第189話 親父だけでも

 この百鬼夜行ひゃっきやこうが如きモンスターの先、人が1名通るのがやっとなぐらい僅かに開いた扉の先に――美尊たちが居る!


「どけぇええええええ! 道を空けろぉおおおおおおおおお!」


 魔力を全開放出。

 土属性の魔法を用いて――扉まで岩を掘り起こした。

 モーゼの切り開く海のように、道は続いている。


 流石にAランクモンスターだ。

 近かった数体はほうむれたけど……こんな予備動作もバレバレな魔法では、大半が無傷、あるいは軽傷らしい。


〈うおおおおお! 道が通じた!〉

〈行ける! これで届く!〉

〈頼む、全員が無事で居てくれぇえええ!〉


 だが――へいのように盛り上がった岩を乗り越え、あるいは壊してモンスターは迫ろうとしてくる。


「旭社長、歯を食いしばれぇえええ!」


 腕の中で身を強ばらせている旭社長に忠告しながら、全速力で駆ける!

 届け、届け!

 モンスターが再び道を塞ぐ前に、あの扉へ!


「――くっ!」


 ダメか、間に合わない!

 数体が先行して俺の道を塞いで来る。


 駆けながら滅するが、この僅かなロスタイムでモンスターが道を再び埋め尽くそうとしている。


「お、大神向琉さん!?」


 残り――20メートルぐらい。

 扉の合間からは――コラボ配信の帰りにすれ違った開拓者パーティが顔を覗かせ、俺と目が合った。


 彼らのドローンは、ボスの間全体を照らせる位置に移動してあるようで――扉の奥の方が明るく、扉の外へ近付くにつれて暗いようだ。


 旭社長だけでも、先に中へ送り込みたい!


 だが……。

 彼らもAランクダンジョンへ潜れるだけの力があるなら――いけるか!?


「この人を、お願いします!」


「えっ!? わっ!?」


 ドンッと、俺が投げた旭柊馬を受け止めてくれた。


 良かった……。

 実力のない人たちだったら、受け止める時に衝撃を和らげられなかっただろう。

 旭社長が投げられ受け止められた衝撃で、両者ともに骨折していたと思う。


「ゲホッゲホッ……。ゴヒュゥッゴヒュウッ……」


 むせ込み、息も辛そうだが――それは一時的なものだ。

 直ぐに収まるだろう。


 俺はポケットにしまっていたエリン・テーラー作のバンドと、深紅さんの配信リンク式腕時計も続けて扉の奥へと投げ込む。

 ドローンも深紅さんの者だった機体は、扉の中へと潜り込ませる。


 広間の中央へ、行ってこい!

 コレで扉内部の光も、マシになるだろう。


 そうして、白星はくせいを僅かに鞘から抜き――。


「――デコイ! 全モンスター、俺にかかって来い!」


 扉の隙間から開拓者パーティを襲おうとしていたモンスター……いや、この空間に居る全てのモンスターが、俺へと殺気を向けて来た。


 白星を中途半端に抜くと――そこからは異質な魔素が大量に流れ出す。


 今でこそ、モンスターを狩る側の天狐てんこだからと言うのが分かったが……。


 モンスターからすれば己の天敵が出現したも同然。

 倒さねばとコチラに意識が集中する技だ。


 Sランクダンジョンでは、食材集めに重宝した。


「そこの開拓者パーティの皆さん、聞こえますか!?」


 襲い来るモンスターとの戦闘を開始しながら、俺は叫ぶように問いかける。


「ああ、聞こえる! 助かった、ありがとう!」


 すると爽やかな男性の声で、返事が返ってきた。

 一先ず、無事な人が居て良かった。


「トワイライトは、全員が無事ですか!?」


「あ、ああ。現状は、なんとか……ギリギリ」


 かなり微妙な言い方だが、間に合った!

 美尊や涼風さん、深紅さんは――生きている!


「――そのバンドを、そこでむせている人に! 使う使わないは自由ですが、そのバンドは嵌めると3分で死ぬ代わりに、一流開拓者と同等の力を得られる物です!」


「な、なんだって!? そんなものが、この世に――……」


 くそ!

 モンスターのうなり声が遮って、相手の言葉が良く聞こえなくなってきた!

 もっと近付かないとダメか!


「はぁああああああ!」


 ダンッと地を踏み抜き、震動でモンスターが止まった一瞬を狙い――天井と側壁を蹴る!


 そうして、なんとか扉の目の前にたどり着けた。


 僅かに開いている扉に背を向け、俺の目の前には百体越えのモンスターの山。

 全く、圧巻あっかんだね……。



―――――――――――

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