第209話 これ、どう思います?

「――と言う訳で、久々の飯テロ配信です!」


〈うおおおおお〉

〈Aランクボスのサイクロプスを倒したやつが、今更Dランクダンジョンw〉

〈毎回、隠れ家の設備が本格的になってるんよなw〉

〈お兄様ぁあああ!〉

〈おい、ついに寝袋どころか簡易ベッドまで土魔法で作りやがったぞw〉

〈やっぱ10年間、ダンジョンに住んでたんだしな。偶には地下へ戻りたくもなるんだろw〉


「いやぁ……。そうなんすよね。早く道場に戻れると良いんですけど……」


〈あ……〉

〈思い出させちゃった? ごめんね〉

〈そっか。Sランク領域にあるから、まだギルドの制限で行けないんだもんな〉

〈育って来た場所を、少しでも思い出したいってことか。軽率な発言だった。ごめん〉


「はい。まだ行けないし、行く訳にもいかないんですよ。……あの環境で育てたこけの方が、美味しかったのに」


〈苔かよwww〉

〈そっち!?〉

〈ダンジョンに生える苔の違いとか、分からんわw〉

〈シリアス返せwww〉


 そんな事を言われましても……。

 俺にとっては、生き残れた思い入れのある食材。

 言ってしまえば、第2の母の味だからなぁ。


「ここでも、同じ光魔法を使ってるはずなんですけどね~……。やっぱり、魔素濃度の違いなんですかね? ちょっと味が薄くて歯ごたえないんですよ」


〈知らんわw〉

〈やっぱ、ちゃんとアタオカ先輩でしたねw〉

〈これが人類の食糧事情を改善するとは、この時まだ誰も知らないのであった〉

〈↑割とありそうで怖いwww〉


 このダンジョンは、俺が10年間閉じ込められてたSランクダンジョンと、魔素濃度が格段に違うからなぁ。

 そんな所の食材を、ず~っと口にしていたから、俺の肉体組成も人間離れした説はあるけど。

 世界一の大企業、マルチバースの天才科学者、エリンさんが言うんだし、可能性は十分にあるよなぁ~。


 確かに、ジジイの遺骨も埋葬し直したい。

 道場には、置いてきた大切なものやら、天心無影流にとって稀少な品々が収められた蔵もある。


 それは俺の新たに芽生えた野望において、絶対に取り戻したいものなのは間違いない。


 でも、俺はまだ――。


「――仮にSランクダンジョンへの入場許可が降りたとしても、俺はまだ道場には帰る訳にいかないんッす。……決意したことがあるんで」


〈決意?〉

〈決意ってさ、オークを調理しながら話すもんじゃないと思うんだw〉

〈雰囲気がブチ壊しwww〉

〈食物連鎖、弱肉強食の宿命だなw〉


「さぁ、軽食を作り終えました! 本格的な食事は、後でミノ肉を採集してから作るとして……。いただきます!」


〈ミノタウロスさん、逃げて! 超逃げてぇえええ!w〉

〈ケバブかぁ、美味そうだな(遠い目)〉

〈ねぇ、ミルを使わずにコーヒー煎れてませんでした? あの粉末、どうやったんです? 持ちこんだのは、豆でしたよね?〉

〈↑お、初見さんか? その理由は、あたおかだからだ!〉

〈↑意味分からないだろうけど、この言葉で全ての説明がつくw〉

〈すいません。全然理解が出来ないんですが……。私の理解力が、おかしいのでしょうか?〉

〈↑正常です〉

〈あたおかに関しては、常識は非常識なんですよwww〉


 む、失礼な。

 姉御は、もっと細かく均一な粉末にしてたのに。

 やっぱり神通力の操作も含めて、姉御のように繊細な技巧には至れてないなぁ。


 ダンジョンで生き残る中で、俺は白星の指導を受けてたからな~。

 魔力にばっかり特化した修行だったし、破壊力ばかり鍛えられてしまった。

 逆言うと、まだまだ俺には技巧とかで伸び代があるってことッすね!


「実はですね~。今日は大切な相談と言うか、報告があるんですよ……」


〈はい、そう言う展開だよねw〉

〈もう飯テロと言う名前の、報告相談枠化してるもんなwww〉

〈お兄様と深紅さんの結婚報告とかなら、AEDじどうたいがいじょさいどうきを装着するまで待ってください〉

〈↑気持ちは分かるけど、あんたは揺るがねぇなw〉

〈↑今日はトイレネタじゃないだけ、マシだろwww〉

〈深紅ちゃんとの交際報告とかなら、俺もAEDを装着するわ〉

〈ワイはもう、覚悟決めてタオル準備した。涙が溢れても、これで平気〉

〈美尊ちゃんが妹で、深紅ちゃんが恋人とか。前世でどんな善行積めばそうなるんだよ〉

〈↑Sランクダンジョンにいきなり10年間閉じ込められて生き残れば、今生でそうなるみたいだよ。知らんけど〉


 勝手に勘違いで話が進んでる!?

 みんな、深紅さんが女子校生ってことを忘れてない!?


 叩かれると思ってたから、そう言う声が少ないのは嬉しいけど……。

 勿論もちろん、自動読み上げ機能に偶然拾われてないだけで……。

 深紅さん推しっぽい人は、痛烈に俺を批判するコメント連投してるがね?


 今の話は、違うのよ。

 もっと開拓配信者活動に関わる話なの!


「あの……ですね?」


 コメント欄を覗うように顔を少し伏せ――配信ドローンについたカメラと、流れるコメントを見詰める。


〈イケメンの上目遣いはズルいぃいいい!〉

〈あぁあああお兄様の幸せは私の幸せお兄様の幸せは私の幸せお兄様の幸せは私の幸せお兄様の幸せは私の幸せお兄様の幸せは私の幸せ!〉

〈不安げに揺れる瞳、きゃわわ〉


 ああ、皆は――どんな反応をするんだろう?

 言うのが怖いけど……言わねば!


「――俺が旭プロに移籍すると言ったら、皆さん、どう思います?」



―――――――――――

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