第3話 ダンジョン探索(強制)

 すさまじく高いところに、見覚えのない岩の天井がある。


 しかも、なぜか所々白く光っている。


 そのおかげで、とても明るい。


 周囲にはものすごく高い岩の壁が立っている。


 地面には短い草が大量に生えている。


 ここは巨大な洞窟の中のようだ。


 なんじゃこりゃぁっ!?


 ここはどこなんだ!?


 明らかに俺の部屋ではないぞっ!?


 俺はなぜこんなところにいるんだ!?


 部屋で寝ていたはずだろ!?



 もしかして、これは夢なのか!?


 俺は頬をつねってみた。


 普通に痛いだけだった。


 どうやら夢ではないようだ。


 なら、なんなんだ、これは!?


 昨日より意味が分からない状態だな!?


「おはよう、ヒモノ」


「おっ、やっと起きたか!」


「おはようございます」


 ステーさん、聖剣、チカさんが挨拶をしてきた。


「おはよう。って、のんきに挨拶をしている場合じゃないって!! ここはどこなんだ!? なんで俺はここにいるんだ!?」


「落ち着け、ヒモノ。ここはおそらくダンジョンの中だ」


「えっ!? どういうことなんだ、ステーさん!? なんでそんなところにいるんだ!?」


「お前が寝ている時に、急に落下したのだ」


「はぁっ!? 落下!? どういうことだ!?」


「建物の直下に、動画に出ていたダンジョンの入り口のようなものが出現したようだ。それに建物ごとみ込まれたということだ」


「あの黒い円にアパートごと!? なら、アパートはどうなったんだ!?」


「不明だ」


「そうか……」


 まさか最悪な事態になってしまったのだろうか!?


 俺は住所不定になってしまった!?


 いや、その前に行方不明か!?


 頭が痛くなってきた……


 そういえば、通帳やカードやスマホは無事なのだろうか?


 さらに頭が痛くなってきたぞ……


「その後、なぜかここにいたというわけだ」


「そうだったのか。それで、そのダンジョンの入り口はどうなったんだ?」


「消えた」


「そうなのか……」


 頭が痛すぎる……



「俺たち以外の人はいないのか?」


「いない。私たちだけだ」


「そうか……」


 他の部屋の住人たちは無事なのだろうか?


 みんな良い人たちだったからなぁ。


 無事でいて欲しいものだ。



「ああ、それから昨日買ってきたものは、すべて持ってきてある」


 ステーさんがバックパックを見せながら、そう言った。


「なんでそんなの持っているんだ?」


「チカの指示だ」


「わたくしの電球が、それらを持っておけと言っていたのです!!」


「そ、そうなのか。助かるよ、ありがとう」


「どういたしまして! それより、ヒモノさん! ここが新世界なのです! ここからわたくしたちの伝説が始まるのです!!」


「新世界って、なんなんだ!?」


「言葉通りの新しい世界なのです!!」


「いや、そうじゃなくて、具体的にどういうものなんだ!?」


「新しいということしか分からないのです!!」


「では、新しくなる前の世界はどうなったんだ?」


「終わったのです!!」


「それはどういうことなんだ!?」


「終わったということしか分からないのです!!」


「ソ、ソウデスカ……」


 結局よく分からないのか。


「なら、アパートに帰る方法は分からないのか?」


「サッパリ分からないのです!!」


「そうか……」


 どうやら簡単には帰れなさそうだな。



 バックパックの中を確認してみた。


 通帳、カード、スマホなどの貴重品は入っていなかった。


 頭がさらに痛くなった。



「これからどうしようか?」


「ヒモノはどうしたいんだ?」


「とりあえず、出口を探した方が良いと思う」


「なら、それを探そう」


「そうだな」


「ヒモノさん、わたくしの電球が、あちらに行けと言っているのです!!」


 チカさんが指差しながらそう言った。


「そうなのか。なら、行ってみようか」


 他に当てもないし、直感を信じよう。


「おい、おっさん、その前に着替えろよ!」


「朝食も食べておけ」


 聖剣とステーさんに注意された。


 そういえば、寝巻のままだったな。


「分かったよ。ステーさんたちは食べたのか?」


「私たちはすでに食べ終えた」


 なぜかステーさんと、チカさんは食事をするんだよな。


 聖剣はしないけど。


 なんでだろう?


 うーむ、分からん。


 まあ、いいか。


 俺は昨日買ってきたバランスよく栄養が摂取できるクッキーを食べ、水を飲んだ。


 そして、レーシングスーツに着替え、ブーツを履き、ヘルメットをかぶり、シャベルを持った。


 護身用にチカさんにもシャベルを持たせた。


 よし、これで準備完了だな。


 では、行こうか。



 チカさんの先導で洞窟内を歩いている。


 ここは巨大な迷路状になっているようだ。


 さっきから分かれ道が多数あるぞ。


 チカさんの言う通りに進んでいるけど、大丈夫なのかな?


