第160話 俺のせいじゃねぇかぁあああ!

「姉御……。俺、旭深紅さんを守らなければ、なんですけど……。どうすれば良いとか、アドバイスありますか?」


「ああ。会見のアーカイブを後から見返した。……旭柊馬に関して、更に深く調査をせねばと再認識させられたが。……確かに深紅が自衛の手段を得ると同時に、俺が守る的な意味合いを含む発言もみられたな」


 姉御は難しそうに考え込む。

 そうして銀食器を見詰め――ハッと、顔を明るくした。


「向琉。明日潜るダンジョンは、もう決めてるのか?」


「明日ですか? 取り敢えずBランクって事しか決めてないですけど……」


「そうか、ならば――良いBランクダンジョンがあるぞ。少し遠いがな」


 それは良いんだけど……。

 なんで、ここでダンジョンの話を?

 そう思いながら、姉御から情報を聞いて――。


「――成る程。それなら俺も、過保護にず~っと付いてなくて済む。それに自衛力向上も促せますね!」


 姉御が知り合いから得たという情報を聞いて、それは名案だと脳の靄が晴れていく。

 問題は、その目的を俺が果たせるかどうか……だけど。

 まぁ――そこは頑張りましょう!


「そう言えば、深紅さんで思い出しましたけど……。姉御、あの襲撃者の取り調べに参加してたんですよね? 動機どうきとか凶器きょうきは何だったんすか?」


 俺が聴くと、姉御は――口に運んでいたフォークをピクッと止めた。


 あれ?

 聴いたらマズかった?


「ん、いや……。まぁ……動機か? それは、過去の恨みだな。数年前――行き過ぎた過激な言動から深紅と川鶴が話し合い、ブロックをしたユーザーだった。IPアドレスから本人も特定して、裁判で懲役へと持ち込んだレベルの、な」


「え……それじゃ、逆恨みですか!?」


「うむ。……1年の刑期を終え、出所していたらしい。本人ごとイベントに参加出来ないよう対処したのだが……。それでも裏ルートから偽造保険証ぎぞうほけんしょうまで手に入れ、他人に成りすましてチケットを手に入れたようだ」


「う、うわぁ……。そこまでしますか? 俺と美尊の件で炎上してた時、姉御が場当たり的に排除しても事態を悪くすると言ってた意味、分かりました」


 あの時、誹謗中傷してくる者を排除していたら――最悪、同じようになっていたのだろう。


 俺に来るだけなら良いけど、美尊や姉御の職場を襲撃されたら……。

 うん、最悪だな。


「偽造身分証を流通りゅうつうさせた取締りの甘さも頭が痛いがな。……害する意図を持つ厄介な個人を場当たり的に排除しようとした、当時の事務所側のミスでもある」


「そこまでしたのに、彼は開拓者として復帰が出来たんですか? 戦闘慣れした動きでしたけど……」


「開拓者資格も、司法しほうの定めた刑期を終えたからには復活させざるを得ないのだ。犯罪者だろうと社会復帰を拒む事は法律上、出来ない。……行き過ぎた人権屋じんけんやが黙っていないのが、社会だからな」


 成る程……。

 通常より重い刑罰が加わる開拓者とは言え、刑罰を終えたら通常通りに扱えと。

 それは――一部の開拓者にはありがたいけど、意見が分かれそうだなぁ……。


「それは、大事に至らなくて良かったです」


「うむ」


「――所で、凶器は?」


 ガチャッっと、姉御がナイフを床に落としてしまった。

 姉御は動揺しながらもウエイターさんを呼び、新しい物に交換してもらっている。

 え、凶器に――何かあるの?


「姉御……。凶器は?」


「う、うむ。どうやら、モンスターの神経毒を持つ牙を自分で加工したらしい」


「へぇ。それは上手い手段ですね。俺でもそうやって――……。あれ?」


 あれ?

 ちょっと待てよ?

 モンスター由来の神経毒で動きを鈍らせ、闇魔法で五感を奪う手法?

 これ、何処かで……。


「あ、え!? これ、俺が最初の相談枠で、モンスターの捕獲方法を聴かれて答えたアレ!? え、あの時の質問者……まさか!?」


 あれ、今回の犯人だったの!?

 ま、まさか……そんな事はないよね!?


 姉御は――天を仰いでいる。

 その反応――マジッすか?


「……向琉は、犯罪に加担した訳でも教唆きょうさした訳でもない。そうだな? そうだよな? そうであれ。……あくまでモンスターの捕らえ方をレクチャーしただけだ。知識を悪用する方が悪い」


 その言葉が――全てを物語っていた。

 Bランク開拓者である実力者の深紅さんが、あっけなく掴まりかけるような策。

 今回の騒動が起きた原因って――。


「――俺が原因じゃん!? うわぁあああ!? 絶対、守らなきゃ!」


「ちょっ……。向琉、いくら個室とは言え、声を抑えろ!」


「深紅さんに謝っても謝りきれないよぉおおおおおお!」


「き、気持ちは分かるが……声を抑えろ! あ、すいません。今すぐ黙らせるので――」


 その後、取り乱していた俺は――数分間、意識を消失した。


 気が付けば、何食わぬ顔で姉御と食卓を共にしていたというミステリー。

 いや……ホラーだな。


 姉御がサプライズで用意してくれたバースデーケーキも、苦笑しながら2人で食べました――。



―――――――――――

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