第216話 一針正樹は闇のあるイケオジ?

「……大神。お前が尋常じゃない実力の持ち主だってのは、動画を見ただけでも分かる。こうして対面すれば、尚更だ」


「ありがとうございます、過分な御言葉です」


「だが……まだCランクだ。単身Aランク開拓者の俺より、2個も下。Sランクダンジョンに潜る資格も得られない、ひよっこだ」


 嘆息混じりに、そう答える一針正樹。


 その声には――諦めのようなものが混じっているように思えた。

 姉御も言ってたけど、黄色い龍にパーティを壊滅させられて……話したがらないんだっけ?


「黄色い龍は、俺を育ててくれたジジイの仇なんです」


「そうか」


「だから、絶対に討つ。これは俺の中で決定事項です!」


 一針正樹は、淀んだ沼のような瞳で、俺をジッと見てくる。


 何を考えているんだろう。

 真に人外な姉御と違って、俺にその考えは読めない。


 だが一針正樹は、疲れたように首を落とす。


「……お前の人生だ、勝手にしろ。だが、自殺したがるヤツに教える情報はない」


「それだけ強いのは、承知の上です!」


「……若いな。俺の嫌いな、希望に輝く目だ……。わりぃな。俺は部屋に戻る」


 ゆっくりと立ち上がり、一針正樹は階段を昇っていく。

 羅針盤メンバーも止められず、気まずい沈黙のままに見送った。


「……ごめんね、大神くん。リーダーにとっては、トラウマなんだよ」


「……俺こそ、すいませんでした。挨拶もそこそこに……。俺も、目的を遂げたい気持ちが我慢出来なくて……。失礼なことをしてしまいました」


 やってしまった。

 まずはコミュニケーションが基本なのに。

 焦る気持ちが先行して、失礼なことをしてしまった……。


「大宮長官から聞いてたけど……。まさか、いきなり聞くとはね」


「ハハッ! 元気が良いじゃねぇか。……まぁリーダーは、その経験から保守的だからなぁ。俺としてはもっと攻めたダンジョンに潜りたいがな」


「……だが、リーダーのお陰でワシらは安全に全員がBランクにまで上がれた」


「せやなぁ。旭プロの苛烈な方針の中で生き残って、そっから自分らの脆さに気づかせてもらえたんわ、間違いなくリーダーの加入のお陰や」


 羅針盤には、一針正樹が最後に加入したと聞いている。

 当時、旭プロの『常にランクが高いダンジョンに挑み、一刻も早く強くなれ』という方針の中で生き残った最有望株の集い。


 その羅針盤が、急に保守的になったのも、一針正樹が加入してからと聞いてる。

 結果、生き残れてるのは事実かもしれない。


 まぁ……スタンピードで姉御にAランクダンジョンを全て任せ、自分たちはパーティランクが1個下のBランク1つしか担当しなかったのは安全重視が過ぎる気がするけどさ。


「今夜には一緒にダンジョンに潜ることになるんだよ。焦るのは分かるけど、まずは一歩一歩ね? リーダーの言う通り、ランクを上げないと。大神くんの仇がSランクダンジョンにいたとしても、今のままじゃ挑む資格すらないでしょ?」


「南条さん、仰る通りで……。すいませんでした! お詫びに、荷物の搬入が終わったら、俺が飯を創ります!」


「いやぁ~。あんさんの飯って、アレやろ? モンスター飯」


「うげっ! さすがにモンスターの肉は……食うのに勇気がいるぜ」


「……遠慮しておく」


 ちょっと待って!?

 地上に上がってからも、ずっとモンスターの飯を食ってると思われてる!?

 そりゃ、飯テロ配信をしてたから、多少は勘違いされても仕方がないとは思うけどさ!


「違うんですって! 俺、妹にちゃんとした人間の飯を作ってましたから! 腕も磨いてます!」


「お? 大神の妹って、トワイライトの美尊ちゃんだろ!? 可愛いよなぁ~。なぁ、今度、俺に紹介――」


「――あ?」


「お、大神くん? 近いよ? そ、その天上を貫くような殺気も沈めて! 東条くんが死にそうな程に真っ青になってるからさ!」


 いかん。

 美尊を紹介してくれとか言う男だと思ったら、ついつい殺気が……。


 あれ、でも――お陰で人見知りも若干引いたかも?

 よし!

 この調子で仲良くなって行くぞ!


「……大神、メッチャこぇ……。俺、ボスモンスターの眼前に立っても、あんな死の恐怖を抱いたことないのに……」


 さ、些細なトラブルがあったけど!

 まだ助かる!


 引っ越し業者が到着し、荷物をササッと整理した俺は、早速調理に取りかかった――。



―――――――――――

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