第21話 鳥になる

 俺の前に、ペンギンの着ぐるみのようなものを着た美女が現れた。


 くちばしの直下から顔が露出している。

 ペンギンの足のような形の黒い靴を履いている。


 くちばしは毒々しい濃い青。

 腹は白。

 他の部分は紫と赤と白のマダラ模様。


 このような色合いで、なんだか不気味だ。


 さらに、目が死んだ魚のような感じになっている。


 本当に不気味な着ぐるみだな。 


 こいつが鳥力とりりょくのステータス令嬢なんだよな?


 格好は鳥だから、多分そうなのだろう。


 とりあえず、挨拶をしてみようか。


「初めまして、俺が君を出した紐野ひもの ひとしだ。よろしくな」


「どうも、初めまして、どう見ても鳥類に属している者ッス」


 鳥力のステータス令嬢がそう言った。


「いや、どう見ても人間に見えるぞ。着ぐるみを着ているだけの人間なんだろ?」


「違うッス。身も心も鳥類ッス」


「そ、そうなのか……」


 こいつも変わっているなぁ。



「名前はあるのか?」


「ないッス」


「そうか。ないと不便だし、何か考えようか。何が良いかな?」


「鳥類のあーしにふさわしい名前が良いッスね!」


「鳥類か。なら『ピーちゃん』とか?」


「鳥の鳴き声からッスか? 単純すぎッスね」


「うっ、確かにその通りだよ。なら、何が良いんだよ?」


「そうッスねぇ。あーしの名前は『トーリ』で決定ッスよ」


「トーリ!? ピーちゃんより単純じゃないか!?」


「そんなことはないッス!!」


「そうなのか? まあ、いいけど。では、トーリさん、改めてよろしく頼むよ」


「こちらこそよろしくッス」


 その後、他のみんなも自己紹介をした。



「ところで、トーリさんはどんなことができるんだ?」


「『鳥類になって空を飛べる能力』が使えるッス」


「飛べるようになるのか! そいつはすごいな! 長距離の移動はできそうなのか?」


「練習すればできると思うッス」


「ちょっと試してもらっても良いか?」


「良いッスよ。それじゃあ、いくッスよ~」


 トーリがそう言って、俺に手のひらを向けた。


 すると、俺の体が何かに包まれたような気がした。


「成功したッスよ」


「今のは? いったい何が起こったんだ?」


「自分の体を見てみると良いッスよ」


「えっ? こ、これは!? 着ぐるみ!? いつの間に!?」


 しかも、これはトーリさんと同じものじゃないか!?


 強制的に着ぐるみを着せる能力なのかよ!?


「着ぐるみじゃないッス! ヒモノも鳥類になっただけッス!」


「俺、人間ではなくなってしまったのか!?」


「その通りッス!」


「そ、そうだったのか……」


 いや、これはどう見ても着ぐるみを着せられただけだろ。


 まあ、面倒なことになりそうだから言わないけどな!



「ヒモノ、さっそく飛んでみるッス!!」


「飛ぶ!? どうやって!?」


「鳥類なんだから、羽ばたけば飛べるッスよ!」


「ええっ!? そんなので飛べるのかよ!?」


 ペンギンっぽいから無理なのではないか!?


「今のヒモノは鳥類だからできるッス! やってみれば分かるッス!!」


「わ、分かったよ。やってみるよ」


 俺は両手を上下に振ってみた。


 だが、浮きすらもしなかった。


「飛べないんだけど……」


「それじゃあ、ダメッスよ! もっと速く羽ばたくッス! 自分は鳥類だ、絶対飛んでやる! という気合と根性と勇気と熱血を込めて、全力で動かすッス!!」


「あ、ああ、分かったよ……」


 気合と根性と勇気と熱血か。


 意味が分からんけど、やってみよう。


 俺はさらに速く両手を振った。


 ん?

 ちょっと浮いてきたか?


「良い調子ッスよ! もっと闘魂と情熱を込めて羽ばたくッス!!」


 気合と根性と勇気と熱血は、もう十分なのか?


 まあ、どうでもいいか。


 俺はもっと速く両手を振った。


 だんだん腕が痛くなってきた。


 だが、徐々に体が上昇してきたぞ!


 すさまじく疲れるけど、こいつはすごいな。


「良いッスよ! 飛んだら羽ばたく速度を落とすッス! そうすると、上昇しないッス! 下降したい時は、羽ばたくのをやめるッス!」


「分かったよ」


 俺は羽ばたく速度を落とした。


 すると、俺の体は上昇しなくなった。


 これは鳥類の飛び方とは違うような気がするのだが……


 まあ、いいか。


「良いッスね! 次は前方に移動してみるッス!」


「どうやって進むんだ!?」


「前方に進みたいと思うと進むッス!」


 明らかに鳥類の飛び方ではないな。


 まあ、どうでもいいか。


 気にしないようにしよう!


「分かった。やってみよう」


 俺は前方に進みたいと思った。


 すると、俺の体がゆっくりと前進した。


「良い調子ッス! もっと速度を上げてみるッス!」


「いや、そろそろ腕が限界だ……」


 俺は羽ばたくのをやめ、着地した。


「つ、疲れた……」


「もっと練習が必要ッスね。疲れるのは、鳥力が足りてないせいッスよ」


「鳥力と言われてもなぁ。どうやれば良いんだ?」


「自分は鳥類だと思えば良いッス」


「そうなのか」


 意味が分からんなぁ。



「トーリ、私たちも練習させてくれ」


「分かったッス」


 トーリさんがみんなにも能力を使用した。


 全員鳥の着ぐるみ姿になった。


 コピータ、ピコピコ、聖剣まで着ぐるみを着ている。


 これはヤバい!?


 変態集団の完成じゃないか!?


 この一団が空を飛んでいたら、撃たれるんじゃないか!?


 気を付けないとな!



 ステーさんたちも飛ぶ練習を始めた。


 みんな結構飛べているなぁ。


 鳥力が俺よりも高いのか?


「フハハハハッ! 俺様は鳥だぜ!!」


 なぜか聖剣が一番うまく飛んでいるぞ。


 どうやって動かしているのか分からないが、翼を素早く羽ばたかせ、空中を自由自在に飛んでいる。


 しかも、速度はかなり速い。


 あれは鳥を越えているのではないか?


 すごいもんだな。


 あれならひとりで敵陣に突っ込んで、ブミブミ言わせられるのではないか?


 王との戦いでも使えるかもしれない。


 思わぬところで、戦力が増強されたな!


 うれしい限りだ!


 さて、俺も練習を再開するとしようか。



 その後、トーリさんに言われた通り、俺は鳥だと思いながら飛んでみたらうまくいった。


 歩くよりも、かなり速く移動できる。


 しかも、なぜか腕を振り続けても、あまり痛くならない。


 これなら長距離の移動でも問題なさそうだ。


「見事な飛びっぷりッス! これでヒモノも立派な鳥類ッスね!!」


 トーリさんに認定されてしまった。


 あんまりうれしくないぞ!?

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