第187話 社長
ダンジョンへ潜り、風のように駆け――1階層の途中。
銃弾の音が響いて来た。
「――畜生、畜生ッ!」
それは、ハーピーの群れに向かいフルオートの最新式アサルトライフルを撃ち込む旭柊馬だった。
微量にでも魔力を弾丸に含むその銃は、ハーピーに僅かなりともダメージを与えているようだ。
とは言え、Bランクのモンスターとは――精兵1人でも叶わないとされる敵。
如何に最新鋭の武装を整えているとは言え、無謀だ。
「ぐぅううう!? くっそぉおおお! 深紅ぅううう!」
弾薬が尽き、マガジン装填の隙を付いて――ハーピーが嬲るように襲いかかっている。
〈は!? あの襲われてるの旭柊馬じゃね!?〉
〈開拓者でもないのに、なんでダンジョンに居るの!?〉
〈どの面下げて出て来てんだコイツは!? 毒親にも程があんだろ!〉
旭柊馬にとって幸いだったのは――それが知能の高いBランクのモンスターだった事だろう。
これがCランクのモンスターと遭遇していたなら――俺が辿り着く迄に、命の灯火は消えていたはずだ。
皮肉にも知能が高く、自分より圧倒的弱者を甚振る真似をされていたが故に――彼は生き延びられたのだ。
本能のままに全力で殺しに来るモンスターじゃなくて、良かった。
「――しっ!」
時間が勿体ない!
俺は鎧の上からでも、全身傷だらけの血だるまになっている旭柊馬を拾いつつ――壁を駆け、ハーピーへ体当たりしていく。
体当たりは地味だが、キチンとやればかなり破壊力の高い技だ。
俺のショルダーから突進を受け、あっという間に魔素へ霧散したハーピーには目もくれず――奥へと駆ける。
「こ、これは!? 景色が、宙を飛んでいる!? わ、私は、一体!?」
「治癒魔法かけながら走ります! 口を開かないで!」
「お、大神さん!? 私を――あぎゅっ!?」
「ああ、舌を噛みますって! 治癒魔法をかけ続けますので、そのまま黙って聞いてください!」
片腕に抱えられながら、旭柊馬は口を閉じたまま頷いた。
うん、舌を噛んだのが良い教訓になったみたいだな。
普通に血が飛び散ってたし、相当に痛かったんだろう。
「深紅さんたちを救出に向かいます! 旭社長のお陰で、無事に俺はCランク開拓者にランクアップ、Aランクダンジョン進出の資格を得ました! 後の罰則に関しては、姉御と支部長さんが話していたので、帰ったらよ~く話し会ってくださいね。生きて帰らないと罰則も謝罪も、罪滅ぼしも仲直りもないんですから!」
旭柊馬は、言われた通りに黙っている。
だが泣いているのか、嗚咽を堪えているのか。
横隔膜は小刻みに揺れ、両手で何かに祈りを捧げているようだ。
それは自分の信仰する神様への感謝か、深紅さんが生きていてくれとの祈りか。
或いは、亡くなった奥さんへと祈っている可能性もある。
問い詰めようとは思わない。
唯、深紅さんの為にも――旭社長は、このまま死なせてはいけない。
俺はそう思いながら、ダンジョンを駆けていく。
そうして進んで行き、先程来たBランクボスの部屋。
「――邪魔です! 姉御レベルになってから出直してください!」
再び出現していた般若を一蹴りで葬り、鍵が開いたAランクダンジョンへの扉を駆け下りていく。
すると――。
「――あなたたちは、件のパスパレードをやらかした!?」
「しゃ、社長!? それに、大神向琉!?」
ズシャッと、一時停止。
涼風さんが最低限の治療をした旭プロのパーティが、そこに佇んでいた。
救出に行くでもなく、ここにずっと居たのは――上に般若が再出現したからか?
トワイライトが倒した時に、さっさと上層階に逃げれば良かったものを……。
「今なら般若がいないです。逃げるなら、早く!」
「ま、待て! あ、いや……大神さん、待ってください」
「なんですか!? こっちは急いでるんです!」
「その……救出に、行くんですか? もう手遅れかもしれないぐらい、時間が経ってるのに……。社長も一緒に?」
旭柊馬は、俺の手から地面にベシャッと落ち――。
「――済みませんでした。私が自分の妄念、怨念に取り憑かれて、君たち開拓者をいち早く強くと苛烈なノルマを課したばかりに……」
「……社長」
「許してくれとは言いません。ですが、どうか――娘を助けてください」
「……俺たちの仲間は、その苛烈なノルマ達成の為に死んだんですよ。謝られても帰ってこれない、あの世に逝っちまったんです」
「誠に、申し訳がございませんでした! 私は殺されても構わない! 娘が生きてくれるなら、死んでも良い! だから、だからどうか! お願いします……」
〈土下座した所で命は帰ってこねぇんだよ! テメェの罪を数えてそのままタヒね!〉
〈胸くそ過ぎる。謝罪するなら後で勝手にしろ。あたおかの救出の邪魔をすんな!〉
〈都合が良すぎ。この人たちも許せないけど、この人たちの仲間が死んだ時に旭柊馬は何してたん?〉
虫の良い話だよね。
それは分かる。
でも、さ――。
「――あなたたちは、何の為にここに残ってたんですか? 武人としての誇りが欠片でもあり、パスしてしまった開拓者パーティや深紅さんたちに、罪悪感が有るからじゃないんですか?」
「…………」
「社長との今後は、生きて帰ったら存分に話し合ってください。今の事は……あなたたち次第です。1人の開拓者として――誇りと命。どちらを尊び、選ぶか。俺はあなたたちに助けてくれとは言いません。あなたちの尻拭いをしている女子校生を、救いたい。いずれにせよそれが俺の――武人として、人間としての選択ですから」
「……それは、大神さんが強いからそんな事が言えるんだ」
「――『既に強いか』の前に強くなりたいか。どうして何の為に、どのような強さを、誰のような強さを得たいのか。……その意志の差すら埋めようとしないなら、俺の話はここまでです。――それでは!」
言いたい事は言った。
後はもう、彼らの自由だ。
正義はあれど――それは人の数だけ異なる。
彼らが何を選び、どう生き、どう死ぬかは……彼らの自由裁量の内だ。
どうこうしろ、こうしてくれ。
そんな事は、俺は決して口にしない。
自分で決めた事でなければ、死力も尽くせないだろうしね。
ヒョイッと、土下座している旭柊馬を拾い上げると、俺は再びダンジョンを駆ける。
選んだ分岐迄は、配信で視ている。
途中、モンスターの群れに飲まれてからは――映像が途切れてしまったけど。
「――これは!?」
映像の最後に映っていた場所には――ベルトの千切れた配信リンク式腕時計が道に転がっている。
血痕の量から、深手は負っていると予想が出来るけど――腕は落ちていない!
―――――――――――
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!
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