第65話 それは料理なのか?

「では、次は料理力のステータス令嬢にしようか」


「美味しいものを作ってもらえるようになるキュ!」


「楽しみでゴザル!」


「そうだな。さあ、出て来い!」


 俺の前に、料理力のステータス令嬢と思われる人物が現れた。


 やさしく、穏やかな笑みを浮かべた和風の美女だ。


 なんだか旅館の若女将といった感じがする。


 身長は高めで、スタイルはすさまじい。


 ただ、なんだあの格好は!?


 鮮血で染めたかのように赤い、コック服を着ている。


 同じ色のコック帽と前掛けもしている。


 所々に返り血を浴びたような赤黒い模様もある。


 服だけ見ると、かなり怖いぞ!?


 いったいどんな人物なのだろうか!?


 勇気を出して話しかけてみようか。



「初めまして、俺が君を出した紐野ひもの ひとしだ。よろしくな」


「そうでしたか。では、あなたを料理するのはやめておきましょう」


「いきなり何を言っているんだ!?」


 言わなかったら、料理するつもりだったのか!?


「この世にあるものは、すべて食材です」


 ええっ!?

 突然何を言い出してんの!?


「ですので、つい考えてしまうのですよ。目に入ったものを、いかに料理すべきなのかと」


 常にそんなことを考えているのか!?


 怖っ!?


「いや、食べられないものは普通にあるだろ!?」


「いいえ、ありません」


「そこらの土とか、石とかは、食べれないだろ!?」


「いいえ、美味しいと感じないだけで食べることはできます」


「料理人は食材じゃないだろ!?」


「いいえ、料理を作れる食材です」


「自分自身も食材なのか!?」


「はい、わたしが食べないだけで食材です」


 えええええっ!?

 発想がヤバい!?


「毒のあるものも食材なのか!?」


「はい、中毒症状を引き起こすだけで、食べることはできますよ」


「それを食べられないと言うのではないか!?」


「口に入れて飲み込めれば、すべて食べ物です」


「そんな認識なの!?」


 怖っ!?

 本当にすべてのものを食材としか思っていないのかよっ!?


 こいつに料理を作らせて大丈夫なのか!?


 確かめないと!?



「俺たちは君に料理を作って欲しいんだけど、やってくれるか?」


「はい、構いませんよ」


「どんな料理を作ってくれるんだ?」


「今できそうなものは、その辺の土と石と草を皿に載せたものですね」


「ええっ!? それはやめてくれ!?」


 何を言ってんだ、こいつは!?


 おままごとかよっ!?


「では、そこの金属の塊を料理しましょうか」


「筋肉の修行場のことか!? あれもダメだって!?」


「おや、あそこに髪、布、肉、皮、骨、血、内臓、脂肪の塊がありますね。あれを料理しましょうか」


 料理力のステータス令嬢が、メェールさんたちを見ながらそう言った。


「それもやめろ!?」


「ヒモノさん、こいつは危険よッピ!」


「こいつ妾を食べようとしたわよニャ!」


 メェールさんとレイトナさんが、俺の背中に隠れながらそう言った。


 確かに危険すぎる。


 まずは料理に対する認識を変える必要があるようだな。



「俺たちの作って欲しい料理というのは、生存に必要な栄養が十分に取れて、健康になれる、腹を壊さない、中毒症状を引き起こさない、人間を使わない、美味しいものなんだよ。それを作ってくれないか?」


「はい、分かりました」


「では、何を作ってくれるんだ?」


「そこにいる赤い箱や棘の付いた木の実のようなものを使って、何かを作りましょう」


 コピータたちを除外し忘れてた!?


「ちょっと待った! ここにいる連中は、みんな仲間なんだ! こいつらは食べないでくれ!」


「はい、分かりました。しかし、困りましたね。何を作りましょうか?」


 おおっ、ヤバいことを言わなくなったぞ!


 教育に成功したのか!?


「では、わたし自身を料理しましょうか」


「それもダメだ!?」


 こいつには一般常識を教えなくてはダメだな!?


 時間がかかるかもしれないけど、がんばろう。



「そういえば、君の名前はあるのか?」


「いいえ、ありません」


「なら、何か付けるか。ええと『リリィ』なんてどうだろう?」


「わたしはそれで構いませんよ」


「では、リリィさん、改めてよろしく」


「はい、よろしくお願いします、食材さん」


 食材さん!?


「俺のことは、ヒモノと呼んでくれ!?」


「分かりました、食材さんのヒモノ」


「『食材さんの』はいらないぞ!?」


「はい、分かりました、ヒモノ」


 つ、疲れる……



「リリィさんは特殊能力を身に付けているのか?」


「『調理器具を出す能力』と『食器を出す能力』があります」


「効果は名前通りなのか?」


「はい、その通りです」


「そうなんだ。便利そうな能力だな。ちょっと見せてもらっても良いか?」


「はい、分かりました」


 なぜかチェーンソーのようなものが出て来た。


「これは食材を切り刻むのに便利ですね」


「そ、そうなのか……」


 なんでいきなりそれが出て来るんだ!?


「これは大きな食材を焼くのに便利です」


 今度は火炎放射器のようなものが出て来たぞ!?


「それを使ったら、真っ黒焦げになるんじゃないのか!?」


「その通りですが、それが何か?」


「それもやめて!?」


「分かりました」


 危なかった……


 これを教えなかったら、消し炭を食う羽目になったかもしれない。



「もしかして、リリィさんは戦闘もこなせるのか?」


き造りですか? できますよ。き締めもできます」


「そうなのか」


 これは戦えそうだな。


 ミョガガベがいたら、試しに戦ってもらおうかな?



「ところで、フーカは戦えるのか?」


「お姉さんに、そこは期待しないでね」


「分かったよ。では、コロモはどうなんだ?」


「社長がやれと言うならやりますよ!」


「戦闘能力はあるのか?」


「そこはよく分かりませんけど、やりますよ!」


「そうなのか」


 やる気だけって感じだな。


 無理に戦わせる必要はなさそうだな。

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