第96話 感謝!
俺が川鶴さんと別れダンジョンに潜ってから、もう2時間近くが経過している。
「本当に、頑張り屋さんですねぇ……」
実は俺より年下だったという川鶴さんの頭をソッと撫でると、
「ほいっと」
力が局所に集中して、起こしてしまっては申し訳ない。
神通力と魔力を応用して全体が包み込まれるように圧を
そうして下から持ちあげる。
寝込みの女性を変に触るのも、ダメだしね!
「すいません、仮眠室とかお借り出来ませんか?」
「は、はい……」
ギルド受付に尋ねると、目を見開いた職員さんが
「あの……それって、どうやってるんですか? 触れずに物を浮かせる能力なんて、見たことがないです」
「神通力と魔力の応用ですよ。空間を練り固めてあるだけで、ちゃんと下は俺が支えているでしょう?」
「は、はぁ?」
「寝込みのレディの身体に直接触れるなんて、紳士としてダメですからね!」
ここの所のマナー講座で、紳士としての心構えに気を遣うようになった。
やっぱり、日常生活のためになるなぁ。
「紳士以前に、人間を止めているような気が……」
「……はい?」
「い、いえ。どうぞこちらへ。鍵付きの個室で休めるベッドがありますので」
「それは安心ですね。どうぞよろしくお願いします」
何処か
よし。
朝までに、稼いでくるぞ~!
美尊との楽しいティータイムの為なら、汗臭い筋肉共を何度殲滅しに行くのも、苦じゃない!
俺は再び、ドラミングでモンスターを呼び寄せられる便利なシルバーバックの元へと向かう。
川鶴さんが出勤する朝までには、稼ぎ終えるぞ――。
「――大神さん!?」
ギルドの待合室で作業をしていると、仮眠室から慌てて飛び出して来た川鶴さんに声をかけられる。
若干、寝癖が付いてメガネがズレているのが可愛い。
時刻は午前8時ちょっと前か。
「おはようございます。ちゃんと休めましたか?」
「は、はい……。あぁ……またしても、私は……。すいません、すいません!」
ソファに腰掛ける俺の元へ駆け寄って来て、ペコペコと頭を下げている。
雇われだけど、川鶴さんって社長なんだよなぁ……。
腰が低いなぁ。
「いえいえ、俺も作業をしていましたから!」
「作業? 作業とは――ぁ……。それ」
川鶴さんは、俺が持つタブレットに気が付いたようだ。
そう、俺は十分にアフタヌーンティー代金を稼ぎ終えた後――お礼のメールを1人1人に書いていた。
スマホのメモ帳に書き留め、時刻が午前7時過ぎと、迷惑にならないだろう時間から一斉に送り始めた。
丁度良く、最後の1人に送るところで川鶴さんが起きて来たのだ。
「ありがとうございます! お陰様で、今日の配信より前に皆さんへお礼が出来ました! これで心置きなく、習い事や美尊とのアフタヌーンティーへと臨めます!」
「い、いえ……。その、本来なら
「いやぁ……。俺は個々人にしたいですね。多少、無茶でも」
「お、大神さんならそう仰るかな~と思いまして……。分かりやすいように纏めたのですが、お役に立てたでしょうか?」
頭を下げながら、上目遣いで聞いてくる川鶴さんに、俺は満面の笑みで――。
「――勿論です! 川鶴さんがマネージャーで、本当に良かったですよ!」
そう返す。
頬を赤くして瞳を潤ませた川鶴さんが、車で送ってくれると提案してくれたけど、丁重にお断りする。
川鶴さんが会社に遅刻しても困るし、空を神通足で跳んでいった方が速いからね!
渋々、車を発進させた川鶴さんを追い抜く形で、俺は寮へと戻る――。
「――……え? 俺に荷物ですか?」
寮に戻れば、宅配ボックスに荷物が届いていると、コンシュルジュさんから伝えられた。
24時間、人が受付にいるというのも凄いけど……住人の1人1人を覚えているのも凄い。
電気式の宅配ボックスを操作して解錠すると――中には、段ボール箱が置かれていた。
差出人名は書いてない。
何だろうと思いながら、箱を開くと――。
「――服だ。うわぁ……なに、この素材。触り心地良い……。センス良いなぁ~」
少し落ち着いた洋服が、一式詰まっていた。
普段は見えない裏地にオシャレな絵柄が描かれていたり、触った事もないような素材だったり……。フォーマルな場所にも行けるけど、普段何気なく使うのにも堅苦し過ぎない服だ。
「これ……絶対に、姉御だな?」
表だってスーパーチャットとかは出来ないけど、明日美尊と街へ出かけるならと、姉御が急いで用意したのが想像出来る。
郵送じゃ間に合わないからと、そのまま段ボールを置いて帰ったんだろう。
「姉御は本当……。不器用な優しさばっかりだ」
もう少し、分かりやすく素直な優しさを見せて欲しい。
そうすれば世間から憎まれずに済んだだろうに。
とは言え、着ていく洋服に関しては悩んでいたから丁度良い。
有り難く着ていくとして――。
「このアルファベットの並び、ブランド名かな?」
ふと、洋服の
ちょっとした興味本位で、服の値段なんかをスマホで検索し――。
「――ぉえ……。何、車なの、これ?」
気分が悪くなる程に衝撃を受けた。
0の数がおかしい。
これ、着ていって汗を染みこませるのすら怖い……。
でも、姉御からの気持ちだしなぁ……。
飾っておく訳にも行かないし、明日はこれを着ていこう。
サイズなんて伝えてないのに、姉御はどれだけ俺を見ているのか……。
服だけでなく、靴下や靴のサイズまでピッタリだった――。
―――――――――――
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