第188話 無謀、百鬼夜行

〈落ちてるのは腕時計とドローンだけだ!〉

〈深紅ちゃんの血、凄い量……〉

〈普通なら失血しっけつでマズいけど、本当にあの指輪が自動治癒を発動してるなら……〉


「生きている、のか! まさか更に先へ進んだのか!?」


「深紅、深紅ッ!」


 配信リンク式腕時計からの指示が止まり、ドローンも無残に床を転がっていた。


 落ちていた腕時計とドローンのリンクを切断し、俺の腕時計とリンクを繋ぐ。

 そうして再起動すれば――キチンと動く。


 血塗れの腕時計を手に取り、俺はポケットに仕舞った。


 エリンさん。

 あなたの技術、発明の力を――俺は信じますよ!


「深紅さんは、きっと生きている! ユニコーンの一本角を使った魔道具アクセサリーは、脳がグチャグチャになっても蘇生するはずなんだから!」


 そうですよね、エリンさん?

 あなたが寝る間が退屈だと、幾日も新たな発見と仮説を見つける度に笑い続け――完成と同時に爆笑しながら崩れ落ち眠りに落ちた。


 その好きと情熱に繋がる努力によって出来た結晶けっしょうは、きっと――彼女たちの命を繋いでいるはずなんです!


 そうして大量のモンスターの足跡あしあとけずれたばかりの道を走る事、数分――。


「――居た!……これは、百体を超えるモンスター? ここまで逃げてくるのに、更に増えたのか……」


 それまるで地獄のような光景だった。

 噂に名高い百鬼夜行ひゃっきやこうですら、ここまでおぞましくは無かったのでなかろうか?


 煌々こうこうと明るいドローンは、見当たらない。

 かと行って、そこは真っ暗でもなく――光源こうげんは遠くにあるのが分かる。


 百体を超すであろう数のAランクモンスターが――薄暗い大きな道にひしめいていた。


 そして、その遙か先には――。


「――ボス部屋の門が、僅かに開いている?――そうか! 門を利用して、モンスターの数の優位を削ったのか!」


 重い金属製の門。

 僅かに隙間が空いている程度なら――一対一タイマンを、延々えんえんと繰り返す状態に持ち込める。


 四方八方から囲まれるより、余程勝算がある。

 土系統魔法つちけいとうまほうか何かでつっかえを作り、これ以上門が動かないようにと固定している。


 知能の高いモンスターに掘り返され、撃退げきたいしを繰りかえしているから……じり貧ではある。

 それでも、真正面から戦うより余程、生き残る確率は上がるだろう。


 あくまで、このモンスターたちを相手取るなら、だが……。


「……対峙たいじしているのは、パスパレードをされたパーティ? それなら、門が開いて出現したボスモンスターの相手をしているのは――」


 ――ズドンッと、重く硬い物が地を割る轟音ごうおん

 震動が響いて来る。


 それは、あの扉の向こう――薄い明かりに照らされた先から。


 つまり――。


「――トワイライトだけで、薄明かりの中ボスに挑んでいるのか!」


 3人中、2人が初めてのAランクダンジョン。


 そんな状態で――Sランクへの挑戦資格とも言える、ボスへの挑戦。

 常識的に考えれば――無謀むぼうだ。自殺行為だ。


 だが、ボスらしきモンスターによる戦闘音は響いている。

 ならば、まだ――少なくとも誰かは生存しているという証だ!



―――――――――――

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