第107話 スタンピードの始まり

 迎えた翌朝。

 俺は美尊と一緒に朝食を食べ終えると、2人で健闘を祈り合い、持ち場――1つめのダンジョンの階段下へ広場へとやって来た。


「うん。1日休んで、今日は絶好調!」


 今日のスタンピードで神通力や魔力が枯渇したら困るからと、昨夜は配信を行わなかった。

 それもあってか――身体が軽い!


「まだモンスターは来なそうだし……。ドローン動力源の魔石と、ルートを確認しておくか」


 魔石は一応、ドローンを動かすのにエネルギーが枯渇した場合に備えて複数用意してある。


 実際には短時間の勝負だけど……。

 一度戦闘が始まれば、モンスターを魔石に変えてから動力源を取り替える時間も惜しい。


 姉御から送ってもらったダンジョン分布が載った地図で、次に向かう場所もチェック済み。

 GPS機能もあるし、便利な時代になったもんだ。

 ナビ機能は、空を神通足で跳んでいく俺には無意味だけど……。

 道路じゃなくて、空を跳んだ場合のルートも作ってくれないかな?


「――お、始まった気配がするな」


 ダンジョンの奥で、大きな魔素の塊が動いている気配を感じた。

 よし、配信リンク式腕時計を操作して……っと。


「皆さん、おはようございます! 今日は垂れ流し配信でお送りする大神向琉です!」


〈1こめぇえええ〉

〈え、お兄様この時間ゲリラ配信? どうしよ職場のトイレ出られない〉

〈あたおかぁあああ! 昨日は急な配信キャンセルどした!?〉

〈体調不良か? 無理すんな?〉

〈垂れ流し配信? あたおかが開拓に集中する程の何かって事か?〉

〈垂れ流しにするのは配信に気を取られてる余裕も無い場合だし、そうだろうな。或いは姉御の悪事を衆目しゅうもくさらす為に垂れ流しておくか〉

〈↑それは応援したいけど、大宮愛は地上だろ? 地上でドローンとか不審すぎるw〉

〈それでぶっちゃけ、なんで垂れ流しなの?〉


「ちょっと各地のダンジョンで、異常が起きてるみたいでしてね?」


〈まさかダンジョンピード!? あたおかも配信するの!?〉

〈ああ、そう言えば警報が出てたっけ?〉

〈スマホに警報が届いてたよ。避難行動の確認をしてくれって〉

〈それでも日本人は、今日も仕事と学校の平常運転。俺は今日、休みだけどw〉

〈↑無理すんなよ。この時間も暇なニートだろ? 俺も同じだからさw〉


 ダンジョンピードか。

 成る程。ダンジョンで起きるスタンピードだから、ダンジョンピード。

 分かりやすい造語だな。


「今回はダンジョンの活性化ペースが異常な上、高ランクダンジョンが一斉にヤバいみたいでしてね……。通常なら、ランクが1個下を複数人数で任されるらしいんですがね? 俺は――なんと、Cランクダンジョンを5カ所も任せて頂きました!」


〈はあああ!? 1人で!?〉

〈いやいや! ダンジョンピードって300体以上のモンスターが一斉に動き出すんでしょ!?〉

〈あたおかなら数は余裕だろうけど、同時に複数を任されるとか何!?〉

〈1箇所クリアしたら即座に次へを繰りかえすって事!?〉

〈ナニソレ無理ゲー〉


「はい、そういうタイムトライ的な事情で、コメントを拾う余裕が無いので……。今日は垂れ流し配信とさせていただきます!」


〈それは垂れ流しにもなるだろうけど……。外に自衛隊配備されてるよな?〉

〈もしもがあったら俺、死ぬんだけど。え、何処に避難すれば良いん!?〉

〈うわ、マジかよ。政府馬鹿じゃねぇの!?〉

〈まず『あたおか』1人に5カ所任せるダンジョン庁とギルドがヤバい。大宮愛ふざけんなよ〉

〈お偉いさんは高見たかみ見物けんぶつかよ。良い身分だな! どうせ自分たちは避難してんだろ!〉

〈お兄様ぁあああ! 私は信じてます。トイレから雄姿ゆうしを見守ってますううう!〉


 コメント欄も流石に混乱しているな。

 姉御を叩くコメントが結構あるのは気になるけど……。


 事情を知らないなら、仕方がない。

 トイレから出て普通に過ごしてもらうためにも、少しは安心出来る説明をしておくか。


「俺も無策ではないです。と言うより、うちのマネージャー兼社長の川鶴さんが提案してくれた策に一工夫をして……仕込みは既に終わってます! 後は調理するだけ!」


〈ダンジョン飯みたいに言うなwww〉

〈あの不憫ふびんな雇われ若社長か。仕込みってなんだ?〉

〈まさか爆発物とか? いや、爆発物を絨毯爆撃じゅうたんばくげきさせたら、地上が終わるな〉


 色々と予測が飛び交っているな。

 これもエンタメ的にはありなんじゃないだろうか?


 あれこれと本番前に議論が白熱するのは、格闘技やスポーツの試合と似た盛り上がりを感じる!

 とか考えてたら――モンスター集団先頭の姿が見えてきた!


「お、来ました! それでは皆さん――ミュートをお願いします!」


 俺は配信リンク式腕時計を操作し、BGMで俺のイメージソングを流す。

 これで配信には――マイクが拾う俺の声などの音は乗らないはずだ。


〈え、ミュート?〉

〈あ、察した〉

〈え、何々?〉

初見しょけんさん、だまされたと思って早くミュートにするんだ!〉

〈訳分からん〉


 コメント欄には初見しょけんさんが多いのだろう。

 それでも俺は――ダンジョン内に集中させてもらう。


 俺の姿を認めたモンスター集団が一斉に襲いかかってくる。

 先頭のモンスターを颯爽さっそうと仕留め、その身体を魔素へと霧散させる。


「まだだ……。もっと全体が広場一帯に来る迄、引き寄せろ……」


 そうしてしばらく、地上へと繋がる上り階段を前に戦闘を続け――300体ほぼ全てが、密集するように押し寄せて来た!


「よっしゃあああ! モンスター共、俺の全力ソングを聴くが良い!」


 そうして俺が公式イメージソングを歌うと――落盤らくばんがモンスターの群れを押しつぶした。




―――――――――――

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