第49話 差し入れ!

 初の深夜枠の飯テロ配信から一夜明けた朝の9時。


 美尊みことが学校に行くまでの間にメッセージのやり取りをしたけど、極めて通常通りだった。

 まるで昨夜は何ごともありませんでしたよ~とでも言うような態度で、普通に仲良くメッセージラリーをしている……。


 怒ってるのか、それとも怒ってないのか。なんとも分からん!


 まぁ美尊は文面だけだと常に冷たく感じるような言葉使いというか……心情しんじょうが読み取りにくいからな。

 顔を合わせて話せば、もっと感情が読み取れるんだけど……。


 多分、昔の美尊のままの思想しそうだとするなら――もうお互い謝って過ぎた事だから、無かった事にしましょう。過去にとらわれず、今日を大切にしましょう。

 そんなサバサバした感じだろうなとは思うんだけど……。


 う~ん……。

 直ぐに返事をくれるって事は、少なくとも嫌われてないよね?


 スマホのディスプレイとにらめっこしながら悶々もんもんと悩んでいると、インターホンが鳴った。


 え?

 これってウチだよね? 隣の家じゃないよね?

 出なきゃだよなぁ……。

 24時間有人監視のフロントを抜けてきたって事は、少なくとも俺の知り合いだよね?


「……はい」


 もし、見知らぬ人だったらどうしよう……。

 そんな不安を抱きつつ、チェーンをつけたままの扉を開くと――。


「――あ、川鶴かわつるさん!」


大神おおかみさん。おはようございます。あの……荷物にもつのお届けと、この先の活動の件で、ご相談があるのですが……」


 大きく重そうな段ボール箱を、細い腕一杯に抱えた川鶴さんが立っていた。 


「どうぞどうぞ! あ、中まで荷物お持ちします!」


 急いで扉を開き、川鶴さんの抱えていた段ボール箱を奪い取る。

 本当にデカいな。玄関を通る時、縦にしないと通れない……。


「ありがとうございます。ふぅ……やっと解放されました。下からお部屋まで運んだだけでも、うでしびれて脱力だつりょくするおもさでしたよ」


「俺に電話をくだされば、下までお手伝いに行きましたのに……」


「あっ……。成る程、その手がありましたね。浮かれていて、失念しつねんしていました」


 川鶴さんは苦笑を浮かべながら、室内へと入って行く。


 浮かれるって、何か良い事でもあったのかな?


 テーブルの前へ座った川鶴さんの横へ段ボール箱を降ろそうとして――。


「――あ、その中身は大神さん用ですので、お好きな所へ置いて下さい」


「……え、俺用? コレ、空けても良いですか?」


「どうぞどうぞ」


 川鶴さんに断ってから、段ボール箱に張ってあるガムテープをがして開封かいふうする。

 すると中には――衣服、食材しょくざい調味料ちょうみりょう保存食ほぞんしょくや大量の書籍しょせき、そしてペーパークリップにまとめられた分厚ぶあつい書類の束がギッシリと詰まっていた。


「それ全て、オーナーからの差し入れだそうです」


「え? 姉御あねごから?」


「はい。オーナーから、『あくまで先行投資せんこうとうしだ。請求書せいきゅうしょは決して見せないが、借金しゃっきん帳簿ちょうぼには足しておく。甘いことを考えず気を張るように』……と言付ことづかっています。ふふっ、素直じゃないですよね~。ご自分で電話かメッセージを送るよう言ったら、『私の口からは直接言う必要もない。渡すついでに伝える程度の些事さじだ』って、意固地いこじになってましたよ?」


「ほへぇ~……。姉御が……」


 川鶴さんも言うように、姉御は素直じゃない。


 本当は借金の明細めいさいなんて、ないんじゃないかな? ハッキリ明言めいげんしないで尻に火を付けておく当たり……やっぱり性格悪く演じて、俺をけてるんじゃないかな~?

