第123話 初めまして女子校生パーティトワイライト!

 ピトッと、親に抱き付いて離れないコアラのように美尊は俺の腕へとしがみつき、深紅さんへ警戒の眼差しを向けている。


 それは嬉しいんですけどね……。

 周りの目ってのが……。


「あははっ! 安心してよ、美尊? 妹の座は美尊のものだから。……ウチは美尊のお兄様を強者と認めています。あっという間に迫ってくる事務所の後輩って事で、前は思う所もありましたけど……」


「お、思う所があったんですね……」


 真紅の髪、真紅の瞳を朝陽で輝かせながら――好戦的に、悔しさを滲ませながら深紅さんは見詰めてくる。

 小柄な身長でリスのような可愛さと同時に――深い闇を抱えた、人間らしさも感じる姿だ。


「ええ。……でも歯軋りしながら配信を何度も見返して行くうちに、お兄様の圧倒的な力を認めざるを得なくなりました。……だから今日からのご指導――本気で楽しみにしてるんです。お願いします。殺すつもりで鍛え上げて下さい」


 深く頭を下げながら、コチラの反応を見るように視線を向けて来る。


 この言葉は――恐らく、誇張でも何でも無い。

 口元は笑いつつも……目には闘志の炎が燃え盛っている。


 ああ……。

 この瞳は、鍛錬している姉御や兄弟子の瞳と同じ輝きだ……。

 強くなる為なら他の何を失おうと構わない、と。


 深紅さんは、指導を楽しみにと高額のスパチャをかなり投げてくれましたもんね。

 最初はお金の使い道について指導をするつもりだったけど――止めた。


 多分、深紅さんにとっては――強くなれるなら、全財産だって惜しくない。

 お金より、強さ。


 強さが無ければ、何もかも――命も大切なものも、全てを奪われる。

 そんな喫緊に迫った恐怖とも呼べる感情を抱いているのが痛い程に伝わったから。

 だから俺は――。


「――お任せザムライ! 後でボコボコにしてあげますよ!」


「……へぇ。楽しみです。ウチも、この4年間以上は毎日欠かさず鍛えてダンジョンへ潜って来ました。オーナーに師事しつつ、です。……少しでも一方的な展開にならないよう、全力で挑ませていただきます」


 バチバチと、闘志を向けて来る。

 それは端から見れば小生意気なんだろうけど――武術家としては、極めて好ましい。


 天心無影流道場でも、そうだった。

 姉御やジジイにボコボコにされつつも――弟子たちは、いつも瞳に炎を宿していた。

 一矢報いてやる。

 叶わない迄もも目に物見せてやるぞ、と。


 強くなる原動力とは――生意気な迄に負けたくないという、闘志だ。

 人見知りなんて忘れるぐらい、心地良い闘気だなぁ。


「……お兄ちゃん。楽しそうな所を悪いけど……そろそろ行かないと」


「――あ。本当だ! これ以上遅くなったら神通足で空を跳ばないとだ!」


「私や深紅には無理。……話なら歩きながらね」


「そうっすね。……大神先生。生意気を言って、すいませんでした!」


「あ、いえいえ……。武術家としては凄い嬉しかったですよ! 普段は仲良くしてください!」


 お互いに頭を下げ合い、関東開拓学園高等部へと向かい歩き始める。


 道すがら、美尊が常にスーツの袖を握っているのがとても可愛い。

 私のお兄ちゃんだからね、みたいな?


 そうして学校まで残り半分ぐらいの距離になった所で――。


「――あ。深紅ちゃん、美尊ちゃん。おはよう!」


 緑のインナーカラーが特徴的なショートヘアー。

 そしてメガネの奥に光る緑の瞳。


 美尊や深紅さんと同じ、シャインプロ所属でトワイライトという女子校生パーティを組んでいる――那須涼風さんが合流した。


 彼女も、ちょくちょく俺の配信に来てくれてるのは名前で見かける。

 だけど――制服を着た女子校生を前に緊張するなってのは無理!

