第95話 締め日? 振り込み日!? ほわぁ!?

 地上へ続く階段を上り、扉を開く。

 扉を開けて直ぐに見えるギルド受付、そして――。


「――大神さん。今日も開拓、お疲れ様でした。Dランク昇格に、50万人突破。そして収益化もおめでとうございます!」


 黒髪ショートヘアーに黒目、スーツ姿にメガネが良く似合う女性――マネージャー兼社長の川鶴かわつるさんが、笑顔で迎えてくれた。


「川鶴さん! ありがとうございます! これも川鶴さんたちが支えてくれたお陰ですよ!」


 魔石の換金も後回しに、川鶴さんの両手を握りお礼を言う。

 川鶴さんは、戸惑ったように口をもごもごと動かしている。


「あの……。私はマネージャーで、当然の事をしてきたまでですから。それに……所属のアイドルとこんな事をしているのがみられたら……」


 チラチラとこちらを覗いながら、川鶴さんは小さな声で言う。

 俺はハッと飛び退き、頭を下げる。


「すすす、すいません! 沢山のスーパーチャットを頂いて、ついついテンションが上がってしまって!」


「い、いえいえ! あれだけの大金が飛び交っていたら、無理の無い事です! だから頭を上げてください!」


 ペコペコと頭を下げると、川鶴さんのあたふたとした声音が耳に入る。


「兎に角、収益化も通った事で……これから今までより収入が増えそうですね。……大神さんの取り分が1割という契約には、私も心苦しく思っていましたから」


 そう、他のシャインプロ所属開拓配信者――全員女性だけど、その子たちの取り分は5割だ。

 俺とは随分、差がある。

 何か姉御に考えがあるだろうと思っているし、俺も納得しての契約だ。

 だけど――。


「収益化が通って、皆が支援してくれましたから! これで明日、美尊と一緒にアフタヌーンティーを楽しむ料金も手に入りましたよ! 見て下さい、来る途中に予約したんですけどね! 再会後、初めてだからちょっと背伸びして良い所を予約してしまいました!」


 川鶴さんに、予約した画面を見せる。


「わぁ! おしゃれなカフェですね! お値段……1人、5500円!?」


「はい! 少しお茶するだけでこんな高いの!? 洋服が買えるじゃん!――って、最初は驚いてたんですけど……。今日、ご厚意でいただいたスパチャ額を考えれば、美尊を笑顔にする為には余裕の出費かなって!」


 今日のスパチャ額は、最終的に3桁万円近くに及んでいる。

 手数料を引かれた後、事務所と分けた1割が取り分だとしても、まだまだ余裕があるだろう。


 そう計算し、清水の舞台から飛び降りる覚悟で予約を済ませた。

 こういう店なら、テーブルマナーとかも求められるかもしれない。


「あの……ですね?」


 川鶴さんが、非常に苦しそうな表情を浮かべ――。


「――御説明が遅れてすいません!」


「へ!? どうして頭を下げるんですか!? や、止めてください!」


「いえ、これはマネージャーである私の説明不足です!」


「せ、説明不足?」


 俺が首を傾げると、川鶴さんは頭を上げ、非常に申し訳なさそうに口を開いた。


「その……。収益化が通り入る収入には、スーパーチャットの他に動画の再生数――広告を出している会社からの広告収入を視聴した回数に応じた収入があるとは、御説明しましたよね?」


「は、はい」


 なんだろう、実は違うとか……そういうドッキリじゃないよね?

 なんでそんな、申し訳がなさそうにしているんだろう?


「肝心の収益が確定して、口座に振り込まれる時期が……ですね? 月末締めで翌月末に振り込まれるんです! つまり今月――10月の分は、11月の最終日が振り込みなんですよ。……だから、その。非常に言いにくいのですが、明日の美尊さんとのデートには……」


「……ふぇ?」


 え?

 即座に口座へ振り込まれるんじゃない?

 え、じゃあ……明日のアフタヌーンティーの費用は――。


「――やばい。今の俺、1文無しだ」


 サッと、血の気が引いた。

 今、倒してきたモンスターの魔石を換金したとしても……多分、経験的に手元には3万円ぐらい入ると思う。


 でも、美尊がスパチャしてくれた金額は返すつもりだから……12万円のマイナス。

 本当にお茶をして帰るだけでも、美尊の分まで払うとした――13万1千円足りない。


「すいません、すいません! 私の説明不足でしたので、ここは私が出しますから!」


「い、良いですから! それは止めましょう!?」


 鞄から財布を取り出した川鶴さんの手を止める。

 中身が見えてしまったけど……クーポンカードやレシートに付いている割引券でギッシリと分厚かった。


 川鶴さんって、マネージャー兼社長だよね?

 収入……少ないのかな?

 いや、単に節約家なんだろう! なんとなくだけど、そういう性格に見える!


「しかし私は、この失態をどう償えば……」


 オロオロと狼狽ろうばいしている川鶴さんを見ていると、申し訳なくなる。

 俺は川鶴さんの肩に手を置き――。


「――大丈夫です! 今、積んである魔石を換金すれば3万円ぐらいになる。リース料金は今回ので返し終わりましたから、次からは約6万円。つまり――あと2回潜って換金してを繰りかえせば、ミッションクリア! デートの身だしなみ用に清潔な服を買っても、お釣りが来るぐらいです!」


「で、でも! その魔石って300体分ぐらいありますよね!? あと2回って、一晩で約1000体も――」


「――問題ありません。さっきのふざけた戦闘を、川鶴さんなら観ていたでしょう?」


「ふざけた戦闘をしているのは、自覚があったんですね……」


 そりゃそうでしょう。

 配信ウケを重視して、フィジークを意識して戦ってたんだから。

 あんなの、命を駆けたギリギリの戦力差だったら絶対にやらないよ。


 Bランクダンジョンへ潜れば、身の入りは良いのかも知れないけど……ファンは裏切らない!


「それじゃ、換金してササッと殲滅を繰り返して来ますね! ダンジョンの魔素が尽きるまで殲滅してやりますよ!」


「あ……。その、お待ちしています!」


「は? いや、絶対に家に帰って下さい? もう深夜ですよ? サービス残業、ダメ!」


 再びギルドの受付で待とうとしている川鶴さんに忠告し、俺は換金を済ませる。

 そうして、俺を見送る川鶴さんに手を振りダンジョンへと潜った。

 またしばらく殲滅。

 ドローンの収納ボックス一杯に魔石を積んで再び地上へ戻って来ると――。


「――え?」


 夜勤のギルド職員が、声を出さずに待合室を指差した。


 その指の方角を追ってみると――川鶴さんは、待合室のソファーに腰掛けて眠っていた。

 手にはタブレットを持ち、何か仕事をしていた様子だ。


「なんで……帰ってと言ったのに」


 ソッと傍に近付くと、寝相ねぞうなのか川鶴さんが身をよじり、タブレットが床へずり落ちそうになる。

 すんでの所で受け止めると、液晶ディスプレイが明かりを発し――。


「――これって……。俺にスーパーチャットをしてくれた人のアカウント名と、その言葉?」


 映っている内容に、目を見開いた。


「……お礼のダイレクトメッセージがしやすいように、まとめてくれていたのか」



―――――――――――

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