第158話 賞詞?ほえ?

悠兄ゆうにいが国際テロ組織に居る? 何の冗談ですか?……あ、もしかして内通者ないつうしゃってのは、悠兄なんですか? そうなんですよね?」


 矢継やつばやに尋ねてしまう。

 聞き捨てならない言葉に、居ても立ってもいられない。


「悠斗は内通者ではない。……あいつがマタドス迷宮連合に居る事も、別の内通者から聞いたのだ」


「そ、そんな……」


「あいつが何故、国際テロ組織なぞに属しているか……。それは分からん。だが1つだけ察する事がある」


「察する事?」


 姉御はシャンパンで口を潤す。

 そうして俺の目を見て――優しい表情で口を開いた。


「悠斗のアホは――恐らく、私と同じだ」


「……え?」


「私が表から師範や向琉を探していると察したのだろう。あいつは裏から……とでも考えていたんじゃないか? 少なくとも悠斗は1度――私の前に尻尾しっぽあらわしている」


「尻尾を顕している?」


「そうだ。向琉がドッペルゲンガーと戦う時、美尊の配信で高額のスーパーチャットをした者を覚えているか?」


 そんなの、あったっけ?

 自分の配信枠じゃなくて美尊の配信だったから記憶が……。

 唯でさえ人類に絶望仕掛けていた時だったし――……ぁ。


「もしかして『逃げろ』って言った人、ですか?」


「そうだ。……『そいつは我ら強者の天敵だ』とな。尻尾を掴まれる事も厭わず、忠告せずにはいられなかったんだろう。それだけ今も向琉を大切に想っていると言う事だ」


「姉御は……あの時から、察してたんですか?」


 あの時、姉御は――世間から大批判を浴びて、心身共に弱り切っていたはずなのに。

 ほんの少し、顔も見えないコメントの違和感から――悠兄の可能性に辿り着いたと?


「うむ。まぁ本体を捕まえられずに居るが、な」


 少し無念そうに言った所で、次の料理が運ばれてくる。

 1度話を切ってしまうと、もう悠兄の話は切り出しにくい。

 姉御としても、これ以上話す事はないのか――別の話題を切り出して来た。


「向琉。スタンピードの件は私も助けられたが――2度と、規律違反をするな。これは職権を持って命じさせてもらう」


 強い語調で語られた言葉には、重みがあった。

 絶対に守ってくれと言う意思が籠もっているようだ。


「最初の違反は――前代未聞ではあるが、被災でやむを得なかった。2度目はスタンピードを収めた功績こうせきにより、何れも情状酌量じょうじょうしゃくりょうの余地による減刑で罰金に抑えられた。だが以前にも説明したように、開拓者は罰則が重くなる」


 う……。

 開拓者は魔力とか特別な力を持つからやむを得ない。


 だけど――我ながら、規律違反やりがちだからなぁ。


 俺、自分で自分が信じられないからなぁ……。


「次は開拓者資格の停止や降格だけでなく、懲役の実刑判決となってもおかしくない。……私の職権、首を犠牲にしても――何処まで減刑出来るが分からない」


 メインディッシュの肉料理が運ばれてくる前に、皿が下げられた。

 空いたテーブルを見詰め、俺は俯いてしまう。

 俺……ルールを破りがちだからなぁ。


「Sランクダンジョンへも至れるBランク開拓者になってくれれば、憂いも消える。だが通常ならばBランクなど毎日ダンジョンへ潜っても最短で5年はかかるものだ」


「う~ん……。でも、やっぱり早くBランク開拓者にならないとですねぇ……。Dランクに上がったぞ~って胡座かいてないで、頑張ってBランクに上がるように頑張るべき……っすよねぇ」


「私とて7年でAランクなのだぞ? それに……だ。既に最大限頑張っている者に、頑張れなどと無意味な事を私は言わん」


「姉御……」


 その言葉は嬉しく思う。


 でも、それまでに――自分のランクでは罰される所で、何かがあったら。

 それこそ今回の姉御のようなピンチがあったり、道場がどうこうなると言う情報があったら……。


 俺はルールを遵守出来るだろうか?

 悩んでいると姉御は、足の右下に置いていた鞄から何かを取り出し――。


「――賞詞しょうしを与える」


「……は?」


 そんな事を言いだした。


 賞詞?

 それって手柄を立てた人を褒め称えるものだよね?

 あ、あれか。

 深紅さんが危ない所を、救ったから私が褒めてやる……的な?


「防衛大臣よりスタンピードでの災害派遣、及び安全防衛に多大なる貢献を果たした栄誉を称え、第5級賞詞と防衛功労賞ぼうえいこうろうしょう。そして防衛記念賞ぼうえいきねんしょうを授与する」


「ふぁっ!?」


 姉御が取り出しのは、額縁がくぶちに入った賞状とメダル。

 そして……なんか自衛官とかが左胸に縫い付けているリボンのようなものだった。


 え、突然、何!?

 これって、凄い奴じゃないの!?

 何か徽章きしょうがギンギラギンに輝いてるし!

 ちょっと怯えながら、姉御から額縁を受け取る。


 あれかな、俺だと汚すと思って――予め額に入れて一纏めにしてくれてた?

 流石っす!

 料理のソースをつけて帰る可能性もあったと思う!


「あ、姉御……。これって、権威けんいとかそれなりにある代物なんじゃないんすか?」


「……通常、特殊予備自衛官に与えられるようなものではない。退官まで長年勤め上げた者でも、そうそう身につける者はいないような徽章だな。大々的に表彰するのは嫌がると思い、今回は私が委任を受けて与えたが、な」


「そ、そんな大層なものを、俺に? 姉御……。もしかして上層部に無理して働きかけたんじゃ――」


「――金にはならないが、国レベルで認められた者だと言う信用にはなる。まぁ……多少の無茶をやらかした時、軽い盾にはなるだろう。本来は栄誉をけがさないよう模範的な振る舞いを求めるものだがな」


 表彰をルール違反の盾代わりに使うとか、自衛官として頑張っている人が聞いたら……キレるんじゃない?


 でも……そっか。

 姉御は――俺を守る為に、このように権威みたいなのを用意してくれたのかもしれない。

 同じ罪を犯しても勲章を持っている人は丁重に捜査を受けるって聴いた事もあるしね。


 とは言え、またルールを破るのは避けよう。

 姉御が自分の首をかけるとか言ってたし……。

 そこまでの迷惑をかけたくないから。


「姉御、ありがとうございます」


 姉御が俺を守ってくれるという想い。

 そして――これからも人の世を守ってくれと言う願い。

 助けられたという感謝。

 その他にも様々なものが載っている、重い物だ。


 大切に受け取り――置き場に困る。


「……姉御、帰りまで持っててくれませんか? 流石に地べたへ置く訳にもいかんでしょうし……」


「……うむ、仕方ないな」


 受け取った額縁を、そのまま返す。

 なんでこう……。

 格好良く決まらないかなぁ……。



―――――――――――

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