第207話 仕方な……有り得ないっすわ

「最初は、救済合併きゅうさいがっぺいを迫られたのだがな……。旭プロの事業規模となると、手持ちの資金が足りなかった。融資を受けようにも、開拓配信企業は、その歴史の浅さと危険性から、多額の融資ゆうしが受けづらいのだ」


「な、なるほど?」


「それに――買収金額を提示したが、旭鹿奈が頷かなかった。足りない、話にならないと言ってな」


「はい? このまま大炎上して開拓者が離れれば、多額の負債を抱え込むんじゃないんすか?」


「そんな理性的な判断が出来る状態では、無かったのだよ……」


「えぇ……」


 いくらなんでも、そこまで酷い?

 実家は仮にも、名家なんでしょ?

 実家からのアドバイスとか……まさか、それすらも聞かなかったのかな?


 深紅さんを私怨しえんでイジメてきた継母ままははだから、彼女がどうなろうと俺は知った事じゃないけどさ。


「旭柊馬が帰ってくれば、キッチリと経営的な話はつける。……何年の刑期になるかは分からんが、それまでに経営再建と健全化をせねばならん」


「姉御、大変っすね」


「うむ。社外取締役とは言え、大勢居る経営陣の1人でしかない。時間も労力も、シャレにならん。買収が成立していれば、もっと楽だったんだがな……」


「うわぁ……。胸中、お察し致します」


「ああ……。他の経営陣も、私の社外取締役就任は断腸だんちょうの思いだったのだろう。早くも派閥を組んで敵対してきている。はらわたえくりかえる思いだ。……そのまま、ヤツらのはらわたをぶった切ってやろうかと思ったぐらいだ」


 思い出すだけでフラストレーションが溜まるのかな?

 姉御の身体の周りを、神通力が荒れ狂っている。


 物を壊さないようにしながら、姉御の周りの物が台風のように風巻いているんすけど……。


 相変わらず、人間離れした神通力操作の上手さだなぁ。

 俺には真似出来ないや!

 壊すのは得意なんだけどね。


「しかし、ダンジョン庁長官として国民の為にも、開拓配信企業の隆盛りゅうせいを願うオーナーとしても、だ。見捨てる訳にはいかん」


「姉御の不器用な責任感、好きっすよ」


「……ふん」


「その常時、不機嫌そうで鋭い目付きを何とかすれば、もっと色んな人に不器用な優しさも伝わるでしょうに」


「……そんな顔、していない」


 いや、してるっすよ?

 ぶっちゃけ、野生の熊と檻無おりなしで出会った気分ですもん。


 あ、ほら。

 姉御も気になったのか、チラッとスマホをミラーにして、自分の表情を確認した。


 うん。

 少し凹んだな?


 眉尻が下がって、目に寂しそうな光が宿った。

 自分でも、『怖いかな? これ、怖いよな……。威圧的だよな』って結論に至ったのかもしれない。


「姉御! 伝わる人には伝わってるんで、大丈夫っす!」


 笑みを浮かべ、サムズアップする。

 姉御は悔しそうに唇を噛み締め、獰猛どうもうな目付きを俺に向け直した。


 うおぉ……。

 目が神通力で光ってる。

 こえぇえええ!

 暗いところで撮った猫の写真みたいに、目がギラギラだ!


「……成さねばならん。だが、私1人では正直、生まれ変わりに時間が掛かりすぎる。その間に、どれだけの犠牲が生まれるかも分からん。そこで――だ。絶好の逸材がいるじゃないか」


「あ~あ~! 聞こえません!」


 そこで最初の話に戻ってくる訳ね!

 俺にも、一緒に地獄へ来い、と!


 聞こえないと主張するように、俺は両耳を手で塞ぐが――。


「――また、高い高いをして欲しいのか?」


 威圧的な姉御の声が僅かに手の隙間から聞こえた瞬間、ビシッと気をつけをした。


 仕方がないなんだ……。

 姉は怖い、逆らってはいけない暴君。

 これはもう、魂魄に刻みつけられている条件反射なのだから。


「ふぅ……。私とて、向琉に強制をするつもりはない。だが実際、深紅と向琉の問題もある」


「問題っすか。確かに、アイドルである深紅さんが恋は、避難の声もあると思いますが……」


 もう、それは配信内で暴露したに等しいからなぁ。

 もっと炎上するかと思ったけど、状況的に仕方がないってのが、世間の声だ。


 勿論、批判の声もあるけど……。


 多感な年齢で、何度も命を助けられたなら恋ぐらいする。

 恋は熱病のようなものなんだから、健全な女子校生を責めるのは酷だって風潮だ。


 それ程、危機感を持つものじゃないかな~と思うけど……。


「向琉が深紅に手を出すかもしれないからな。深紅が高校生にも関わらず」


「俺の信用、なさ過ぎぃいいい!?」


 高校生に手を出す26歳とか、ニュースになってもおかしくないわ!

 それぐらいの節度、持ち合わせとるわ!


「絶対に無いと、断言が出来るか? 私が言うのもなんだが――深紅は、愛が深いぞ? おそらく、年齢の壁など愛の前では関係ないと、ガンガン攻めてくるタイプだ」


「う……。それは、そうかもしれないっすね」


 朝になると、深紅さんが必ずやってくる。

 7時前に訪問するのは失礼と思っているのか、7時ジャストにインターホンが鳴る。

 そっと郵便受けから覗いてみたけど、6時45分にはドアの前で髪型を整えながら待っていた。


 理性を吹っ飛ばすような、過激な服装でトレーニングを見てくれと言われた事もある。

 真剣にトレーニングをしているからこそ、ふっと休憩で見せる柔なかな笑み。


 そのギャップと努力の証である汗が流れる姿にドキッとしなかったと言えば、嘘になる。


 美尊と言う優秀なガーディアン、川鶴さんや涼風さんと言う監視者がいなければ、理性の牙城も崩壊していたかもしれない。


「……深紅は壁を超え、これからもっと伸びる。美尊も涼風も、だ。積み上げて来た確固たる足場をバネに飛躍的に、な。――だからこそ、依存にならない頼る程度の距離から見守り、自立して伸びるのを促す事が必要なのだよ」


「確かに、これから一気に伸びそうだなぁ~とは、思ってました」


「そうだろう? それに旭プロへの移籍とは言っても、内部改革や自浄作用が働き始めるまでの短期的なものだ。……私としても、向琉を完全に手放す気は毛頭もうとうない」


「……姉御」


 そっか。

 そこまで……期待を込めて、俺を頼ってくれたんすね?


 開拓者全体。深紅さんを始めとする面々。そして俺の社会的な立場の為。

 姉御も苦渋の思いで提案したんだ。

 だったら、俺も感情任せで我が儘を言うのはやめよう。


 涙を飲んで、旭プロに――。


「――レンタル移籍中は、別の場所に部屋を用意する。美尊たちと、寮も離す」


「超、断ります」


 美尊と半同棲状態の天国を、離れろと!?

 とんでもない!

 シスコン、なめないで欲しいっすね!



―――――――――――

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