 念のためにマッピングをしておこうか。


 俺は昨日買っておいた方眼紙を取り出し、描きながら進んだ。



「ヒモノさん、ツキそうです!」


 チカさんが突然立ち止まり、そう言った。


「えっ!? 何が!?」


「わたくしの電球がです!」


「ということは、何か起こるのか!?」


「はい! それも悪いことが起こる感じがするのです!!」


「悪いこと!? いったい何が起こるんだ!? 敵か!? 罠か!? とにかく警戒しよう!!」


 俺たちは周囲を調べ始めた。



「ヒモノさん、わたくしの電球が、あちらから何か来ると言っているのです!」


 チカさんが指差しながらそう言った。


 そして、その方向から何かが近付いて来た。


 金色のウサギの着ぐるみを着ているように見える人型の何かだ。


 身長二メートルくらい。


 かわいいという印象はまったく受けない、無表情で不気味な着ぐるみだ。


 なんだあいつは!?


 こんなところで着ぐるみを着て、何をやっているんだ!?


 もしかして、あいつは敵だったりするのか!?


「おおっ、人間さんだキュ! 会えてうれしいキュ!!」


 ウサギの着ぐるみがフレンドリーに話しかけてきた。


 人間さん?

 こいつは人間ではないのか?


 それになんで変な語尾が付いているんだ?


 まあ、そこはどうでもいいか。


 とりあえず、質問してみよう。


「どちら様ですか?」


「わたしキュ? 人間さんには『ミョガガベ』や『ウサキュキュ』と呼ばれたことがあるキュ」


 ミョガガベ!?

 ウサキュキュ!?


 なんだそれは!?

 意味が分からんな!!


「ああ、そういえば『モンスター』や『魔獣』と呼ばれたこともあるキュ」


 モンスターに魔獣!?


 これは敵であると判断して、攻撃すべきか!?


 いや、それは早計か。


 もう少し話をしてみよう。


「ここで何をしているのですか?」


「人間さんを探していたキュ」


「人間をですか? なんのためにですか?」


「仲良くなりたいんだキュ」


 こいつは友好的なヤツなのか?


「さあ、人間さん、わたしのお口に入りましょうキュ。そうすれば、とっても仲良しになれるキュ」


 ウサギの着ぐるみの口が開いた。


 そこにはとがった歯がびっしりと生えていた。


 ナニアレ!?

 怖すぎるだろ!?


 あの中に入ったら、絶対死ぬって!?


「ヒモノ、チカ、構えろ。あれは敵だ」


「あ、ああ、分かった」


「はい」


 俺たちは武器を構えた。


「むっ、わたしと仲良くする気はないということなのキュ?」


「お前ごときに食われる気はない」


 ステーさんが断言した。


 とても凛々りりしいな!


「むむっ、なんて意地悪な人間さんキュ! 変なものを肩に付けているくせに生意気キュ!!」


「お前、今なんて言った?」


 ん?

 なんかステーさんの様子がおかしくないか?


 もしかして、怒っているのか?


「肩に変なトゲトゲが付いてるって、言っているキュ!」


「変なの!? 私の大切な棘付き肩パッドを変なのだと!?」


 ステーさんが声を荒らげた。


 ええっ!?

 それ大切なものだったのか!?


「その通りだキュ。変なトゲトゲだキュ!」


「そうか。変なトゲトゲか。許さん、死ね!!」


 ステーさんがそう言った直後に消えてしまった。


 どこに行ったんだ!?


「ブミィィィィィッ!?」


 突然ウサギの着ぐるみが鳴き声を上げた。


 あれは聖剣の鳴き声じゃないか!?


 ステーさんが攻撃したというのか!?


 まったく見えなかったぞ!?


 どうなっているんだ!?


「あ、あれはまさか!?」


「チカさん、何か知っているのか!?」


「あれは伝説の特殊能力『とげ付き肩パッドのとげ怒髪どはつてんく』なのでは!?」


「なんだそりゃぁぁっ!? いったいどんな能力なんだよっ!?」


「棘付き肩パッドをバカにされると、怒りで身体能力が超上昇する能力なのです!!」


「えええええっ!? そいつはすごいな!! だが、それは本当に伝説なのか?」


「伝説の特殊能力だと、わたくしの電球が言っているのです!!」


 それって、もしかして、直感!?


 それでは伝説になっているとは限らないのでは!?


 まあ、細かいことはどうでもいいか!!



「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」


「ブッ、ミッ、ブッ、ミッ、ブッ、ミッ、ブッ、ミッ、ブッ、ミッ、ブッ、ミッ、ブッ、ミッ、ブッ、ミッ、ブッ、ミッ、ブッ、ミッ、ブッ、ミッ、ブッ、ミッ!!」


 ステーさんが雄たけびを上げながら、ウサギの着ぐるみを聖剣で殴っているようだ。


 動きが速すぎて、まったく見えないけどな。


「おおおおおおっ!!! これでとどめだぁぁぁっ!!!」


「ブミィィィィィィィッ!!!!!」


 ウサギの着ぐるみが壁にたたき付けられた。


 すごすぎる!

 なんという強さだ!?


 全然見えなかったけどな!


 まあ、とりあえず、ステーさんの肩パッドをバカにしないようにしよう。


 俺は心に固く誓った。

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