第208話 やっと……見つけた

「私も鬼じゃない」


「え?」


「あ?」


「すんません!」


「……ふぅ。これも身から出たさび、か。毎日、美尊と会っても構わん。むしろ、推奨する。ただ、女子校生を自室に招いたり出来ない場所を用意するだけだ」


「美尊は妹っすよ!?」


「美尊が入れる場所に、深紅が入って来ないと思うか? それとも、『気持ちは受け入れられません』と、深紅を振る覚悟はあるか?」


「あう……。そ、それは……。その、お付き合いどうこうとか、是非を考えられる程にまだ深紅さんの事も知らないですし……。そんな状態で受けるのも断るのも、失礼で――」


「――ヘタレが」


「すんません!」


 ぐぅの音も出ない!

 これは俺が態度をハッキリさせないで、深紅さんの闘志をヤバい方向へ燃え上がらせない為の措置でもあるんだ。


 何ごとにも全力な深紅さんが、俺へ好意を伝えるために睡眠を削ってるのは知ってる!

 強くなる為の鍛錬を増やしたのに、恋愛にも全力!

 確かに、長く続ければ深紅さんが身体を壊しかねない!

 それは成長を阻害する因子だ!


 そう、これは――年齢差とか、まだ十分に知らないからとかで消極的な断り方をしている、俺の責任でもある!


「分かってくれて嬉しい。……ならば、私からプレゼントだ」


 姉御はそう言うと、執務机の下から段ボール箱を取りだした。

 両手一杯に抱えるような、大きな段ボール箱だ。


 姉御の執務机の下は、四次元にでも通じているのかな?

 サイズ感、ぶっ壊れてるでしょ。


「まず、だ。これは、新たに入居してもらうシェアハウスの案内だ」


「……シェアハウス?」


「ああ、羅針盤との、な。箱には美尊とのデートに必要そうな装備――衣服も入っている」


 えぇ……。

 羅針盤って、俺と同じ歳ぐらいの4人に、30代半ばの一針正樹だよね?


 確かに、地上に上がってから男友達は出来なかった。

 それは寂しかったから、男性とシェアハウスってのは良い機会かもだけど……。


 人見知り、発動しそう。

 う~ん。

 これも、姉心ってやつなのかな?


「あと――これは、白星はくせい様へだ。リンゴのカードが数十枚――」


『――よし、分かったのじゃ! 向琉、この話を受けるぞ! この者は、向琉の安寧あんねいと成長を願い提案しておるのじゃ! 男同士の友情もはぐくめ! これを受けぬ堕落だらく愛欲あいよくとりこになるのは、有り得んぞ!』


「課金しまくりの御神刀ごしんとうが堕落とか、よく言えたな!? 白星の低俗さには、色々と残念だよ! 自分は物欲におぼれてる癖にさぁ!?」


 今まで静かに腰へぶら下がっていた御神刀――白星が、突如として興奮し始めた。

 最近は黙ってソシャゲやらネトゲをしているそうだが……。


 おのれぇえええ姉御!

 白星の低俗さを利用したな!?


「……分かりました。美尊と会うのは放課後や休日、街中でデートする時にします!」


「うむ、協力に感謝する。紹介予約が必要な場所なら、私に任せろ。手配する」


 姉御は満足気に頷くと、リンゴのカードだけ俺に手渡して、後は新居へ郵送すると段ボール箱ごとしまった。


 完全に、弱味を狙い撃ちされたな……。

 ああ、仕方ないこととは言え……美尊と、しばらく朝ご飯を食べられないのかぁ。


「後、だがな。私がこの提案をするのには――もう1つ、理由がある」


「なんすか? 嫌がらせで、俺の心を強くするとかっすか?」


 冗談めかして言う俺に、姉御は微動だにしない。

 え?

 これ、真面目な話なの?


「羅針盤のリーダー。……一番最後に羅針盤入りした一針正樹いちはりまさきだが、な」


「Aランク開拓者の人っすね。日本では、姉御を含め2人しかいないAランク」


 それなのに、前回のスタンピードでは羅針盤と一緒に、関西のBランクダンジョンのスタンピードを担当していたはずだ。

 パーティランクもAランクなのに。


 まぁ、モンスターが大挙して押し寄せるスタンピードでは、ランクを1つ2つ下げ安全マージンを取ったダンジョンを担当するのが定石と聞いている。

 だから悪ではないけど……。


 姉御が1人でAランクダンジョンを2つ担当したのを聞くと、なんだかなぁ~と思ってしまう。


「その一針さんが、どうかしたんすか?」


「うむ。一針正樹は――過去に、黄色い龍と交戦し、己を除くパーティメンバーが全滅したそうだ」


「――……黄色い、龍?」


 それって……もしかして。

 あのダンジョン災害が起きた日、天心無影流師範だったジジイを――俺の眼前で殺した、あの龍か?


 絶対に、仇討ちをすると決めた――アイツの、目撃者?


「当時、彼は配信者ではなかったから映像はない。……だが、ギルドに気骨ある御仁が居ただろう?」


「サイクロプスが居るダンジョンの、支部長さんっすね?」


「ああ。彼は上からは蛇蝎だかつごとく嫌われているが、横や下の繋がりが深いようでな。各所に手を回して情報を集めてくれたのだ。その結果、羅針盤加入前の一針正樹が、血だらけでダンジョンから這い出た時、『黄色い龍。イレギュラー』と震えながら呟いていたのを、耳にした職員がいると分かった」


「……やっと、手が掛かりがあったんですね? ジジイの仇討ちをする、手がかりが……」


 グッと、拳が震える。


 ああ、これは――昂揚だ。

 武者震いだ。


「だが――一針正樹は、かつてパーティが壊滅した状況を、頑なに口にしようとはしないそうだ。……そこで、だ。この機に一針正樹と友好を深め、他ならぬ向琉自身にも情報を集めてもらいたかったのだ」


「そこで、シェアハウスっすか。なんなら一緒に臨時パーティも組んで、直接聞いて来いって話ですね?」


「うむ。……先にこれを告げるのは、向琉の逃げ道を塞ぐ卑怯な手段だと思ったんでな。向琉がレンタル移籍を断るようなら、頻回なコラボでなんとかしようと思っていた」


「…………」


「まぁ、そうすると――シェアハウスで共同生活を送るより、時間がかかるだろうが、な」


「そうっすね。……姉御、感謝します」


 俺は姉御に一礼をして、部屋から退室しようとする。

 今は、感情が酷く昂ぶっている。


 長年の悲願――天心無影流宗家。

 大神向琉として、大恩と恨みあるジジイの無念を晴らす機会。


 その悲願に手が届きかけている事実に、身体から闘気が溢れ出てしまう。

 少し、気を落ち着けられる所に行くか……。


「転居に必要な手続きは、全て私がやっておく。……またスマホに連絡を入れるからな」


 白星をガチャッと持ちあげる事で、姉御への返事にかえた。


 天心無影流に伝わる御神刀を鳴らすだけで、師範代であった姉御には、俺の覚悟は伝わるだろうから――。



―――――――――――

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