第213話 最後に

「と、とりあえず! 私はお茶でも買ってきますね!? 大神さん、私も事情説明をしますから! オーナーから、ちゃんと詳しい事情も聞いてますのでね!?」


 トワイライトと俺のマネージャー兼、社長――何でも屋の苦労人、川鶴さんは駆け足でお茶を買いに出た。


 とは言っても、説明は配信でもしたからぁ……。

 これ以上、俺の口から何を言えと?


 そもそも納得したくない話は、何度説明をしても無駄って、偉い人が言ってました!

 3人娘も――兎に角、承服出来ない! する気がない!

 そう顔に書いてある。


 うん、理屈じゃないんよね、こう言うのは。


「いやぁ~。皆、俺がレンタルされるのを寂しがってくれて、ありがとね? 嬉しいよ!」


「ん。当たり前。と言うか、お兄ちゃん。満更でもなさそう」


「だってさ、誰かに必要としてもらえるって、嬉しいもんだよ? 怒る寂しがる取り乱すって事は、居なくならないで欲しいと同義でしょ?」


 そう考えると3人娘の感情は、最高に嬉しい。


 美尊が瞳を潤ませているのは心に来るけど、学校が休日なら時間を合わせて、デートも出来るだろう。

 会う頻度が減るのは、間違いないけどさ。

 今はビデオ通話だってあるから、何時だって顔も見られる。


「――買ってきました! さ、改めて冷静に、落ち着いてお話をしましょう! このお茶、鎮静作用ちんせいさようがあるんですよ」


「あ、ありがとうございます」


 ハァハァと息を切らしながら、川鶴さんが人数分のお茶を並べてくれる。


 あれよね。

 川鶴さんって、パワフルよね。

 開拓者の身体能力かと思う程、スピーディーに何ごとも頑張ってくれる。

 今回の件もだけど……胃薬を今度、プレゼントしよう。


「改めて、私の口から説明しますね? 要は――」


 配信で俺がした、たどたどしい説明とは違い、川鶴さんの説明は簡潔で要点を押さえていて、凄く分かりやすかった。


 なんか、凄い敗北感があるけど……。

 3人娘も、やむを得ないみたいな雰囲気になって来てる。


 これが大人――あ、川鶴さんって、俺より年下だった。

 完全敗北です!


「……つまり、旭プロの連中を改心させられれば、お兄様は帰って来られるんですよね?」


「そうね。後、黄色い龍の情報を一針正樹から仕入れられれば」


 強い意思を込めた声で、深紅さんが確認するように問うてくる。

 そもそも今回のレンタル移籍の目的は、大きく2つだ。


 1つ目。

 旭プロの経営改革と、所属開拓者の離脱を止めること。


 これは姉御が経営を変革、現場は俺が開拓者も捨てたもんじゃないな~と所属開拓配信者に思わせられれば、ミッション達成だ。


 そして2つ目。

 これは私利私欲しりしよくだけど、黄色い龍の情報を唯一、知る存在――羅針盤に所属する一針正樹から情報を得ることだ。


 そもそも羅針盤は、Aランク開拓者なのに――やってる活動が地味。

 一針正樹に関しては、単独で姉御と同じAランク開拓者なのに、全く目立っていない。


 安全に狩れるダンジョンで、実績を積み上げている。

 配信自体も、滅多にしていないようで……。

 多分、強者を育成して、強者には特権を与える旧旭プロの体制によるものなんだろうけど……。


 羅針盤の行動は、色々とつかみ所がない。

 その謎のベールに包まれた部分に、突っ込んで行こうって訳だ。


「うん、我ながら武闘派だけど……。意識改革と、情報を得る為に乗り込む、みたいな感じだなぁ」


 しみじみと、呟いてしまう。


 そうして、深紅さんと美尊は――明るい表情を浮かべた。

 え、なんで?


「それなら、話は簡単です。――待っていてください! ウチ、更に頑張りますから!」


「ん。単純で原始的だった」


 単純で原始的?

 なんだろう、凄く嫌な予感が……。


「ああ、この展開、これはこれで美味しい……。新しい展開、妄想が……。はっ! ダメ、今は現実。そういうのは家でやらなきゃ」


 涼風さんは、何と戦ってるの?

 でも幸せそうだし、いっか。


「そうと決まれば、ウチらのやるべきことは決まったも同然」


「ん。更に覚悟が決まった」


「オッケーだよ。私も頑張るね」


 トワイライトの結束は固い。

 先日の大ピンチを乗り越えてから、更に連携も信頼関係も高まっている気がするし、本当に将来が楽しみだな。


 美尊、良い仲間に恵まれて……。

 お兄ちゃんも、嬉しいよ。


 なんて思っていると、ポケットに入れていたスマホが震動した。

 軽くスマホを見ると――。


「――あ、姉御からメッセージ?」


「オーナーからですか? なんと仰ってるのか、お聞きしても良いですか?」


 川鶴さんが、身を乗りだして聞いてくる。

 そっか。

 この人も姉御に憧れ、大好きな人だった。


 えっと……。

 うん、内容を確認したけど……。

 ちょっと、ビックリ。


「シェアハウス先に移る荷物を運び入れる日程が決まったらしいです」


「え。……お兄ちゃん、何時? まさか来週、とか?」


 瞳に涙を薄ら浮かべながら尋ねる美尊に、少し申し訳なくなる。

 10年振りに再会したのに、だからなぁ……。


 でも……伝えないと、か。


「……明日の昼、らしい」


「え!? あ、明日っすか!?」


「と言うことは……お兄ちゃんとの御飯、明日の朝まで?」


「そう、ね……。明日の朝が暫く最後、かな?」


 シンっと、場が静まりかえった。

 悪い事はしてないはずだけど、空気が重くて冷や汗が……。

 避けられない仕事で家庭の時間が少なくなってしまう父親って、こんな感じなのかな?


「明日の朝、最後の朝食を一緒にしましょう!」


 そんな空気を、明るい声で振り払ったのは、深紅さんだ。


 ナイス!

 流石、トワイライトのリーダー!


「深紅? お兄ちゃんと私の時間を、また邪魔をする気? 暫く会えなくなるって分かってて?」


 美尊、気持ちは嬉しいし愛おしいけど、その殺気はしまいなさい。


「う、ウチだって、寂しいんだよ! お姉さ……美尊」


「――今、私の事を、なんて呼ぼうとした?」


 コラコラ、殺気が可視化されてるぞ。

 そんな分かりやすい殺気じゃ、誰も倒せないからね?


 いかん!

 そうじゃなかった!


「お兄さん先生、送別会も出来ないなんて、寂しいです……」


「涼風さん……」


 う……。

 こう言うストレートなのが、一番心をえぐられる。

 嬉しいけど、俺まで切なくなると言うか……。


「大神さん……。あの、私も荷物運搬を手伝いますので、あの……。せめて、明日の朝食を……。トワイライトだけでなく……。正直、私も寂しいですし……」


「か、川鶴さんまで……。分かりました! 大したお構いも出来ませんが!」


 そうね。

 美尊とは、個人的にデートをすれば良い。


 明日の朝は、皆で近所迷惑にならないように食事会をしよう!



―――――――――――

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