第159話 俺の……完全に忘れてた
そうしてメインとなる肉料理が運ばれて来た。
料理に合うお酒を事前に頼んでいたのか、赤ワインと一緒に。
最初の一杯は、ウエイターさんが注いでくれる。
そして姉御は、堅苦しいものは済んだとばかりに――。
「――おめでとう、向琉」
「え? ありがとうございます?」
おめでとうって……さっきの賞詞授与かな?
それを記念してディナーに誘ってくれたのか?
「何故、祝われているのか分からない。……そんな顔だな?」
「いや、あの……。さっきの功績を称えて~って奴ですよね?」
「違う」
違うの!?
じゃあ何!?
マジで分からない!
「……そうだな。少々、意地が悪かったな。あと約2週間後……。11月の11日は、何の日だ?」
11月の11日?
えっと――……ぁ。
その日は……。
「俺の、誕生日?」
「そうだ。向琉が26歳の誕生日を迎える当日は、美尊と過ごすだろうからな。少々早いが……成人した向琉の誕生日を祝い、一緒に酒を飲み交わしたかったのだ。……やっと願いが叶ったな」
姉御は赤ワインへ美味しそうに口を付け、微笑む。
10年間――絶望的だった生存。
そしてアルコールを飲める年齢になってから、6年間。
恐らく――それぐらい長い年月越しに、遂に叶えられた願いなんだろう。
だから今日は、これ程に嬉しそうなのか。
「防衛大臣からの賞詞だけでは味気ないからな。私からも気持ちばかりだが……祝いにこんなものを用意した」
姉御は、また鞄を開くと――今度は、アルバムのようなものを数冊取りだした。
随分と分厚いな。
そうして、姉御はページを開くと――。
「え……美尊? それも、小さい頃からの姿……」
空中に美尊の姿が、3Dホログラムとして映し出される。
僅かだが、動いてもいる。
「マルチバース本社の変態――開発・技術局長に頼み込んでな。特別に作ってもらったんだ。写真があれば、このように立体映像として映し出せる。美尊の成長録を、私はスマホカメラで収めていたからな」
「俺が地下に潜って観られなかった期間の……美尊の姿が、こんなリアルに……」
「まだあるぞ? こっちは――」
「――兄弟子、ジジイ……」
「更に、だ。収められた写真を、左から右になぞると――」
『向琉。誕生日、おめでとう。常在戦場の心を忘れるな』
「――……ぇ。ジジイの声、なんで!?」
「これも、あの変態の技術だ。いくつかのボイスサンプルがあれば、インプットした音声を流す事も出来るらしい。まぁ……師範や弟弟子たちが言いそうなボイスメッセージを、私の方で頼んでおいた。多少、向琉のイメージと違っても許してくれ」
ゆ、許すも何も……。
こんなの――感謝しかないよ。
もう2度と、声も姿も聞けないと思っていたのに……。
「あり、ありがとう……。ありがとう、ございます」
日付感覚が無い状態が長年続いてたから……。
すっかり自分の誕生日なんて忘れてた。
それでも姉御は大切に覚えていてくれて、こんなサプライズを用意してくれていたのか……。
もう――涙が堪えきれないぐらい、嬉しい。
嬉しくて嬉しくて、呼吸が出来ない……。
「あ、姉御……。本当に――ありがとう、ございます!」
「そう泣くな。……泣いては折角の肉の味も、ワインの味も分からないだろう」
今日は何時ものように常在戦場とは言わないんだ……。
本当に、特例の日なんだな……。
「はい、すいません……。姉御、俺を地下から救い上げ、受け入れる場所を整えてくれて……。ホントに、ありがとうございます」
「向琉がした苦労に比べれば、何もしてないのと同義だ」
そんな事は、決してない……。
俺は割と早い段階で――白星が魔力の使い方を教えてくれたから、安全に生きていた。
ジジイが魂を捧げて張った結界に守られてもいたし……。
本当、俺は守られてばかりだ。
俺も――誰かを守りたい!
恩返しを、人の世でして行かなければ!
―――――――――――
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