第6話 姉御ぉおおお!?(3)

「まず開拓者かいたくしゃだが……。向琉あたるの言う通り、管理が必要だ。資質に目覚めた者が成長するには、ダンジョンに入り、経験を蓄積する事で資質をみがくのが有効だと言われている。成長速度や限界値は、人により差があるようだがな」


「なんか、ゲームみたいですね」


「こんな実際に人が死ぬゲームがあってたまるか……。まぁなんだ。最近は少々、ダンジョン災害を忘れた若者を中心に、そんな気構きがまえになっているのも否定は出来んがな」


「それは……不謹慎ふきんしんでした」


「良い。我々ダンジョンちょうや、世界ダンジョン機構きこうの責任でもある。……軍事開発が先行していると話したな。それは開拓者の能力にある。資質に目覚めたが開拓者として登録しない者は、一般人同様に生活がおくれる。だが開拓者登録して、1度でもダンジョンに潜ると――予備自衛官よびじえいかん、国によっては予備役よびえき扱いになる。災害時に覚醒者となった者には例外も存在するが、最短でも13歳……資質のある物が通う学園中等部1年生以上でなければ、開拓者登録は出来んがな」


「つまり、国の戦力になるって事ですか……」


「その通りだ。だからこそ、高ランクの開拓者は――国家の軍事力として重宝ちょうほうされる。概算がいさんではあるが、Cランクで最先端装備さいせんたんそうびで武装し鍛え上げられた兵士レベル。Bランクで10~数百人の兵士扱い。Aランクで千人相当。最上級のSランクに至っては、かくと同様に戦略兵器扱いだ。罪を犯せば一般人よりはるかに量刑りょうけいも重くなる」


「それは……一般社会で暮らすには、周囲が怖がりそうですねぇ」


「うむ。だがAランク開拓者は世界でも、たったの50人超。Sランクに至っては3人しかいない。我が国の最高戦力はAランク開拓者。それもたったの2人だけだ。……パーティを組めば、もう少しランクは高くなるがな。まぁ、狭くて連携の取りにくい場所もあるダンジョンだ。俗に言うダンジョンボス戦を除けば、ソロの方が利点も多い」


 なんか、人を軍事物資ぐんじぶっし扱いしているようで嫌だなぁ……。

 それだけ人外じんがいの存在という事か。


「ランクは最下級のFから順にE、D、C、B、A、Sと上がって行く。開拓者ギルドが発行する開拓者カードに所定しょていのポイントを溜めることで上昇していくシステムだ。討伐モンスターの強さ、そして持ち帰った資源物資や素材によりポイントが自動加算されていく」


「ランクを上げる事に意味があるんですか? 恐怖心と戦争への参加とか……。良い事が無さそうなんですけど」


勿論もちろん災害派遣さいがいはけんや支援、軍事的な責務せきむは発生する。だが開拓者は、危険度が3階級以上高いダンジョンへは潜ってはならないのが国際法で定められている。パーティであってもだ。……危険なダンジョン程、モンスター素材や資源の稀少度きしょうどは高い。要は――金になる」


 金かぁ……。

 金の為に他の全部を犠牲にするのも……なんかなぁ。

 俺は再会した妹と平和に暮らせればそれで良い。

 あれ? 俺の妹――美尊みことも開拓者じゃなかったっけ?


「それに、だ。国防こくぼう――国民を守る観点から言っても、自国に高レベルの開拓者がいるのはメリットがある。再びダンジョン災害が起き、モンスターが地上へとあふれ出した時――対処できる者が存在するか、しないか。それは大きな違いだ。ダンジョン系テロ組織の活動阻止という役割もある」


「成る程。……攻め込むだけじゃなく、平和と安心を守る為の戦力保有ですか。それならギリギリ分かる気がします」


「うむ。そしてエンタメだがな……。発端は、ダンジョン内部の不透明ふとうめいさから生じる恐怖だ」


「恐怖、ですか?」


「ああ。果たしてどんなモンスターがいるのか。本当に人が戦っていけるのか。多大な犠牲を出した存在の実態を、知る事が出来ない。それなのに元凶げんきょうは、その辺に山ほど転がっている。そんな生活は――不安と恐怖で、精神が押しつぶされるだろう?」


 それは確かに。

 自分たちの生活を滅茶苦茶めちゃくちゃにした存在がそばにあるのに、こちらは何も知ることが出来ないというのは、怖いかもしれない。


「だから流行ったのが――開拓者によるダンジョン開拓配信かいたくはいしんだ」


「つまり――戦う力や実情を見せつけると共に、ダンジョン戦闘をエンタメ化する事で、恐怖心を和らげて身近な物にしようとした、と?」


「ああ。開拓者を人間兵器ではなく、親しみの持てる存在にしたいという思惑もあったそうだがな」


「納得しました。だから美尊は、ダンジョン配信をやってたんですね!」


「ああ。美尊は私の――シャインプロモーションに所属する企業配信者だ」


 え、姉御がオーナーをしている会社に、美尊が所属している?

 だ、大丈夫なの、それ? 姉御に馬車馬ばしゃうまごとくこき使われているんじゃ……。


「安心しろ」


 フッと、姉御が微笑んだ。……なんだか少し、うれいをびて見える。


「うちの方針は――安全第一。堅実に、自分のランク以上の場所には挑ませず、地道に実力を高めさせて行く方針だ。……、な」


「それは……姉御が天心無影流を指導する時に大事にしていた事と、一緒ですね」


「その通り。……金儲かねもうけに目が眩み、無謀むぼうな挑戦をさせる事務所も多いのは、残念だがな」


「姉御がそっち系の経営者じゃなくて安心しましたよ」


「当たり前だ。その代わり、うちはアイドル売りで金を儲けている」


「おい」


 結局、金儲けはしてんじゃねぇか!

 姉御の人情とか優しさに感動した俺の気持ちを返して欲しい。

 という事は……うちの美尊もアイドルなの!? えぇ……。嬉しいような、色んな男に恋されると思うと嫌なような……。複雑な気持ちになるんだけど。


「なお、向琉あたるにも私の事務所でダンジョン配信者――ダンライバーをしてもらう」



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