 コメント欄同士でチャット会話から始めたいです!


「えっと……大神お兄さん? 先生?」


「どどど、どちらでも! その、涼風さんが呼びやすい方で!」


「お兄ちゃんを兄と呼んで良いのは、私の特権。……少なくとも臨時講師の間は、講師の方が望ましいと思う」


 今日の美尊は、随分と嫉妬を焼いてくれますね~。

 俺にとっては役得でしかないので、ニマニマしながら見ていよう。


 これが、俺がダンジョンへ落ちる前に流行っていた――ハーレムもの主人公の気持ちなのかもしれない。


「あはは……。美尊ちゃんがそう言うなら、そうしようかな?……じゃあ、お兄さん先生とか?」


「……涼風。絶妙に喧嘩を売る呼び名。良い度胸」


「ままま、まぁまぁ! 美尊!? これは逆に言うと、美尊のお兄ちゃんとしての印象が強いって事で……俺としては、嬉しいよ!?」


「……お兄ちゃんがそう言うなら、良い。涼風、ごめんね」


「ううん、平気だよ? それに……ね? お兄さん先生を含む私の好みというか、推しカプは――美尊ちゃんも知ってるでしょ?」


「……そうだった。涼風は1番安全。お兄ちゃんと仲良くしてね?」


 掌返しが凄い!?

 推しカプってなに!?


 これが女子校生用語と言うものか……。

 推しは分かる。……カプ。カップル、カップラーメン?

 俺が関わるカップルなら、美尊が妹として心配するだろうし……。

 カップラーメンは、話の流れから絶対に無いと言い切れる。

 後で時間が出来たらネットで検索してみるか。


「うん、勿論だよ。――お兄さん先生。那須涼風です、初めまして。愛さんからも仲良くとメッセージが来ましたし……。これから5日間、出来ればもっと長く。仲良くしてください」


「あ、ぅえ……。はい。こちらこそ、よろしく御願い致します!」


 自分の大腿前面に額がぶつかる勢いで、涼風さんへ返礼した。


 動きが……極端になっちゃう!

 やばい、授業の時――指導の時は格闘だからスイッチが切り替わるとは思うけど……。


 これで生徒への手加減を間違えたら――本格的にヤバい!


「大神先生、涼風? 挨拶は大切だけど……このままじゃウチらは兎も角、大神先生は遅刻だよ? 教師は生徒より始業時間が早いっすよね?」


「そ、そうでしたぁあああ!」


 腕時計を見れば、普通に歩くとギリギリの時間!

 ぐぬぬ……。

 名残惜しいが、仕方がない!


「すいません、少し早歩きで行きますね!? 皆さんはごゆっくり――」


「――私もついて行く。お兄ちゃんとの登校なんて、逃せない」


「え?」


「お、ウチらも付き合いますよッ!」


「わ、私も! 折角ですから、早歩きでお話して行きましょう?」


「は、はい……。わっかりました!――では、行きます!」


 3人も一緒に早歩きをしてくれると言う事で、俺は学校へ向けて早歩きを始めた。

 早歩きと言うか……競歩かな?


「お兄さん先生が――消えたよ!?」


「ん。お兄ちゃんは凄いの。速く走るよ」


「ちょっ、え!? あ、あれ――ウチらが全力で走っても追いつけない速さで歩いてる!?」


 そうして、時刻にはかなり余裕を持って学校へと辿り着いた。

 深紅さんや涼風さんと会話をして、2人への人見知りも少し軽減が出来たな。


 2人……いや、美尊も入れて3人は息が切れていて短文レベルでの会話だった。

 それが逆に、俺の人見知りには奏功した形だ。


 走りつつスマホで動画を撮ってくれていた美尊から送られて来た動画を後から視ると――超キモイ速度で歩く『あたおか』な人物が映っていた。


 うん、俺のファンネームなんだけどね……。

 もうね、俺自身が『あたおか』なのは、認めるしかない事実ですよね……。



―――――――――――

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