第217話 ダンジョンへ潜る前に!

 ダンジョンへ潜る時間の関係上、かなり早めの夕食。

 日が沈むより早い時間の夕食となった。


「お、美味しい……。大神くん、これ美味しいよ!?」


「いやぁ~。たいしたもんや。ダンジョン飯も、食材以外は美味そうだったかんなぁ」


「美味」


「お、おお。マジで美味いぜ」


 ふふん!

 そうでしょう?

 美尊に美味しいものをって、全力で勉強と実践を積んできましたから!

 成果が出てないのは、歌唱力だけ!


 羅針盤の皆が口々に料理を褒めてくれる中、リーダーである一針正樹だけは無言で黙々と食べていた。

 く、口に合わなかったかな?


「あの……一針正樹さん。味はどうです? お好みがあれば、次から調整しますが」


「美味い。調整の必要はない。今日も生きて食べられるだけで、感謝だ」


「あ、はい」


 一度、パーティごと全滅しかけたことがある人の言葉だと、説得力が違うなぁ。

 と言うか、唯一の生き残りだと思うと、重い。


「それと、正樹でいい」


「え? あ、じゃあ俺も向琉で!」


「ああ」


 やった!

 名前で呼ぶのを許してもらえた!

 これ、最初のミスを挽回して、仲良くなれてるんじゃない!?


「名前で呼ぶ方が、時間短縮になる。ほんの僅かな時間でも、モンスターの前で隙を減らせる呼び名の方が良い」


 機能性の問題でした!

 すんません、自惚れてました!


 う~ん。

 信用し合う関係性、話したくないことも話せる関係性には、ほど遠いなぁ~。


「ははっ。飛ぶ鳥を落とす勢いの大神くんがいるのは、僕たちとしても心強いよ。連携、よろしくね」


 柔らかな笑みを浮かべる南条さんの言葉に、俺もハッとした。


「あ、今日はどこのダンジョンに潜るんですか!?」


 そうだった。

 一緒に開拓配信をやるんだ。

 先ずはそこで、関係性を築いていかなきゃ!


 姉御に依頼された、旭プロ内部の流れを変えるためにも。

 そして黄色い龍の情報をもらえるようになるためにも!


「ああ、大神くんは初めて潜る場所かな? 僕たちが、いつも狩り場にしているBランクダンジョンに潜ろうと思っているよ。配信付きでね」


「配信するんですね! 俺は個別枠で、夜に飯枠をやるので……。羅針盤さんのチャンネルでお願いします!」


「良いのかい? 助かるよ。大神くんが入るとなれば、視聴者も増えるかもしれないな」


 南条さんはそう言いながら、顎に手を当てている。 

 視聴者獲得は、配信者として生計を立てるのに関わるからな。

 特に、俺みたいに単独で潜るんじゃなくて、5人組パーティで潜るなら報酬も山分けだろうしね。


「うむ。ワシらのチャンネルは、お世辞にも人気とは言えないからのう」


「装備の修理費とかも、新たな経営陣の方針で事務所負担にならなくなるかもやからなぁ。景気よく装備を買ってたから、貯えも心許ないわ」


 姉御なら、少なくとも補助は出すだろう。

 でも今は、鹿奈さんが経営のトップになってる訳だからなぁ。


 そうなれば、会社としての収益もガタ落ちになってる今、経費削減で開拓者の装備品……1番出費がデカイところを削る方針になる可能性もありそうだな。


「ずっと同じダンジョンの開拓ばっかでマンネリしているからか、羅針盤チャンネルの視聴者は少ないからな」


「安全第一だ。それとも、死にたいのか?」


「い、いや。俺だって死にたくはねぇけどよぉ……」


「俺だって、お前らに死んで欲しくない。それなら、慣れたBランクダンジョンで十分だ。開拓者は、冒険をする必要はない」


 突撃主義の旭プロに所属していた人間とは思えない発言だ。

 一針正樹さんは外部からだからか、やっぱり旭プロとは毛色が違うなぁ。


「過去の動画に、俺たちが潜っているダンジョンの動画が山ほどある。危険な点も、向琉なら分かるだろう。ダンジョンへ潜る夜までには見ておいてくれ」


「あ、はい! 分かりました!」


 一針正樹……正樹さんは、凄く堅実な印象だ。

 やっぱり、ガンガンイケが信条の旭プロらしくはない。

 どちらかと言えば、シャインプロの……姉御の方針に近い気がする。


 それは、1度パーティ全滅の危機なんて悲劇に見舞われたから慎重になっているんだろうか?

 それとも、何か別の……正樹さんなりの理由があるのかな?


 和やか――とは言い難いけど、一緒にコミュニケーションを取りながら食事が出来た。

 後は部屋に戻って、夜の配信まで予習をしよう。


 美尊も放課後の時間だから会いに行きたいけど、初日はこっちが肝心だ――。



―――――――――――

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