 まぁ本当は借金なんてないと暢気のんきかまえて、油断ゆだんする事はないようはげみますけど……。


 段ボール箱の中身を手に取って見ると、書籍の1つは開拓者学園かいたくしゃがくえん中等部ちゅうとうぶ高等部こうとうぶ教材きょうざいだ。

 現在国内で発見されているモンスターやドロップアイテム、大まかなダンジョン情報までっているようだ。


 それに、料理に関する本まである。……姉御、昨日のダンジョン飯配信を視ていたのかな?

 な、なんか恥ずかしい。

 昨日は深夜テンションで、胸の内側までさらした話をしてしまったから……。


 衣服も最初から寮に置いてあったのだけじゃ不足してたし、助かるな〜!

 まだ装備品とか持ってないから、俺は基本ダンジョンに私服で潜ってて汚れやすいし……。

 いつか、前に動画で見たトワイライトみたいな格好良い鎧を着たいもんだ。


 保存食も栄養バランスが完全に整えられた食事が多い。俺の栄養状態にまで気を配ってくれているのか。


 食材や調味料も、山のようにある。金がなくても、これで生活しろ。料理の勉強をしろって事なんだろうけど……。


 これ全部で、いくらしたんだろう?


 防衛省ダンジョン庁長官だから、教材はもしかしたらゆずってもらえるのかもしれない。でも他は多分――姉御の自費じひだよね? 


 流石に食材とかは事務所の経費けいひにはならないだろうから。


 俺は膨大ぼうだいな借金はおろか、配信機材のリース料金すらも返せない底辺赤字開拓配信者なのに……。

 先行投資だとか理由を付けて素直な優しさを見せないの、すっごく姉御らしいなぁ……。

 ただ――。


「――姉御、絵心えごころ迷子まいごですよ……」


「……一生懸命いっしょうけんめい、モンスターやダンジョンの姿、形を描こうとした気持ちはんであげて下さい」


 姉御が開拓者時代にダンジョンへ潜った時に作成したであろう、レポートの束。

 数百ページはあろうかという書類をペラペラ捲ると――まるで幼稚園児が書いたようなモンスターとダンジョンの内部が書いてあった。


 うん……。デジタルで描いてるけど――やっべぇ絵心だな。

 古代こだい壁画へきがの方がいくらか読み取れる。

 ここが弱点とか注釈ちゅうしゃくが載っていても……。

 そこがモンスターのどの部位なのか、絵からは中々読み解けない。


「姉御ぉ……。これはちょっと、言葉にならないです……」


 良く言えば、独創的どくそうてき

 率直に言えば、呪われそう。色を乗せてる分、壁画より余程呪術的じゅじゅつてきな絵に感じるかなぁ……。


 不思議と、どの角度から視てもモンスターと目が合っているように見える。


 天才美術家レオナルド・ダ・ビンチが描いた世界に名だたる絵画、『モナ・リザ』と同じような現象を姉御の絵から感じるとは……。

 モナリザとは違って、目を離したら喰われそうになるから……どちらかと言えば『地獄の門』かな?

 世にも有名な『考える人』とかを作成した彫刻家、ロダンが作った『地獄の門』の彫刻の前に立たされているような威圧感いあつかんを覚える。


 つまり俺が地下(笑)アイドルだとしたら、姉御は――画伯がはく(笑)だったと……。


 好意で下さった物にケチをつけるなんて、本当に無礼なのは承知だけど――親しみを覚えましたよ。

 うん、優しい嘘は吐きません。敢えて口にも出さないけどね?

 人の強いところだけじゃなく弱い所を垣間見かいまみた結果、取っ付きやすくなるケースもあると思います! 本当、悪い意味じゃなくて良い意味での新発見です!


 完璧超人だと思っていた姉御の苦手な分野を意図もせず見つけてしまった。


「あ、姉御にお礼を言いたいんですけど……。通話したら迷惑ですかね?」


「オーナーは一昨日の最終便さいしゅうびん渡米とべいしましたので……。多分、今頃は会議か何かじゃないでしょうか?」


 え?

 姉御、日本に居ないの!? あのギルド受付でかかってきたビデオ通話、空港から話してたのかな!?

 うわぁ……。なんかちょっと心細こころぼそいなぁ。



―――――――――――

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