「ああ、行こうか」


「ヒモノさん、砂浜にステータスウィンドウがふたつ落ちているのです」


「えっ? そうなのか?」


「はい、あの化け物が男性とチョ・コォターイッヤ・キを体の中に入れた後に、足の付け根のあたりから落ちて来たのです」


 足の付け根のあたり?


 それはまさかうん……


 いや、それは考えないようにしよう。


「では、それを拾っておこうか」


 砂浜でステータスウィンドウを拾い、セレンさんに洗浄してもらった。


 念のためにな。


 よし、他のものも拾いに行こうか。



 俺たちはトーミロコの城に戻り、ステータスウィンドウを拾い集めた。


「この国にあるのは、これで全部か?」


「いいえ、まだアタシの隠れ家の中にもあるわミジュ」


「なら、そこに案内してくれ」


「分かったわミジュ」


 俺たちはイナミルの隠れ家に向かった。

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