第122話 初対面、旭深紅さん!

 翌朝。


 俺は自室にてスーツに白ワイシャツ姿で、美尊と朝食を摂っていた。

 ネクタイと背広せびろは汚れるからと、まだハンガーにかけたままだ。

 緊張で食事を持つはしがカタカタと揺れる。


 お陰様かげさまで結構な収入を得られたから、高級な座布団ざぶとんを2つ買って、正座しながら食事しているんですけどね?


 なんでかな。

 足がしびれてないのに。緊張で感覚が鈍いの。


 そうして食事を食べ終え、美尊みことと一緒に食器を洗った。

 生徒にイジメられそうな変な所はないかなと、あら探しをするように鏡を見詰めていると――。


「――お兄ちゃん。そんなに鏡を見なくても、ちゃんとイケメンだから大丈夫」


「だ、大丈夫かな!? 変って指さされない!? 教室に入ろうとドアを開けたら、上から黒板消こくばんけしが落ちてくるとか! 入口に透明とうめいなラップが張ってあるとか……。そういうの無いかな!?」


「無いよ? もし合っても、お兄ちゃんなら回避も出来るし、ラップも突き破れそうだね」


「ああ……。驚いて咄嗟とっさ突風とっぷうで教室を無茶苦茶むちゃくちゃにするような回避をしちゃったら、どうしよう!? ラップを破るつもりが対面のまどまでやぶ波動はどうを飛ばしちゃったら、どうしよう!?」


「……どうしよう。悩みのレベルが私のななうえ


 美尊は苦笑くしょうを浮かべながら、ネクタイを手に取り――。


「――はい、動かないで」


「………ひゃい」


 俺の首にネクタイを回し、締めてくれる。


 ああ、あの!?

 距離が近くて良い匂いがして、幸せがちゅうっているぅううう!


「あ、あれ?」


 自分のネクタイを締めるのとは勝手かってが違うのだろう。

 何度かやり直す美尊がまた――キュート!

 我が妹は女神なのかもしれない!


「よし、出来た。……そろそろ深紅みくとの待ち合わせ時間。行こう?」


「う、うん!」


 もう一度、忘れ物が無いかかばんを空けてチェックをして……と。

 電気の消し忘れも無い。

 窓のカギも締めてる。

 よし、行こう!


 同じマンションの別棟べつむねに女子寮はある。

 それなので深紅さんとは、マンション前の道路で待ち合わせをしているらしいんだけど……。


 同じ事務所でも、深紅さんとは初めましてだから――緊張が凄い!


 心臓どころかしんはいかんが口から飛び出しそうだ。

 嗚咽おえつのんどよりたり。

 口中こうちゅう胃液いえきしょうずるがごとし!

 そうこうしている間に、深紅さんの姿が見えた!


 制服のスカートをひるがえしながら、駆け寄って来ている。

 ど、どうしよう!?

 まずは講師役である俺の出勤時間に合わせ、何時もより30分も早い待ち合わせに応じてくれた深紅さんへの謝罪と感謝を――。


「――おはようございます、美尊のお兄様。……いえ、大神先生」


「すいませんでした! ありがとうございます!」


「……え? あ、いえ? あの、ウチなにかされましたか?」


「……お兄ちゃん、落ち着いて。初対面でも怖くない。はい、深呼吸」


 美尊が俺の背を優しく撫でてくれる。


 ああ、秋も深まって来たからかな……。

 触れた手の温もりで、緊張も心も蕩けていくようだ……。


「あ、あの……。早い待ち合わせ、すいません。それと、ありがとうございます!」


 言えた!

 見たか、コレが兄妹の連携だ!


 ポカンとした表情で俺たちのやり取りを見ていた深紅さんは、小さな身体を丸めながら――。


「――あははっ! 本当に大神先生は人見知ひとみしりなんですね!? ウチ、売り出す為のキャラなのかと思ってました」


 目尻めじりに涙を浮かばせ笑っている。


 身体がデカイ俺がオドオドしているのが、滑稽こっけいでしょうかね!?

 いや、屈託くったくのない良い笑顔!


 悪意なんて感じない――それどころか、目の奥には燃える闘志とうしが見え隠れしている。

 俺が怖いタイプの学生とは、だいぶ違う。


 接しやすい――追いこまれた武闘家気質ぶとうかきしつのようだ。


 それに姉御から聞いていた、家庭内暴力かていないぼうりょくによる人格形成じんかくけいせい――負けたら何もかも失うという、気負きおいか……。

 成る程、ね。


「キャラ設定なんかじゃないんですよ! で、でも……深紅さんとは初めましてなのに、気が合いそうです!」


「え? ウチと気が合う?」


「はい! 深紅さんは、俺の幼い頃と似ていて……武人って、緊張が和らぐもんなんですね!」


 己との共通点が多いから、他人とは思えない。

 安心して全身の力が抜けていく。

 まずは全校生徒2500人分の1名をクリアしたと行っても過言ではない!


「……お兄ちゃん? そんなに深紅の事を気に入ったの?」


「あ、あの……。美尊? なんでそんな、目を細めてジトメを使って来るのかな?」


「美尊は大好きなお兄ちゃんが、ウチに取られないか心配なんでしょ?」


 深紅さんは茶目ちゃめ気溢けあふれる顔で、美尊の顔を覗き込んでいる。


 何を言うかと思えば……。

 ウチの美尊は、色気より闘気。

 恋愛より家族愛の、優しい~娘なんですよ?

 そんな……何でもかんでも恋愛と絡めて生きる学生とは違いますよ!


「いやいや、まさか。美尊がそんな色恋ばかりにかまけた恋愛脳れんあいのうな訳が――」


「――そう。深紅とお兄ちゃんは、あくまで臨時講師と生徒の関係。……他は事務所の先輩と後輩の関係だけだから。お互いアイドル同士という事を忘れないように」


「美尊ぉおおお!? お兄ちゃん、ビックリだよ!?」


 え、何!?

 美尊さん、嫉妬しっと!?

 心配しなくても、お兄ちゃんの妹は美尊だけよ!?



―――――――――――

ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!


楽しかった、続きが気になる! 

という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!

ランキング影響&作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る